第35話 対策会議 ②

 本来死者の魂が、大王様との謁見で生前の行いを『嘘偽りなく真摯に告白しているか』で魂の行き先に影響がでる…… その際に大王様が使っている能力だとか……


 ここでそれを『こういう使い方』をしてくるとは、流石は大王様、といったところか。


 妹もそうだが、大王様の底知れなさに改めて思い知らされ黒崎だが、大王の話は続く。


「そして昨日のうちに零番隊含む、諜報員達を秘密裏に準備させ、君達各司令が各事務所を出立したのを見計らって、セキュリティの為に強固な結界を張り直すという私からの命令が下ったという嘘の令状を出して、その名目で潜入させていたんだよ」


 そして、リーズレットがまた話に入ってくる。


「ただ、全員が全員、陰陽術の類が使えるわけではないからね。 そこで簡易的なバージョンだが、単純な操作で瘴気を祓える小型の結界発生装置を全事務所分持たせ、その隙に制圧、救出しようって話になったのさ」


「一応爆薬の件もあるから、冷却装置も持たせてね。 手荒だが、最悪人質達をまるごと凍結して仮死状態にしてでも、それで彼らを助けられるなら、後は解凍してマクエル達治療班にお願いしようって事になったんだ」


「っていうのを昨日の兄上の通信後から、急遽、各装置の必要個数分の用意や、人員配備も行う羽目になったから、僕達諜報部と技術班は昨日から一睡もしてないんだけどねえ…… 全く人使いの荒い兄上だことで……」


 あくびをしながら兄にうったえるリーズレット。


「そう言うな、妹よ。 私やエレイン君も同様なのだから」


「わかってるよ。 兄上。 ちょっとあざとらしく愚痴っただけさ♪」


「やれやれ。 敵わないなあ。 まあ今度美味しいものでもご馳走するよ!」


「それは楽しみ♪」


 冗談めかした兄妹のやり取り……


 兄妹仲は良好なんだな……


 まあ、正直今はどうでもいいいが……


「皆も知っての通り、兄上の…… いや、『大王の眼』の能力…… 相手の心の中を見て、聴くことができる能力」


「能力発動時の出力にもよるけど、かなり力を出せば、嘘をついているか否か、心の声、だけでなく、質問されたことでよぎった頭の中の映像まで視ることができる能力……」


 大王に目を向けるリーズレット。


「兄上、大丈夫かい? 普通に使う分には問題ないけど、確実性をとって、さっきは相当なパワーを放出したみたいだけど……」


「なに。 この機会を逃すとまた多くの犠牲がでてしまうかもしれないからね。 皆も頑張っているんだ。 私もこの位はね」


 笑顔でそう返す大王。


 流石大王。 底知れない霊力量だとばかりに安心する死神達。


 だが皆に心配かけまいと、笑顔でいる大王の顔に、僅かながら汗が出ていて、その余裕の表情が演技であることを見抜いていた者もいたのだった。


 そしてそれに黒崎も気付いていた。


 ったくあの人も無茶をする…… 


 本当に大した人だ。 


 だからこそ皆の信頼も厚いのだろうが、これはエレインさんも大変だな……


 まあ、あの人なら、どこかで無理やりにでも休ませそうだが……


 僅かに大王に心配の目を向けるエレイン、そしてリーズレットだが、ここで皆を必要以上に動揺させまいとしている大王の気持ちを理解しているからこそ複雑な心境ではあった。


「それに、加減無用で能力を使ったおかげで、大分情報が得られたよ!」


「大王様。 あまり無理をなさらず……」


 しかし、やはりというかやせ我慢をしている大王に声をかけるエレイン。


「はは! この位は大丈夫だよ! エレイン君」


「うーん。 仲睦まじい。 これが愛の力かな?」


「リーズレット様……」


 茶化すリーズレットを睨むエレイン。


「ごめんごめん! 冗談だよ~♪」


「流石我が妹! よくわかっているじゃあないか!」


 大王ものってきてしまった……


 そして、大王に向けて殺意と怒りのこもった視線を無言でぶつけるエレイン……


「…… すいません。 調子にのりました。 ごめんなさい」


「全く! お二人共!」


 人がこんなに心配しているのに!


 といった感じのエレインを見てさらに楽しそうにするリーズレット。


 まあ、実際本当に半分は楽しんでいるのだが、彼女なりの二人に対する気遣いでもあるのだ。


 ただそのやり取りを見て、こんな時でもほっこりしてしまった司令達。


 半ば公認というか…… 立場の問題が大きいからか、中々そういう関係にはなれていないが、この二人には幸せになってもらいたいと、割と死神や天使達の間ではひそかに応援されているのだ。


 皆からの生暖かい視線に気付いたエレイン。




「…… 何か?」


 ギン! というその鋭い視線が皆に向けられる!


 途端に下を向き、目線を反らし、恐怖を覚える司令達……


 怖っ! 怖えよ! 何、この殺気! 


 こりゃいじるのも命懸けだな…… 俺はしないけど……


 彼女と仲の良いメアリーだけは、やれやれといった感じで苦笑しているが……



「まだまだ道のりは険しそうだね。 兄上」


「ああ。 全くだよ」


「もっと頑張ってよ! これでも僕は応援してるんだから!」


「いや~、そうしているつもりなんだけどね~」


 エレインの後ろにそっと下がり、小声でやり取りする閻魔兄妹。


「お二人共! 何をコソコソしてるんですか!」


「いや、別に~♪」


「そうそう! 何でもないよ!」


 二人をじっと睨むエレイン。




「オッホン!」


 咳ばらいをして、無理矢理逃げ…… もとい話を真面目にもどす閻魔大王。


「まあ、そんな感じだ。 こんな形で皆を騒がせてしまい申し訳ない」


「しかし、得られたものも大きい!」


「! 兄上」


 そこで話の腰を折る形になってしなったが、リーズレットが報告する。


 彼女の端末にメールが届いたみたいだ。


「彼らからかい?」


「ああ。 たった今、乗っ取られていた事務所の奪還、怪物達の制圧。 さらにやはり仲間達が監禁されていたみたいだが、全員かなり衰弱しているが命に別状はない。 これより治療施設へ搬送しつつ、終わり次第、こちらに帰還するとの事だ」


「了解だ。 皆よくやってくれたと伝えてくれ!」


了解と言い、メールを打つリーズレット。


仲間の無事に安堵する司令達。


「それではこれより、先程得られた情報を元に状況整理、今後の対応の方針、戦力の配置等話し合っていく!」


 報告を終え、本格的に今後の対策を練っていこうとしたその時。




「その前にちょっといいすか?」


 黒崎が席から立ち上がった。


「! 何だい? 黒崎君?」


「へえ。 彼が噂の……」


「黒崎さん?」


「ちょっとあなた! 一体何を!」


エレイン達のやり取りと仲間の生存報告で、少しだけほぐれた場の空気だったが、再度、会議室が緊張に包まれる……


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