第30話 お見舞いと休息 ②
治療の湯に傷を癒しに来るカエラ。
補助業務でもあるので、京子も付き添っている。
患者含め、通常客もちらほら何組か姿が見えるが比較的空いている状態だ。
「しみらへんか? カエラ?」
「
「ほんまに無理せんといてなあ…… カエラ。 修二はんや達也はん達もやけど……」
「大丈夫ですよ! 天界の平和を脅かす者達なんかに、私達は絶対に負けませんから!」
「あ~、いや、それはありがたいし、勿論そうして欲しいんやけど……」
表情が少し曇る京子。
「命を大切にって事や……」
「もう、大切な人達がいなくなるのは見たくないねん……」
「! 京子さん……」
いつも明るい京子にしては珍しく気が滅入っている様子だ。
基本的に責任感が強い京子は、周りの皆を元気づけながら治療したり、相談に乗ったりする事が多いのだが、本人だって当然辛い時や心が折れそうな時はある……
先程は黒崎や霧島の顔も見れて安心したのと、弱気になっている所を見せない様に彼女なりに気丈に振舞って場を盛り上げていたが、二人と別れ、湯に入り、少し気が緩んでしまったのか、滅多に弱気な姿を見せない京子がその姿を見せていた。
「その…… 京子さん…… まだ『あの人』の事を?」
「…… はあ~。 うちもいい加減、ちゃんと前へ進まへんとなあ」
「自分がこんなに未練たらたらの女々しい女やとは思わへんかったわあ」
「そんな!」
「京子さんは立派です! 『あんな事があっても』、今もちゃんと立派に治療士としての責任を果たしているじゃないですか!」
「いやいや、ただがむしゃらにやってった方が嫌な事忘れられるからって事でもあるんやけどな」
正直、作り笑いといってもいい表情をしながら、あの京子が自分を卑下している。
だが、そんな京子に対してカエラが強い眼差しで言葉を並べる。
「けど、それだけじゃないでしょ…… 京子さんの仕事ぶりを見てれば、そんなただのやけくそとか逃げる為だけに仕事に打ち込んでいるわけではないって事位は見ててわかりますよ」
「はは。 そう言ってもらえると、ありがたいけどなあ……」
「京子さん…… 私は断言しますよ。 私達は死なないって!」
「京子さんを悲しませる事はしないって……」
「京子さんの為にも、私達の為にも…… そして『あの人』の為にも……」
「『あの人』は、私にとっても恩人でありますから……」
「カエラ……」
カエラの真っすぐな想いと優しさに触れ、気を持ち直した京子は、喝を入れたのか、両手で自身の顔を叩く。
「…… あー、こんなんあかん! せやな! あーあー、こんなしみったれたテンション、ウチらしくないわ!」
「変な空気にしてごめんな! カエラ!」
「いえ! そんな」
気を持ち直した京子は沈ませてしまった空気を取り戻すかのごとく、いつもの明るい感じで空気を切り替えようとカエラをいじりはじめた。
「そしたらこっからは恋バナや! 実際のとこ、修二はんの事どう思っとるん? 素直に白状せえや!」
「! だ! だから全然そんなんじゃないですって! しつこいですね!」
「ほんまか~? だったらウチも前に進む為に参戦しよかな~ 正直、修二はん結構ウチのタイプやし!」
「どうぞどうぞ! あんな不良物件で良ければ、いくらでも持ってって下さい!」
「強がってからに~」
「だからちがいますって!」
二人が騒いでいると聞きなれた声が隣の男性の治療湯の方から聞こえてきた。
「あれ? 何だか騒がしいですねえ」
「この声…… あの二人か。 ったく、他の湯治客や患者もいるってのに」
霧島と黒崎である。
「何をあんな大声で話してるんですかね?」
「さあな。 どうせ大した話じゃないだろ」
「お~い! お前ら! 他の湯治者もいるんだ! 少しは静かにしろ!」
女湯の方にいるカエラと京子に聞こえる様に大声で注意を促す黒崎。
「くく、黒崎さん!」
「お~、何や~! 二人も今入ってきたんか~!」
「ええ。 何をそんな大声で騒いでるんですか?」
「いや~、それがな、ほんまはカエラは……」
「な、何でもありません! お二人共! 女性の話に聞き耳立てるのはセクハラですよ!」
「立ててねえよ! お前らの声がうるさかったから注意しただけだよ!」
「何話してんのか知らねえけど、公共の場なんだからもう少し静かにしろ!」
「あなたに言われたくないです!」
「何でだよ!」
「何でもです!」
「二人共本当に静かに!」
色々騒がしい場面もあったが(主に黒崎とカエラが)しばらく湯に浸かった後、先に女性陣の二人が上がり、着替えた後、京子はカエラの包帯とギブスを着けなおし、二人共、水分を補給してカエラは自分の病室、京子は治療業務に戻った。
男性陣の二人はそのままマッサージへと向かいしっかり心身ほぐしてもらった後、休憩スペースで少しだけ横になり、けど、しっかりと休息をとるのだった。
そして、いよいよ出発する黒崎と霧島。
カエラと京子が見送りに来ている。
「それではお二人共、気を付けて行って来て下さい。 会議の内容の詳細は後程、通信で教えて下さい」
「いってらっしゃい! 気ぃつけてな!」
「ええ。 行ってきます」
「行ってくるぜ」
車に乗り込み、二人はついにグランゼウス要塞へと出発するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます