第12話 私は認めない!

 しばらく車を走らすと大きなビルが見えてきて、駐車場に車を止めると、三人は車を降りるのであった。


「着きました。 こちらが死神事務所第一一七支部です」


「まずは司令にその書状を届け、説明がてら挨拶ってところですか?」


 霧島がこの後の流れをエレインに確認する。


「ええ。 こちらの司令は比較的理解ある方ですし、私とも親しくさせていただいていますのでまだ大丈夫だと思われますが、少々頭の固い方もいらっしゃいますから、そちらは霧島さんもフォローをお願いします。 特に彼女の方を」


「はあ…… わかってますよ」


 溜息をつく霧島。 


それを見て、面倒そうな展開が待っている予感がする黒崎は気を引き締める。


 ビルの中へ入ると受付を済ませエレベーターで上階へ行き、そこから司令室と表示されている部屋の前でエレインがその扉をノックする。


「失礼します」


「どうぞ」


 扉を開け入室すると、そこには一人の女性がデスクにいた。


三人の入室を確認したらその女性は立ち上がってエレインと霧島に挨拶を交わす。


「いらっしゃいましたか。 エレインさん」


「お疲れ様です。 メアリー司令」


「お疲れ様です。 司令」


「霧島君もお疲れ様。 二人共、何だか昨日は大変だったみたいね」


「ええ。 まあ」


 苦笑いをするエレインと霧島。


「昨晩、大王様からご連絡がいっていると思いますがこちらがあの方からの書状と、それから詳細を説明させていただきたいので、お忙しいところ申し訳ありませんが、少しだけお時間いただければと」


「ええ。 一応連絡は来るには来たけど…… 本気なの? 正直、言うだけ言われて『じゃ、そういう事だから明日エレイン君達から詳細を伝えに行かせるから、諸々の事はよろしく~』って言われてガチャンよ」


「あの方は本当にもう……」


またもや頭を抱えるエレイン。


 その様子を見て割と本気で不憫になってきたと感じる三人。


「あの方らしいっちゃらしいけど、相変わらずあなたも大変そうね」


「胃に穴があきそうですよ……」


「まあ、また今度愚痴には付き合ってあげるわよ」


「恐縮です」


 普段から仕事以外でもそこそこ付き合いがあるのだろう。 エレインも言っていたが親しい間柄みたいだ。


「あら、いけない。 自己紹介がまだだったわ。 死神事務所第一一七支所の司令官を務めているメアリー・ジーニスよ。 あなたが黒崎さんね。 よろしくお願いするわ」


「黒崎修二です。 よろしくお願いします」


 優しい笑みと表情で黒崎に自己紹介をするメアリー。 


 どうやらこの人は比較的話が通じる人らしい。 


 少し安堵する黒崎。


 そしてエレインは説明を捕捉しながら閻魔大王からの書状をメアリーに渡した。


その説明を聞きながら、注意深く書状の内容を読むメアリー。


「……なるほど。 まあ確かに人材不足なのは事実だけど、大王様も思い切ったわね。 とはいえ、今、あなたから受けた説明とこの書状に記されている理由だけでこんな事をするのは随分と不自然な気がするわね」


