第16話 まったり温泉紀行 ②

「大王様…… まあ、僕も人の事は言えませんが……」


「いやいや! 流石にまずいでしょ! 

つか、あの世の連中まあまあ適当だな! 

いいのか、そんなんで! 特に大王様の仕事は責任重大でしょ!」


「まあまあ、そう固い事言わずに! ようはメリハリだよ! 働くときにビシッと働いて休む時は休む! 良い仕事をする為の秘訣だよ!」


「はあ。 まあそれはそう思いますが……」


 本当に色んな意味で只者ではないな、この人。


 そう心の中を巡らす黒崎。


「あ、そうそう霧島君。実は私も君のご先祖様…… 恭弥氏ご夫妻に面識があるのだよ。」


「えぇ! そうなんですか!」


 予想だにしない事実を告げられ、驚く霧島に閻魔大王はその霧島の反応も笑って楽しんでいる。


「元人間が難解な死神試験に挑み合格、おまけに死神と結婚ときたもんだからねえ~。 私も興味が沸いて、ぜひ色々ご教授願おうかと、お酒の席に何度か誘わせてもらったんだよ!」


「ええ~!」


「初耳ですよ! そんなの!」


「あ、あの二人が何か失礼を働かなかったでしょうか!」


 天下の閻魔大王に、万が一にも身内が失礼を起こしていたらと思うと、急に生きた心地がしなくなってきた霧島はおそるおそる大王に聞いてみた。


「はは! 大丈夫大丈夫! むしろとても愉快なご夫妻だったよ! お二人共、特に奥方のサアラさんが酒にめっぽう強くてね、僕も酒には強い方だと自負していたが、いや~上には上がいたねえ! 三人で飲み比べをして恭弥氏共々、完膚なきまでにつぶされた事も今となっては良い思い出だなあ!」


 顔が真っ青になって今にも気絶しそうになる霧島。


 黒崎が霧島にしっかりしろと声をかけ続ける事で、霧島は何とか意識を留める事ができたていた。


「最近は中々時間が合わないが、今度顔を出させてもらおうかな。 霧島君からも、よろしく言っておいてくれたまえ」


「は、はあ。 ツッコミどころは満載ですが、もし会えたら伝えときます。 といってもあの夫婦未だに仲が良すぎるのか、それこそ新婚気分であちこち旅行していますから、どこにいるのか僕にもわからないんですけどね」


「はは! あの二人らしいねえ~!」


「それはそうと、黒崎君。 三日前はあの

カエラ君相手に大健闘したそうだねえ!」


「え? ああ、いや明らかに手加減されてた上に、容赦なくボコボコにされてこのざまですけどね」


「いやいや! それでも大したものだよ。 報告を聞く限り、それなりにはやりあえた様だし。それにカエラ君は、若手の死神の中じゃ、霧島君と並んでかなり上位の戦闘力の持ち主だしね」


 そうだったのか。


 そういえば最後に見せた霧島の迫力も半端なかったな。


 やっぱり霧島も相当な強さの持ち主みたいだ。


「その上に最後、微弱だが気を発動させる事もできたみたいだしね」


「ええ、 あれには驚きましたよ!」


「まあここ天界は霊力が満ちている空間でもあるからね。 何かの拍子で才能ある者が気を使える様になってもそこまでおかしな事でもないが…….」


「にしたって何の訓練もなしでできるものだはないですよ!」


「それ程、彼の潜在能力が高いのかもしれないねえ。 どうだい黒崎君! 諸々全てが終わったら君も死神試験受けてみたら?」


「おお! それはそれでありかもですね!」


「だろ!」


 大王だけでなく霧島も何気に乗り気だ。


「いやいや! 明らかにヘビーすぎる仕事っぽいから遠慮しておきますよ」


「それは残念。 まあ実際仕事をこなしてみてやりがいを見出したり、気が変わったりする事もあるかもしれないから、またそのうち誘わせてもらうかもだから、その時は宜しく頼むよ!」


