第36話 対策会議 ③

「対策を練る前に一つ確認しなくちゃならない事があるんですけど……」


「そもそもあんたら二人が『本物』である証拠を提示してもらいたい」


「な!」


 閻魔大王達に対する黒崎の無礼な発言に、その場の死神達が感情をあらわにする!


「おい! 貴様!」


「いくら何でも失礼だぞ!」


 会議室内に怒号が飛び交う。


 いきなりの事で霧島は、ただただあわてふためいていた。


「くく、黒崎さん! あなた何て事を! 司令! ど、どうしましょう!」


「……」


 黒崎が席を立った時こそ驚いたが、今は無言で静観するメアリー。


 彼女には黒崎が何を考えているのか、察しがついているのだった。


「黒崎さん! とりあえず謝っときましょう! ね! ね!」


 だが黒崎は、霧島の制止をふりきり、その場にいる全員に対して大声でうったえる!


「うるせえーーー!! 静かにしやがれ! 大事な事だ!」


全く食い下がらない、黒崎の気迫に、辺りがしんと静まり返る。


「いいか、お前ら! もし! 万が一! この二人が偽者でさっきの祓った連中や、外から監視してた奴も含めて、ただの仕込みだったとしたら、俺達は全員! 敵の思うつぼになるって事だぞ!」


「もう既に、相当数の犠牲者が出ているんだよ! この期に及んで、目上の者だから確認できないとかビビって、いちいち後手にまわってたら確実に俺達は全滅するぞ!」


「俺達だけじゃねえ! 怪物達の材料にされてる地獄の連中や、何の罪もない天国の連中も理不尽にやられるかもしれねえんだぞ!」


「本物だったとしても! 今! ここで! 『その事』をはっきり提示しとかねえと、今後の士気にも関わる!」


「俺自身、本物か偽者かはっきりしない奴に命を……ってもう死んでんのか。 あーっと、…… この身を預けるわけにはいかねえからな!」


「今更気を使ってる余裕なんてねえんだよ…… そういう段階はとっくに過ぎてんだよ。一刻も早くこの事件を解決するためにはな!」


 黒崎のうったえに死神達は何も言えないでいた。


「黒崎さん……」


「…… 黒崎さんの言うとおりだわ。 大王様、リーズレット様。 無礼を承知で! どうか身の潔白をご提示下さい!」


 メアリーが黒崎を後押しする。


「彼の言う通り、士気の低下は死に直結します!」 


「もちろん『わかっている者もいます』が、中には大王様方の『能力』を完全にはご存じない方々もいます。 そして少なからず、ほんの僅かですが先程、疑心の感情のこもった視線も私の方でも、いくつか感じられました」


