第26話 深夜の報告会 ③

「私も確認したが…… 現場は事務所中が血まみれで、えげつない殺され方をされた死体の山だったよ……」


「…… マジかよ…… クソが!」


 事務所の連中が全員殺られたってのか! 


 全員死神の腕の立つ猛者ばかり。 


 それも俺らが戦った怪物と同類の存在ごと…… さっきも思ったが怪物の事はただの捨て駒とか鉄砲玉位にしか思ってねえって事か! 虫唾が走る!


「ああ、恐らくは余計な情報を洩らさないための口封じだろ。 それなら怪物が震えていたのにも合点がいく。 そしてその邪魔となった二十八支部の死神達も全員殺された……」


「そして我々はある仮説をたてた…… 組織の連中は地獄行きの魂を強化して自分達の駒とする為にさらっていく、もしくは現状の処置に不満を持っているであろう彼らの負の心の部分を利用し、口八丁上手い事を言って彼らを勧誘して傘下に加えていき戦力を増強する」


「まあ、勝手に暴走したり任務にしくじったりしたら、組織の主要人物達から粛清される」


「そして奴らは、何かとんでもない事を企んでいる…… 例えば、自分達が天界の支配者になる…… とかね」


「あくまで仮説だがね」


「……」


「ちょっといいか。 二十八支部の連中は殺された。 つまり死んで魂になった…… 無神経な事言う様で悪いが、そいつらから自分達を殺した奴の情報は聞き出せねえのか? それと怪物も死んで魂になってんだろ」


「ああ、事態が事態だからね…… 協力してもらったよ。 殺された後で当時の事を思い出させるのは非常に申し訳なかったが…… だが相当むごい殺され方だったのか、まともに会話ができない状態で現在も治療施設の精神科で治療中だ」


「かろうじて意思疎通できるのは、司令を務めていたライネル氏だけだった。 ちなみに怪物の方は…… もう魂すら存在しないよ」


「何?」


「元々地獄行きの死んだ魂の存在をいわば改造された存在だ。 つまり元々死者なんだ。 死んで魂だけの存在の者がさらに死亡するとそれは魂そのものの消滅を意味する…… 完全に、あらゆる世界から存在しなくなる。 完全な無になってしまうんだよ。 もちろん転生もできない…… 本当に終わってしまうんだよ。 魂が滅びるという事はね」


「…… そういう事だったのか……」


 それを聞いて黒崎は、さらにぶつけようのない思いに駆られる。


 そいつの事は詳しく知らないが、怪物になれ果てた存在とはいえ、地獄行きを言い渡された者とはいえ、途中までしっかり罪を償えていたかもしれない…… そいつらにそそのかされなければ、ちゃんと転生出来て、また一からやり直せたかもしれない。


 それをもう二度と転生できない…… 魂ごと消滅させた……


 どうしてそんな事を平然とできる!


 一度に色々な情報が入ってショックを受けている黒崎の様子を見て、それでも説明をやめるわけにはいかない…‥ 閻魔大王は話を続ける。


「…… 話を戻させてもらうが、ライネル司令が精神的トラウマを負わされ、思い出すだけで本来なら発狂しそうなめにあったにもかかわらず、当時の事を懸命に私に教えてくれたよ…… 今はゆっくり療養してもらっている」


「そうか……」


「その彼の情報によると………」




*     *      *




 半年前の悲劇に遡る……



 死神事務所第二十八支部


 辺りは死体が飛び散ってあまりにも悲惨な現場だった……


 そこには、実行犯である返り血を浴びた一人の男が立っていた……


 そしてその男は瀕死のライネル司令に声をかける……


「君達は、うちの怪物ゴミと違って殺しても魂が残るから、どうせ後で大王に色々聞かれるんでしょう?」


「さすがにアジトや、まだ知られる訳にはいかない事も結構あるから、お仕置きの意味も込めて怪物しておいたけど、せっかくだから君達には伝言を頼もうかな」


「あ…… う…… 伝…… 言?」


まともに口すら聞けない状態のライネルだったが、男の冷たい声は、嫌でもしっかりと刻みつけられる。


「そう♪」


「我らは『真なる選別者』。 いずれ我らが創る『新世界』の為、いずれあなた方には消えてもらうから、今のうちに精々余生を楽しんでおきなってね♪」


 そい言い放って男は笑みをうかべながら、ナイフの様なものでライネルの急所を一突きした……




*    *     *




 そして現在…… 話を聞いてその表情に怒りをにじませる黒崎。


「『真なる選別者』だと」


「それが連中の名前か…… 厨二病全開なクソみてーな連中だな」


「全くもって同感だよ。 本当に…… ふざけた連中だ」


「無論これ以上奴らの好きにさせるわけにはいかない! そこで明日の一六時、全支部の司令は緊急対策会議を開く為、グランゼウス要塞に来るように! 各支部にはこちらから連絡を入れる! それと黒崎君と霧島君、済まないが君達にも来てもらいたい。 渡したい物もあるしね」


「は! かしこました!」


「渡したいもの?」


「わ、わかりました!」


招集命令に応じるメアリー。 そして黒崎と霧島であった。




*    *     *




 閻魔の城。 通信を終え、悩ましい表情をする閻魔大王。


「…… 大丈夫ですか? 大王様」


「ああ…… すまないね。 君にも詳しい事は話してやれず……」


 通信を切り、隠してはいるが心身の疲れが滲み出ている大王の姿に心配をするエレイン。


 それに申し訳なさそうに答える閻魔大王。


「お気になさらず…… それ程の事態なのでしょう」


「先程黒崎君にも言ったが、もう少し、事がはっきりするまでは我慢してほしい…… 『僕』の推測が外れてくれている事を願うが、どちらにしても近日中に君にも全てを話させてもらう事を約束する…… だから、その時は、どうか耳を傾けてほしい」


 大王の立場としてプライベートでも、普段は『私』と一人称を使っているが、今は通信モニターを切り、疲れも溜まっていて、気も抜けてしまい、その上、今は幼馴染のエレインしかいない。


 油断したのか、久しぶりに一人称が『僕』に戻っていた。


 言い換えれば、それ程エレインに気を許しているという事なのだろう。



「勿論ですよ。 私でよければいつでも」



「ただ、これだけは言わせていただきます」



「ん?」









「何があっても、私はあなたの味方ですよ……」



「あまり一人で抱え込みすぎない様に…… 弱音や愚痴位だったら、いつでも付き合いますし、微力ながら力にもならせてもらう所存です」



「それだけはお忘れなきよう……」



「! ああ…… ありがとう。 エレイン君」


 優しい笑みを向けるエレイン。


 エレインの心遣いに、心の底から感謝する閻魔大王であった。


 こうして激動の一日がようやく終わりを迎えるのであった。



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