「いや、宜しくされても困るんですけど」


「はっはっは!」


「いや、はっはっはじゃなくて!」


 その後もしばらく三人は談笑した後にみんな揃って風呂を上がっていった。



 ロビーでフルーツ牛乳等、各々飲み物を堪能する三人。


「か〜! 美味い! いや~、風呂上がりの一杯は最っ高だねえ!」


「それは同感ですね」


「確かに!」


「お! お三方共、お上がりでっか!」


 そこへ三人の前に関西弁を放つ、髪の長い茶髪の女性が声をかけてきた。


「お! 京子君! いつ見ても綺麗だねえ! 先程は見かけなかったが、どこか出かけてたのかい?」


「いややわ~、大王様。 そないな事言われるとエレインに悪いわ~。 ちょっとさっきまで買い出しに出てはったんですわ~」


 この女性も大した肝の据わりようだ。 閻魔大王相手に慣れ親しんだ口調である。


 エレインといい天界は女性が強いのかもしれない。


「修二はんも、もう怪我は大丈夫みたいやな」


「ああ。 明日から仕事だ。 あんたには世話んなったな。 葉原木さん」


 この女性は葉原木京子。 この施設に勤める天使で治療術士という仕事についている。


 三日前、ボロボロになって応急処置だけ済まされて運ばれた俺を、たった三日でここまで回復させてくれた。


 治療術をかけている時の彼女はまさにプロの治療家といった顔をしていて、真剣に、それでいて、こんな状況下の俺にも気さくに話しかけ、気にかけてくれた。


大丈夫や! 何とかなるし、気楽にいったれ! みたいなノリで彼女なりに元気づけようとしてくれていた。


 今後やっていけるのかと、多少なりとはいえ俺の中で不安もあったのは事実。


 それを和らげてくれた事も含めて、彼女には感謝している。


「いややわ~、京子でいいですよ。 水臭い。 うちも下の名前で呼ばせてもらってますし」


「そうかい。 じゃあそうさせてもらうよ京子さん。 また、ちょこちょこ世話になるかもだしな」


「そうそう、けどあまり無理はしすぎんといてな。 修二はん」


「はっは! 京子君もすっかり黒崎君と仲良くなったねえ!」


「ええ、そりゃもう。 修二はんイケメンやし、無愛想な割に、気遣いな所もあって私的にはポイント高いわ~」


「ヒュ~、モテモテだねえ! 黒崎君!」


「からかわんでくださいよ」


 二人に思いっきりいじられる黒崎。


 何かこの二人ノリが似てないか?


「修二はんの仕事もいよいよ明日からか。 達也はんが付いておるんやから大丈夫やと思うけど、二人共気をつけてな!」


「ええ。 もちろん。 ありがとうございます、京子さん」


「二人共、頑張ってくれたまえ。 但し、京子君も言った通り無理は禁物だよ。 いいね、黒崎君」


 閻魔大王からも同様の言葉をもらう黒崎。


「ええ、もちろんですよ」


「霧島君も、何か困った事があったら遠慮なく知らせてくれ。 あくまで可能な範囲にはなるが、力になろう」


「! ありがとうございます!」


「さ~て、お風呂に浸かったら眠くなってきたな~。 今日の分の仕事はまた明日でもいいかな~」


 どさくさに紛れて、このまま仕事をふけようとする閻魔大王に京子が待ったをかける。


「あ、せやせや! 大王様が風呂に入って、うちが帰ってきてすぐにな、エレインから通信が入ってな。 伝言頼まれとったわ」


「伝言?」


「そこにいるのは見当がついています。 勝手に抜け出して! 遅くても一五時までには戻ってきて下さい。でないと御父上にご報告した上で、あばら三本はいただきますので」


「時間内に戻ってきてさえして頂ければ、御父上へのご報告『だけ』はなしにしてさしあげます」


「だそうやで」


 閻魔大王はもちろん、黒崎と霧島もエレインからの伝言を聞いて、顔が真っ青になっていった。


 時計を見ると後、一時間半…… ここから閻魔の間まで結構な距離があった様な…… 


 というか、今から出てもこれ、間に合うのだろうか……


「は、は、は、いやだな~ エレイン君たら。 それじゃあ、まるでどのみち僕は無事では済まないみたいな言いぐさじゃないか~……」


「カンカンやったからな~。 脅しで済まないと思うで~」


 笑顔で死刑宣告を言い渡す京子。


「ひっ! ど、ど、ど、ど、どうしよう! 京子君!」


 本気で慌てふためく閻魔大王。


「まあ、あそこのお土産コーナーでエレインの好きそうなスイーツと、新作も出たから仰山買うてって機嫌をとるんやな~」


「ぜひ! そうさせてもらう! 京子君! 大至急! 新作含め、おすすめを見繕ってくれ! 早く!」


「了解や~! 毎度毎度おおきに~」


 どさくさに紛れて閻魔大王相手に営業しまくってやがる。


 この人もやっぱとんでもねえな……


 というか、この口振りだと明らかに常習犯だな、この人……


 大王様も懲りない方なんだろうなあ……


 天界の女性陣は極力怒らせない様にしようと心に誓う黒崎であった。


「じ、じゃあ僕らも部屋へ戻りましょうか」


「そ、そうだな」


少し気の毒になってきた閻魔大王を尻目に俺と霧島は部屋へ戻ることにした。

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