「おそらく彼もそれに気付いていたのでしょう…… 勘の鋭い青年ですので……」


 そう。メアリーの言う通り、黒崎は『それ』に気付いていたのだ。


 だからこそ、今! ここで! はっきりさせなければいけないと判断したのだ。


 例え皆からの反感を大いに買おうが、それが仲間の犠牲を減らす事に繋がるのならと。


「本来なら我ら司令クラスの誰かがお聞きしなければならなかったのですが、彼に気を遣わせてしまいました」


「黒崎さん。 ごめんなさいね…… 嫌な役回りをさせてしまって……」


「黒崎さん……」


「別に…… 思った事を口にしただけだよ」


 先程、怒りに満ちた視線を黒崎に浴びせていた死神達だったが、彼らも黒崎の真意と優しさを理解していくのだった。


 そしてここでリーズレットが動く。


「はは! 面白いねえ! 君!」


 ゆっくりと黒崎の方へ歩み寄っていくリーズレット。


 先程の行いをみて、正直彼女に対して畏怖の念を覚えている黒崎だが、それでも一歩も引かないでいた。


 そしてまるで黒崎を品定めするかの様に、黒崎の顔をじろじろと見つめている。


「黒崎…… 修二君、だったかな?」


「(ん? この気配…… もしかして……)」


「…… ふ〜ん」 


「ん〜……」


「うん♪ いいね! 君! ちょっと僕のタイプかも♪」


 笑顔でそう言うリーズレットに対して本気で嫌そうな顔をする黒崎。


 勘弁してくれ……


 誰がこんなおっかねえ女なんかと……


 心の底から黒崎はそう思っていた。


「露骨に嫌がらないでよ! 傷つくなあ。 安心して。 君の言う事も、もっともだ」


「ああ。 むしろよくぞ言ってくれたってとこかな」


 閻魔大王も口を開く。


「黒崎君。 君が言わなくても、どのみちこちらから、本物の証拠をお見せするところだったしね」


「各自、念の為、障壁をかけてくれ。 そこまで『力』を出さないから軽めでかまわない」


 そう言うと、大王は先程の様に霊圧を開放し、赤い闘気を身に纏い始めた。


 ただ、先程に比べてその闘気は、静かで、必要最小限の力に抑えている様子だ。


 閻魔大王の指示に従い、死神達は障壁を展開、黒崎は霧島の後ろに立ち、彼の障壁に守られていた。


「はあああ!」


「これはさっきの! 赤い…… いや、炎の闘気?」


「これが証拠だよ。 黒崎修二君」


「あの炎の闘気はただの闘気ではなくてね…… 抑えていても通常の炎属性の闘気よりも遥かに強力な『閻魔の一族だけにしか出せない闘気』なんだよ。 偽証は不可能だ」


「さらに…… 兄上! 悪いけどもう一度、いいかな! 軽くでいいから」


「ああ! そのつもりだ」


 そう言うと閻魔大王の両目が金色に輝く。


 例の『眼』の力を発動したのだ。


「黒崎君! 何でもいい! 今! 君の頭の中で、直感で何か思い浮かべてくれ! 物でも人でも色でも何でもかまわない!」


「! そういう事か。 わかりました!」


 黒崎は表情で読まれない様に、そして精神を落ち着かせ、集中する為に両目を閉じる。


 そして閻魔大王は黒崎の心を『視る』



























「…… ふふ。 君は中々容赦ないなあ」




「今、君が頭に思い浮かべたものは……」

















「…… 『無』だ。 つまり『何も思い浮かべなかった』 そうだろう?」


「…… お見事です」


「ふふ。 この状況下。 兄上と僕にここまでタンカを切った上で、あえて『何も思い浮かべない』事を選ぶとは」


「やるじゃないか。 ただでさえ心を完全に無にするって、精神を極限まで落ち着かせてないとできないものだからね」


「もし兄上が単に洞察力だけに頼って、適当な事を言ったら『偽者』という事か」


「ふふ! いい性格してるねえ! 君!」


 黒崎の意に反して、段々と黒崎の事が気に入り始めているリーズレット。


「念の為ですよ」


 ここで閻魔大王が闘気を解いた。


「ふう」


「それで、どうだい? 黒崎君。 君の目から見て、私は偽者かい?」


「とんでもない。 先程の無礼、申し訳ありませんでした」


 閻魔大王とリーズレットに対して深々と頭を下げる黒崎。


「なに。 『わかっていたよ』 無礼だなんてとんでもない。 気を遣わせてしまったね」


 大王もまた黒崎の意図に最初から気付いていた。


 もっと言ってしまうと、今日初対面のリーズレットの事はともかく、閻魔大王が偽者だとは黒崎も最初から思っていなかった事も……


 黒崎もまた洞察力や、人を見る目は確かなものだと理解しているからだ。


 ただ、それでも黒崎は必要だと判断していた事も……


「ああ、そうそう! 一応言っておくけど、この『眼』に誓って! 妹とエレイン君。 それと先程のマクエル君も『間違いなく本物だ』と私が保証しよう!」


 状況が状況だ。


 勿論仲間にそんな事はしたくはないが閻魔大王も事前にチェックしていたのだ。


「まあ、『眼』なんか使わなくても、私達がお互いを間違えるなんて、万が一にも! ありえないけどね。 黒崎君。 君が霧島君の偽者を簡単に見破ったのと同じ様にね 」


「あ! もちろん僕もだけどね! こんな個性的な連中、見間違えるはずないしね!」


「ふっ 当然ですね。 どれだけ長い間おりしてると思っているんですか」


「そう! その通り! ん? 何か引っかかる言い方だが…… まぁいい!」


「私達の絆は、決してその程度のものではないのだよ」


 閻魔大王の発言にエレインとリーズレットは笑みをうかべる。


 三人、そして先程出て行ったマクエル達の信頼関係は本物だ。


 能力なしでも、彼らがお互いを見間違う事は本当にないのだろう。


「もちろん! まだ付き合いは短いが、君の事も『眼』なんかに頼らずとも、本物か偽者かなんて、私は一発で見分けられる自信はあるけどね!」


 笑顔でそう断言する閻魔大王。


「ふっ それは光栄ですね。 ありがとうございます」


 気を張っていた黒崎にも笑みがもどった。


 そして今度は黒崎は皆の方へと振り返り、頭を下げながら今までの言動について詫びるのであった。


「皆さん。 お騒がせして申し訳ありませんでした。 微力ながら俺も解決屋として、一日でも早い事件解決の力になれる様に全身全霊をこめて励む事で、今回のお詫びとさせていただきたい」


「どうか、よろしく頼みます」


 すると黒崎の真摯な対応と、その覚悟に周りからは多くの拍手が鳴り響いていく。


 改めて、他支部の司令達も、黒崎を真の仲間と認めるのだった。


 リーズレットが大王に歩み寄る。


「いいね。 彼。 流石、兄上が見込んだだけはある」


「ふふ。 だろ」


「まあ、他にも『色々ありそう』だけど」


「彼の気配…… 『そういう事なのかな?』 だとしたら、兄上の狙いが何となくだけどわかってきたよ」


「そうかい?」


「うん。 ま、あってるかはわからないけどね」


「彼には色々期待できそうだね」


「ああ」


 そして、大王は改めて手を叩き皆に席に着くように促す。


「さあ、 皆! これで懸念の一つは消えたはずだ! これより! 今後の方針と対策を決めていく!」


 皆が席に着き、ついに今後の対策や方針が話し合われようとしていた。

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