休章 ひとときの休息

第15話 まったり温泉紀行 ①

 「ふう……」


大浴場に入って傷を癒す黒崎。 霧島も付き合っている。


「やっと身体、というか魂か。 マシになってきたか」



「ったく、えらいめにあったな。 まさか三日も尾を引くとは……」


「はは、 初日から散々でしたからねえ」


ここは主に仕事の荒事なので傷ついた死神達への、治療施設だ。


一般の魂向けにもリラクゼーション施設や食事処等、挙げ句の果てにはお土産屋まで併設されている施設でもある。



 カエラとの模擬戦闘から三日。 


 カエラに負わされた黒崎のダメージが、かなり大きいものだった為、まずはそれをしっかり治してからの仕事開始となった為、黒崎達は三日前からこの施設に泊まり込んでいた。


 霧島は仕事でちょこちょこ抜けるが、黒崎のお目付けやくでもあるので黒崎が回復するまで仕事量を調節してもらっている。


「いや、笑い事じゃなえから!」


「いや、本当申し訳ない!」


「いや、まあ、いいさ…… おかげで仕事をする上で、一定の信用は勝ち取った気もするしな」


「それにまさか三日も仕事が出来ず、こんなにまったりさせてもらって逆にこっちが申し訳なくなってきたよ」


「いえいえ! 完全に、カエラさんが突っかかってきたせいですから!」


「しかし、この湯は凄いな。 浸かっているだけで傷がこれ程の早さで治っていくとはな」


「ええ。 こんな感じにひどい傷を負った方々の治療としても使われている湯なので我々死神も重宝しているんですよ。 全く天使様様ですよね」


 本当に大したものだ。 


 もちろん湯に浸かるだけでなく、ちゃんとした治療も受けているが、あれほどのダメージをわずか三日でほぼ回復させてしまっているとは。


 この施設の凄さを黒崎は改めて実感している。


「まあ、それ抜きにしても疲労回復等の効果もあるから別に怪我していなくてもよく浸かりにくるんですけどね。 まあ怪我人優先の湯ですから、その辺は自重していますけどね」


「なるほどね。 確かに良い湯だよなあ…… そういえば最初に泊まったホテルの湯も似たような治癒効果があるのか?」


「ん? ああ、いえ。 まあ多少の効果はありますけど微々たるものですね。 あっちは治癒用で作られたものではないので」


「ここは天使達が運営する治療施設の一角ですので、この中の全ての施設がそれ様に作られているんですよ」


「もちろん湯だけでは完治に厳しかったりもするので、天使達が使う治癒術や薬とかも併用しながらですね。 そうやって我々死神も日頃の激務に必死に耐えながらこなしているんですよ」


「その割にはお前さんはあんまり忙しそうにしてないな」


 黒崎に付いているとはいえ、明らかに暇そうにしている…… というかそれを口実にしてサボっている様に見えるといった表情をする黒崎。


「何言っているんですか! 僕は黒崎さんのお目付け役なんですからね! 決してサボっている訳ではないですからね!」


 痛い所をつかれたのか、必死に弁明…… もとい言い訳をする霧島。


「わ~った、わ~た。 そんな必死に食いつかんで大丈夫だから」


「ほ、本当にわかっているんでしょうね!」


「コホン! まあ、といっても先程話した通り傷も癒えた事ですし、明日から本格的に仕事してもらいますからね。 一応そのつもりで」


「ああ。 そのつもりだ」


「とりあえずそこまで難しい事は単独ではさせませんのでご安心下さい。 しばらくは僕の補佐業務という事で。 黒崎さん、頑張って仕事を覚えて僕を楽させ…… 地獄行きを回避しましょうね!」


「おい! 今本音が漏れてたぞ!」


「はは、 冗談ですよ! 冗談!」


「あ、そうだ霧島。 少し疑問に思っていた事があったんだけど聞いていいか?」


「? 何です?」


 明日から忙しくなるだろうし、これまでの経緯で少し疑問に思っていた事があるので黒崎はいい機会だし、それを霧島に聞いてみる事にした。


「いや、霧島ってさ死神じゃん。 けどお前、明らかに日本人の名前だよな。 それと俺の治療をしてくれてる葉原木って女も。 お前らって人間なの?」


「ああ、 そのことですか」


「ええ。 そうなんですよ。 といっても厳密にはちょっと違いますが」


「? どういう事?」


「僕と彼女のご先祖様が『元人間で日本人』だったんですよ」


「! マジか!」


「ええ。 彼女の場合はどうなのか詳しく知りませんけど、元々僕のご先祖様は地獄で罪を償っていたんです」


「それで、当時良くしてくれた死神に感謝していて、それで罪を償った後、人としてまた新たな生を授かり転生する道もあったんですけど、死神になって自分が救われたみたいに、死者の魂達にやり直すための手助けをしたいっていうんで死神試験を受けて合格。 死神に生まれ変わったんですよ。 あ、その場合は記憶は持ち越していますけどね」


「そんなパタ~ンもあるのか!」


「ええ。 それなりにありますよ。 但し試験は相当大変みたいですけどね」


「と、いっても黒崎さんみたいに、人の魂のままで試験も受けず死神業補佐なんて、前代未聞ですけどね」


「ちなみにその元人間のご先祖様は、後にその良くしてくれた担当の死神にプロポーズ。 晴れて二人は結ばれたって事です! ま、今はもう二人共引退して好き勝手やってますけどね」


「へえ。 いい話じゃねえか! で、お前さんはその子孫ってわけか」


「そういう事です。 いや~、でも本当にロマンチックで良い話ですよね~。 僕にもそんな素敵な出会いないかなあ~!」


 以前モテているとか何とか言っていたが、あれはやはり強がりだったみたいだ……


「そうだな。 頑張れ」


「適当に流さないで!」


「はっはっは! いや~素敵なエピソードだねえ! ドラマみたいな馴れ初めで羨ましい位だ!」


 二人が話していると、聞き覚えのある声がしてきた。



「だ、大王様!」


「な、何でここに!」


「いや~、三日前の顛末含め、君達がここにいるのを聞いてね、サボり…… じゃなかった! 君達と交流を深めようと思ってね! こうして裸の付き合いをしに職場から脱走…… オホン! 君達の様子を見に来たというわけさ!」


 閻魔大王はそう言うとノリノリで湯に入り、二人の近くに浸かってるのだった。


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