「私も同感です。 おそらくあの方なりに他の狙いもあるのでしょう。 私も知らされていないのでその内容まではわかりませんが」


「! あなたにも知らせていない事とは珍しいわね」


「……それほどの事が?」


 少し目が鋭くなるメアリー。


「……まあ、今これ以上考えても何かわかる気がしないので、とりあえずその件はおいておきましょう」


 正直、エレインも不可解と思っている事は多いが、現時点でこれ以上深く考えても答えは出ないと判断している様だ。


「それに、何があろうとあの方のやる事を我らは信じるのみです」


「そうね」


「とりあえず書状の件、了解しました。 といっても大王様の印が押されている時点で断るのは、ほぼ不可能なのだけれど」


「本当に申し訳ありません」


「ふふ、あなたが気にしなくていいのよ」


「では、早速下に降りて皆に彼の事を紹介しましょう。 何人か出てしまっているから全員ではないけど、外出組にはまた後程という事で」


「わかりました。 よろしくお願いします。」


 四人は司令室を後にして、エレベーターでブリーフィングルームのあるフロアまで行って、その部屋に入っていった。


 部屋に入った後、すでにそこにいる数名の死神達を招集。


 本日の連絡事項と、それとは別に黒崎の件をメアリーは話していった。


 部屋の中が多少ざわつきはじめているが構わずメアリーは話を続ける。


「と、いうわけでしばらくの間、彼は我ら第一一七支所預かりとなる。 では黒崎君。 簡単に自己紹介を」


 メアリーの紹介から一歩前へ出る黒崎。


「はい。 黒崎修二です。 色々思うところはあるかと思います。 正直俺も同じです。 ですがせっかくの大王様のご厚意、そして俺自身の解決屋としてのプライドの為にも、一度受けた依頼は必ず最後までやり遂げさせてもらいます。と、いっても俺は所詮ただの人間。 なるべく足を引っ張らない様努めるので、まあそんな感じでよろしくです」


 疑心暗鬼の視線を黒崎に向け、まだ少しざわついている各死神達。


そんな中、一人声を上げる女性がいた。


「ちょっといいですか!」


「うわ、 やっぱりきたよ」


「聞こえてますよ。 霧島君!」


「おっと失礼!」


 予想通りの展開といった様子の霧島。 


 そしてメアリーがその女性を指す。


「何かな? カエラ君」


「いくら大王様の命令とはいえ私は反対です! そんな半分罪人に片足突っ込んでいる人間の魂なんかに我らの仕事を手伝わすなんて!」 


「とは言っても大王様の決定した事だ。 

 我らに逆らう権利はない。 

 それはわかるな。 カエラ君」


「しかし!」


全く引く様子がないその女性を何とか宥めようと霧島も出てきた。


「まあまあカエラさん。 僕もまだ昨日からの付き合いですが、黒崎さんはそこまで悪い人ではないと思いますし、少なくとも彼なりの流儀というか責任感みたいなものもちゃんと持っている方だっていうのは確信しています。 ですので、そう目くじらたてなくても」


「霧島君は黙ってて下さい!」


「大王様のご命令に背くつもりですか!」


「ならこれから私が大王様に謁見の許可をいただいて直談判します!」


「いい加減にして下さい! 大王様もお忙しいんです! そんな無茶が通ると思っているんですか!」


「二人共少し落ち着きなさい!」


段々霧島も苛立ってきたのか、熱くなってきている。


衝突してきた二人にメアリーが制しようとするが中々収まらない。


そこに黒崎も参戦する。


「は~、やれやれ…… あんた、カエラとか言ったか」


「あなたに呼び捨てにされるすじあいはありません!」


「そうかい。 じゃあ『カエラ』よ」


「!」


 頭ごなしに怒鳴りつけてくる者に敬称をつける気なんてないといった態度と視線を叩きつける黒崎と、その反応にさらに怒りの視線をぶつけるカエラ。


 だがそんな中でも黒崎の方は不快な気持ちと同時に冷静さもあわせ持ち、こう提案する。


「あんたの言っている事も、もっともな意見だ。 だが俺としても一度受けた依頼をほっぽり出すのは俺の流儀に反する」


「で、俺からも聞きたいんだが、どうすれば納得してくれる?」


「…… 何ですって?」


「このまま互いの主張を無駄にぶつけ続けても時間の無駄だろう。 それに無理矢理、足並みをそろえても仕事の効率が下がるだけだし、俺が本当に邪魔になるだけなら依頼は確実に失敗する。 依頼人である大王様の人材不足による仕事のサポートが戦力にならず不利益になる事が確実なら、俺も依頼人の為に今回の依頼は改めて断らせてもらうつもりだ。 その事で地獄行きになろうがな」


「だが、やりもしないであんたの一方的な意見をただ黙って通すつもりもない」


「だからよ、あんた自身の目で俺を見定めてみろよ。 俺を使ってくれてもいいのかどうか!」


「ちゃんとした公平な審査方法なら俺は文句は言わねえ。 あんたのお眼鏡に叶わなかったら潔く身を引くし大王様には俺が勝手に約束した事だって言って、今回の事であんたに絶対に迷惑はいかない様に頼んでみる。 

もし大王様が納得いかなそうなら、俺の罪をその分重くしてもらう事で何とか納得させてみせるさ」



「…… いい覚悟ですね…… わかりました。 そこまで言うなら黒崎修二! 今からあなたという人を試させてもらいます!」


 そして黒崎は、その場の全員と共にカエラに連れられる様、外のトレーニング等で使用するグラウンドの様なスペースに足を運んで行くのだった。

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