第22話 襲撃者

「く……、くくくく…… 上手く化けたつもりなんですがね…… 一体どこで気付きましたか?」


 霧島、いや、霧島に化けていた『何か』は顔を抑えながら本性を現し始めた。


「最初からだよ。 違和感満載だったからな」


「霧島は口では、さぼったり手を抜こうとする言動もたまにあるが、実際のところは責任感も強くて本当に忙しかったり、大変な時にてめえの仕事を誰かに押し付けて、楽して帰ってきたりなんかしねえよ!」


「だから念の為、カマをかけさせてもらったってわけさ」


「カマ?」


「さっきのライターの話だよ。 そんな物最初から買ってねえよ。 そもそもあいつ、煙草吸わねえし」


「化けるんだったら、その相手の事をもっとちゃんと調べとくんだったな。 はっきり言ってザルすぎるだろ。 素人かよって位にな」


「それじゃいくら見た目と声を本物そっくりに仕上げてきても、まるで意味を為さないな」


「くくくく…… これは手厳しいですねえ。 思っていたよりも頭がまわるようだ」


「それに、攻撃に転ずるギリギリまで攻撃の気配をああまで完璧に消してかつ瞬時に拳に気を込めて反撃してくるとは……」


「ただの人間と聞いていましたが、中々やってくれるじゃないですか……解決屋さん」


 ただの人間となめてかかった霧島の偽者は黒崎に対する評価を改めた。


 それと同時に、どういうわけかこの偽者は黒崎が解決屋と知っているみたいだ。


 その事が黒崎にとっては引っ掛かるが、今は敢えて相手を挑発する様な口ぶりで煽り、隙を作らせようとしていた。


 声と姿をここまで本人そっくりに化け、背中から腕を伸ばしたりする時点で、明らかに人間ではない。


 正体はわからないが、そうなると基本的な身体能力や戦闘力は自分より上だと最初から判断してかかった方がいい。 黒崎はそう判断した上で『時間も稼いでいた』


「生前から修羅場慣れしてるってだけだよ。 あんたはもう少し殺気を隠しとくべきだったな。 あれじゃ警戒してくれって言ってる様なもんだぜ。」


「減らず口を…… 生意気ですねえ…… あなた」


「ふん、だったらどうする?」


「『魂は消滅させずに捕らえてこい』との命令でしたが気が変わりました…… あなたはここで消してあげます!」


「何だと! 命令って一体誰の命令だ! 俺の事も解決屋って知ってたみたいだが!」


 自分が解決屋と知っているだけでなく、何者かの差し金で俺を狙ってきただと!


 てっきりここの事務所に喧嘩を吹っかけてきて、俺の事はついでだと思ったが、狙いはピンポイントで俺? いや、もしそうならカエラと別れて、俺が一人になった時の方が確実だったはず…… となると狙いは俺、もしくは俺に何らかの興味があり、俺を捕まえつつ、あわよくば事務所の戦力も削っておこうって魂胆か?


 一体何者なんだ? こいつは……


 考えを巡らしながら偽者に問う黒崎だったが偽者もわざわざ喋るつもりはなかった。

 

「これから魂ごと消されるあなたが知る必要はありませんよ」


 そう言うと偽者は黒い瘴気を纏いながら『異形の姿』へと変えていった。


 人型だが手足が長く鋭くなり、明らかに強度が上がってそうに見える漆黒の身体、そしてその身体のサイズも少し大きくなっていった。


「! それがお前の本当の姿ってわけか」


 もうやるしかない。 覚悟を決める黒崎。



「ご安心下さい。 私は優しいですからね、ひと思いに、一瞬で楽にしてあげますよ」


「へえ…… おもしれえ…… やってみろよ…… やれるもんならな……」




 両者睨みあいの中、敵の踏み込むタイミングを冷静に図ろうとする黒崎。


 そして敵が踏み込もうとしたその時!



「下がりなさい!」


事務所の上空から猛スピードでこちらへ向かってくる人影がある。


 カエラだ!


「!」


「な!」


上空からの大声に黒崎は、待ってましたと言わんばかりに反応し、後ろへ飛ぶように下がる。


闘気を纏った状態で、先端に銃口が付いている、マシンガンとトンファーを一体化させた様な武器を二刀流で構えるカエラ。


そのまま落下しながら敵に弾丸の嵐を連射する!


「ぐっ! さっきの女か!」


 踏み込みのタイミングで虚を突かれた敵は反応に一歩遅れ、躱しきれずに両腕で身体を覆いガードしながら後ろへ下がる。


「ちい!」


 ガード越しに被弾してダメージを負う敵に対して、地上に着地したカエラはそれと同時に一気に間合いを詰める!


「あまいです!」


「はあ!」


 体を捻りながら渾身の一撃を浴びせるカエラ!


「がは!」


倒れる敵に対してカエラは制するように銃口を向ける。


「動くな! ようやく尻尾を出してきましたか! あなた、『例の組織』の手の者ですね? 洗いざらい吐いてもらいましょうか!」


「く! 貴様も最初から私が偽者だと気付いていたのか!」


 銃口を向けられているのと、今の一撃によるダメージで敵は身動きがとれないでいる。


「当然でしょう。 あんな雑な芝居で仲間を見間違うはずないでしょう。」


「それに霧島君はあんな邪な気の持ち主ではないですよ」


「私達の仲間を愚弄するような真似はやめていただけますか! 不愉快です!」


 そこへ黒崎もやってきた。


「思ってた以上に早かったな。 つか何だ、その物騒な武器は!」


「武装の話は後程。 今のあなたの戦闘力では、そこまで時間は稼げないと思い、ダッシュで駆け上がって隙を伺って援護してあげたんですよ。 感謝して下さいね」


「…… と、思っていたんですが、妙に手ごたえが無いですね。 この程度ならここまで急ぐ必要はなかったかもしれませんね。 むしろあなたの、その無駄にまわる、ずる賢い頭を使えば、やりようによってはあなた一人でもどうにかなったかもしれませんね」


 本っ当に口と性格が悪いな! こいつ!


「お褒めに預かりどうも! ったく、で、こいつどうすんだ?」


「もちろん拘束します。 彼には聞きたいことが山程ありますしね」


「! 調子にのらないでいただきたいですね! このままおめおめとやられる私ではないですよ!」


 まだ諦めていない様子の偽者。


 どうやら何らかの手段を忍ばせている様だ。


 だがそれも無駄に終わる事になった。


「ああ、もしかして近くに忍ばせているお仲間の方々を期待していますか? でしたら、おそらくもう……」


「ええ。 先程全員、拘束させてもらったわ」


「メアリー司令!」


「いつの間に!」


黒崎達の前に姿を現したのは、既に残りの仲間を全て拘束して部下に預けてきたメアリーであった。


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