第27話 明日に備えて

 死神事務所 第一一七番支所。


 長かった一日を終えた黒崎達だったが、もう夜中の一時を過ぎていた。


今日はもう遅いので黒崎含む死神達は別館の仮眠室で休む事になった。


 黒崎は一応狙われている事も考慮されて二人部屋の方で霧島と同室になった。


 そして霧島はというと二回程、それぞれの件で連絡を入れていた。


 通信機を切り、一息つく霧島。


「ふう。 黒崎さん。 今日は重ね重ね本当にすみませんでした。 まさか自分の偽者が現れて黒崎さん達を襲うとは」


「僕が別行動をとらなければ黒崎さんを巻き込む事はなかったのに!」


「いや、あんたが謝る事は一つもねえだろ。 あんただって仕事忙しかったんだし、奴らの狙いの一つが俺なら遅かれ早かれ似た様な事がいずれ起きてただろ。 それが今日だったってだけの話だ」


「だからさっきも言ったが、もう気にすんな。 謝んのも、もうなしな」


「黒崎さん…… ええ。 わかりました。 ありがとうございます」


 頭ではわかっているが自分の偽者が仲間を襲ったとなれば気にしないはずがない。


 その結果、重傷者も出てしまっている。


 連絡を受けた際も気が気じゃなかったが、お前が悪いわけではない。 悔しかったらそいつらにたんまり利子付けて借りを返せばいいだけだ。 勿論、自分達も一緒に。


 そういった言葉を並べられ、霧島も改めて事件に向き合う覚悟を持つ事ができた。


黒崎の気遣いに感謝する霧島。


「それで、 どこかに連絡してたみてーだが」


「ええ。 まず前原さんが泊まっているホテルのフロントに。 明日も色々ありそうなので前原さんを天国まで案内、担当の者に引き継ぐのに、まず九時にホテルに伺う予定だっだのを、七時に早めてもらう事にしてもらいました」


「それでフロント経由で前原さんに繋いでもらって、そしたら快く了承してもらいました」


「そうか」


 確かにその方が良さそうだ。


 明日もそうだが、今後はこれまで以上に色々あるだろうし、言い方悪いが片付けやすい仕事は先に片づけて備えていた方がいい。


「ええ。 今日死んでまだ天界初日にもかかわらず、こんな夜分遅くに連絡を入れて予定を変更して申し訳なかったのですが…… もうお休みになっていると思いましたし」


「まあな。 でも今回は流石にしょうがねえだろ」


「あの爺さんならわかってくれるだろうし、今度何か礼でもすればいいんじゃねえ?」


「ええ。 というか……」


「?」


「初めての天界…… って、そりゃ当たり前なんですけど、死者にとっては。 けど、たまにいるんですけどね……」


「何だよ?」


「前原さんにとって見るもの全てが新鮮だったらしくて、興奮して寝付けなかったみたいでまだ起きてたみたいです。 別れた後もホテル内を散策したり、まったり温泉に浸かったりして、出た後もスタッフと仲良くなって一緒にお茶したりしてたみたいですよ」


「初日で順応力高すぎだろ!」


「ええ。 全くですよ。 おかげで助かりましたが」


 前原さんのその行動に、険しい表情が続いてた霧島に笑みがこぼれた。


 ナイスだ! 前原さん。


 しかしあの人も大概だな。


 俺なんか初日かなりテンパってたけどな。


 前原さん…… ある意味大物かもしれない。


 だけど今回今後ばかりは救われたかな。


 霧島も少し気を楽にしてくれればいいが。


「黒崎さんに相談せず勝手に決めて申し訳ありません。 もしあれでしたら前原さんの件だけは僕が一人で対応して、黒崎さんは予定の時間まで休んで頂いてても結構ですよ。 黒崎さんは今日は戦闘もあって疲れたでしょう」


