まさかあの世に来てまで仕事をするとは…… こうなりゃとことんやってやる！

第13話 激突！ 黒崎VSカエラ！

「で？　何をすればいいんだ？」

「簡単な話です。　今から私と一対一で模擬戦闘をしてもらいます。　その中であなたに適性があるか私が見極めさせていただきます。」

「おいおいマジか。　まあ、そんな空気も出ていたけども。　けどそちらさんはあれだろ。　明らかに普通の人間を上回る力をもっているんだろ。　霧島が言ってたが……」

「ただの人間の魂にしかすぎない俺には初めから勝ち目はないと思うんだが」

　普通の人間が正面切ってのタイマンバトルで死神に勝てるはずがない。　

だが閻魔大王は、そのただの人間に今回の件を依頼した。　

理不尽な査定でそれを覆されるのは黒崎としては本意ではない。　

それをちゃんと踏まえた上での公正な査定方法なのかとカエラに問う。

「まさかその上で勝てないと認めないなんて理不尽な事を言うんじゃないだろうな？」

「安心して下さい。　戦闘の勝ち負けは二の次です。　ただ、どこまでくらいついていけるかは判断材料の一つにはさせていただきますが」

「死者の魂達は大王様の所に連れていく際に罪人や生前にやましい行いの心当たりがある者はその際に暴れる者も出てくるのですよ。　地獄行きにはされたくないでしょうから。　その際は最悪、実力行使で黙らせる事もありますので、人間とはいえあなたに必要最低限の実力はあるのか見極めさせていただきます」

「それともう一つ。　大王様からも聞いているみたいですが、相手の感情を色で視る眼、実は私達死神にも備わっているんですよ。」

「！　大王様の話だと、上級神の類だけの能力と聞いていたが」

「ええ。　ですので厳密には我ら死神も一応上級の位置にあたるのですよ。　ギリギリですが」

「戦闘で追いつめられると、どうしても負の感情が出やすくなります。　ただの恐怖とかならまだいいですが、悪人はその際、邪気の様なものも出すことが多いです。　もし私との戦闘中にそのような事が発生したらあなたには今回の話を降りていただきます。　邪心の類をもっている者を隣に立たせるなんて危険な行為はこちらとしては願い下げですから」

　カエラの話を聞いて状況を確認する黒崎。

　確かに一定以上の信頼関係と力を示すのはこいつらと一緒に仕事をしていくには必要な事だ。　気に食わないが一応その点に関しては筋は通っている。

「なるほど……　いくつか引っ掛かるところはあるが、まあいい。　そういう事なら話はわかった。　異論はない。　はじめてくれ」

「わかりました！　司令！」

「はあ……　わかった。　ただし、危なくなったらすぐに止めさせてもらうぞ！」

「それでは……　はじめ！」

　他の者達が見守る中、戦い開始の火蓋がきられた。

　カエラが猛スピードで一気に間合いを詰める。

　徒手空拳というか軍隊格闘術の様な洗練された、それでいて無駄のない動きで黒崎に襲い掛かる。

「！　思ってた以上に！」

　想定以上のスピードで来られ困惑しつつもかろうじてカエラの動きをさばく黒崎。

「どうしましたか？　その程度ですか！」

　明らかに押されてはいるが黒崎も相当修羅場を潜り抜けてきている。　

さらにジークンドーを織り交ぜた独自のケンカスタイルで、ギリギリのところで何とかカエラの攻撃に渡り合っている。　

しかしカエラは死神。　元々基本スペックが違う。　まだまだ余裕を残している様子だ。

「……へえ。　少しは動けますね。　あくまで、普通の人間にしてはですが」

「うぐ！」

　何とか凌いではいるが、さらに押され始める黒崎。

「ほらほらどうしました！　すでに死んでいるといっても魂だけの状態で大きなケガをすると大変危険ですよ！」

「だったらこういう事を提案しないでほしいもんだけどな！」

「へらず口をたたく余裕があるなら大丈夫ですね！」

　もう防戦一方で息もたえだえの黒崎。

「話になりませんね……　そろそろ終わりにしましょう」

「終わりです！」

　カエラがとどめの拳を突き出した瞬間！

「ここだ！」

「なっ！」

　突如黒崎のスピードが極端に上がり、カエラの攻撃を捌くと同時に、足払いをして拳を彼女の前に寸止めして制する形で突き出した。

「おお！」

「上手いですね」

「ええ。　中々やるじゃない。　彼」

　霧島やエレイン、メアリーも黒崎の身体能力が人間にしては思っていた以上、そしてそれ以上にその戦略眼を評価していた。

「はあ、はあ。　これで合格ラインにしちゃくれないかい？」

「……　なるほど。　まともにやっても勝ち目はないだろうからとわざと最初からスピードを抑えてましたね。　私があなたの限界を見誤った状態で仕掛けるタイミングの隙をつくために。　別に勝たなくてもいいのに、あなた、随分と負けず嫌いみたいですね」

「格上とはいえ女相手にあまり不様過ぎる姿はさらしたくないんでね」

「悪くない手ですが……　甘いですね！」

　突如カエラの身体が光り輝くと同時に急激にパワーが上がり、無理矢理自身の身体を起こし黒崎を蹴り飛ばす。

「ぐ！」

「暴徒と化した死者の魂はそんな事で引く者ばかりではないですよ！」

「いつつ……　容赦ねえな！」

「つか何だ？　その光は？」

「カエラさん！　それはやりすぎです！」

「口を挟まないでいただけますか、霧島君！　あなたは最近の激務で霊力を著しく消耗しているはず。　まきこまれると大ケガ程度では済まされませんよ！」

「何だと！」

　霧島の身体がそんな事になっていると聞いて動揺が走る黒崎。

　そこに巨大な衝撃波が黒崎を襲う。

「くっ！」

　間一髪で躱す黒崎。

「戦闘中に余所見とは余裕ですね。　黒崎修二！」

「だから何だ！　そのでたらめな力は！」

「これは我ら死神やその他の上級神様も扱う霊力をコントロールする技術です。　俗っぽい言い方をするなら気のコントロールといったところですか。　それをする事で我らは身体能力を大幅に上昇させる事ができるのです」

「このようにね！」

そういうとカエラは横に向かって拳を突き出し、それにより発生した衝撃波で遠くの木々を粉砕する様を黒崎に見せつけた。

「では、改めて、いきますよ！」

桁外れにスピードが上がったカエラは瞬時に間合いを詰め、黒崎の腹部に強烈なボディーブローを突き刺した！

「がは！」

凄まじい一撃をもらい、血を吐きながら吹き飛ばされる黒崎。

「少し力を入れすぎてしまいましたか……　これ以上苦しめるのも気が引けます。　もう終わりにしてさしあげましょう」

　少し離れた所まで吹き飛ばされている黒崎に対してまた衝撃波を放つ様に構えをとるカエラ。

「さあ、これで本当に終わりです！」

「はあ！」

　カエラの衝撃波が黒崎のいる場所めがけて襲い掛かる。

「！　バカ！　このままじゃ！」

黒崎は自身の場所の後方直線状に霧島達がいるのに気付く。

そして先程の霧島とカエラのやりとり。　霧島の霊力が弱まっている。　今あいつが大きなダメージを受けるのは危険だ！

そういった事が黒崎の考えを巡らせ迂闊に避けられない。

だがもうすぐ衝撃波が目の前まできている！

黒崎は両腕を身体の前に組み、重心を低くして、持ちこたえる体勢をとる。

「はああああ！」

　無茶な選択をとった黒崎。

　しかし次の瞬間！　

　黒崎の身体をまばゆいばかりの光が包むのであった！