「まあ、それは否定しねえけどよ。 疲れてんのはお互い様だろ。 俺も付き合うよ。 自分が担当した死者を最後まで面倒みねえのは解決屋としての俺の流儀にも関わるしな」


「黒崎さん…… わかりました。 それでは明日一緒に行きましょうか」


「ああ」


「それからもう一つ…… 京子さんにも連絡をとったんですよ」


「京子さんに?」


「ええ。 どうやらカエラさんは京子さんのいる治療施設に運ばれいたみたいですので」


「! こないだ俺が世話になった所か!」


「ええ。 彼女の怪我の具合を聞きに…… かなり右腕を痛めていたみたいですが腕以外は軽症で、京子さんが担当してくれたみたいです」


「彼女の治療の腕もあって、無事に治療は済んだみたいです」


「そうか…… 良かった」


カエラは自分を庇ってしまった為に必要以上にダメージを負ってしまった。


とりあえず、ちゃんと治療が済んだみたいで良かった。


 ほっとする黒崎。


「ええ。 ですが右腕の完治には一週間前後かかるみたいなので、復帰はその後かと」


「そうか…… でも無事回復に向かってんなら何よりだ」


「…… くそ! 俺を庇ったばかりにこんな!」


「黒崎さん。 彼女は」


「ああ…… わかってる! ここで自分を責めてもカエラが喜ぶわけでもねえし、むしろあいつの性格からしてケツ引っ張たかれちまうよ」


「この借りは必ず返す! 一連の事件を解決する事でな!」


「ええ。 それがわかっていれば僕の方からは何も言う事はありません。 勿論僕も全力でお付き合いしますよ」


「それで黒崎さん。 明日、前原さんの件が済んだらお見舞いがてら、先程の大王様の話に出ていた報告等も含めて、情報を彼女とも共有しに行こうと思いまして」


「なるほどな。 確かにその方がいいだろう。 俺も顔を出しておきたいし」


「決まりですね。 そうしましたら明日は、僕らは招集がかかっているので、他の業務は同僚達が引き継いでくれますので、カエラさんに顔を出した後、頃合いを見てグランゼウス要塞へと出発しましょう」


「グランゼウス要塞か…… 大王様からの招集場所だが、一体どんな所なんだ?」


 先程閻魔大王の話に出てきたグランゼウス要塞。


 随分大層な名前だが初めて聞くワードで実は気になっていた黒崎。


「グランゼウス要塞。 黒崎さんも多分見た事ありますよね? 天国と地獄の境目位のエリアに立っている、やたらでかい建物なんですけど」


「ああ。 やっぱりあれの事だったか」


 そりゃ、ま、あんだけ目立ってりゃ嫌でも視界に入るからな。


 名前の通り、天界にしては珍しく思いっきり大要塞って感じの仰々しい建物が立っていたからな。


 …… だったら閻魔の城とかも、もっとそれっぽい外装にすればいいのに……


 まあ、今はそれはいいか。


 とりあえず霧島から詳しい話を聞く黒崎。


「ええ。 あの要塞の中には天界の中でも、かなりの戦力や施設が滞在しているんです。 死神事務所の一番~一〇番支所、各機器や兵器、武装の開発施設、強力な監視システムや各施設のシステムと繋いで情報を処理したりとか色々入っているんですよ」


「そして巨大な会議室も併設していて、おまけに建物の外は強力な結界が張られているので、重要な会議や取り決めを行うのにもよく使われてるんですよ」


「だから今回みたいな会議にはうってつけの場所なんですよ」


「そりゃ凄えな。 というか事務所の支所が一〇個も入ってんのかよ!」


「ええ。 彼らは名義的には別々の支所ですが一〇支部で一つの支部みたいなもので、

通常業務も勿論行いますが、主な役割は諜報活動や、大王様の命で、公にしづらい任務を行うのがメインなんですよ。 所謂いわゆる諜報部ってところです。 かなりの腕利きも揃っていますね」


「へえ」


「後、これはあくまで噂ですけど……」


「ん?」


「途轍もない戦闘能力を秘めた部隊も存在するとか……」


「途轍もない戦闘能力?」


「ええ。 ま、あくまで噂ですけどね。 僕も詳しくは知らないですし、実在するかも怪しいですが……」


「まあ、とりあえず明日はそんな感じですね」


「という感じなので、黒崎さん、今日はもう休みましょうか」


「ああ。 そうだな」


「シャワーやお風呂は一階に共同のがありますが、どうしますか?」


「いや、明日でいい。 流石にもう寝かせてくれ。 もう色々ありすぎて、今日は疲れた」


 正直怪物との交戦で埃まみれにもなったが着替えたし、今日はもうこのまま寝かせてもらう!


「ですよね。 わかりました」


「それではお休みなさい」


「ああ。 お休み」


こうして、黒崎達は明日に備えて、束の間の休息をとるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る