第三章 洗礼

第11話 夜が明けて 

翌朝。 目が覚めた二人は着替えて閻魔大王が言っていた使いの者とやらの連絡が来るのを待っていた。


「そういえば気になっていたんだが、昨日、閻魔大王様が使いの者を彼女と言っていたが、これから来るのは女なのか?」


「ん? ええ、そうみたいですね。 だとすると、おそらく今日来るのは大王様の秘書兼側近を務めている方だと思いますけど」


霧島は誰が来るのか察しが付いている様子だった。


「何だか随分優秀そうな人みたいだな」


「おそらく大王様が最も信頼している方の一人で、それと同時にあの方に唯一説教する事ができる極めて稀有な方ですよ」


「説教?」


「大王様って基本、素晴らしい方で決めるときはビシッと決めて仕事をこなすんですが割と自由奔放というか、多忙な仕事で息抜きしたいのか…… よく隙をみつけて、仕事場から脱走してどこか遊びに行く癖があるんですよ」


「マジかよ…… いいのかよ? 大王様がそんなんで?」


「ま、まあ、その辺はノーコメントという事で」


「で、後でその側近の方に見つかって説教、たまに武力行使というか、拳がとんで職場に強制的に連れ戻されると。 そういう事が割とちょこちょこあるんですよ」


「嘘だろ! え、何、あの大王様に! どんなゴリラ女だよ!」


「…… お願いですから本人の前でそんな事言わないで下さいよ。 魂ごと消滅させられたくなかったら」


「怖えよ! 何? 魂ごと消滅って!」


大丈夫だとは信じてはいるが、霧島は黒崎に念を入れておく。


そして段々とその使いの者に会うのが億劫になってきた様子の黒崎。


「必要最低限の礼節さえわきまえていれば大丈夫ですよ。 基本的に彼女は思いやりのある優しい方なので」


「まあ、彼女と大王様は幼馴染で昔っから羽目を外しすぎる大王様を彼女が抑えるってのが大王様が当代を継ぐ前から当たり前になっていたみたいですよ」


「なるほど。 いわゆる立場関係なし、互いに遠慮しない腐れ縁関係ってところか」


「そんな感じです。 ただ真面目な性格の彼女に対して、それをからかうかの様な態度を大王様が振舞うので、それに毎回振り回されている彼女がちょっとだけ不憫ですけど」


何となくその光景が想像付くといった表情をうかべる黒崎。


「こないだも彼女と他の死神で飲みに行った時、大王様への愚痴を散々聞かされましたからね」


「だけど、傍から見てもあの二人の遠慮のない関係っていうのが少し羨ましかったりもしますけどね」


「ああ~! 僕もかわいい幼馴染とかほしかったな~!」


「はいはい。 そりゃ残念だったな」


 と、軽いやり取りの後、黒崎はこの後について話を聞く。


「で、俺達はこの部屋で待機してていいのか?」


「多分フロントから内線がかかってくると思うんですが」


 霧島がそう言っていると部屋の内線が鳴り響いてきた。


「言ったそばから、ですね」


 霧島が内線をとり、やり取りを終えると受話器を置き、黒崎の方へ顔を向ける。


「行きましょうか。 黒崎さん。 一階ロビーです」


 二人は部屋を後にしてエレベーターを使って一階ロビーへと向かうのだった。


 フロント付近まで歩いて近くを見渡すと一人の女性が立ったまま二人を待っているのをすぐに見つけた霧島と黒崎はその女性の方へ足を進めた。


「おはようございます。 やはりあなたでしたか!」


「おはようございます。 霧島さん。 この度はあの方がまたぶっとんだ提案をしたみたいでご迷惑おかけして申し訳ありません」


「いえいえ! そんな!」


 礼節がしっかりしていて、クールビューティーといった感じの装いをしているその女性は黒崎の方にも目線を向ける。


「そちらの方が例の?」


「ええ。 しばらく我らの仕事を手伝っていただく事になった黒崎修二さんです」


 霧島に紹介され、黒崎も挨拶を交わす。


「ども。 はじめまして。 黒崎修二です」


「はじめまして、黒崎さん。 エレイン・クルーゼと申します。 以後お見知りおきを」


 エレインと名乗ったその女性は挨拶を交わした後、これからの予定を二人に告げる。


「早速ですが本日は初日という事で私も同行させていただきます。 まずは霧島さんが所属している死神事務所第一一七支所に行き、そこの責任者に会いに行きます。 閻魔大王様から今回の内容と大王様の決定印が押された書状も渡さないといけないので」


「了解しました。 …… はあ~、気が重いなあ」


 気が進まないといった表情と態度をもろに出している霧島。


その様子に対して黒崎は霧島とエレインにこう尋ねる。そして、その問いにエレインが返答する。


「やっぱり今回の俺の件は、各所にあまり良く思われてないんですかね?」


「正直言うとそうなるでしょうね。 というかそれ以上に、いきなりそんな事言われても混乱するでしょうね。 もっと言ってしまうとこれから説明しに行きますので」


「話通ってないのかよ!」


「何分昨日大王様がお決めになったとこですから。 かなりざっくり結果だけ通信で伝え、後は私と霧島さんに丸投げですよ! 全くあの方ときたら!」


 頭を抱え、溜息交じりに苛立ち、拳を握りしめるエレイン。


「な、何かあんたも大変そうだな……」


「まあ、いつもの事なんで、もう慣れましたけどね」


「なので、いきなりそんな事を言われて、あちらの方々が心無い発言をする方も中にはいるかもしれませんが、どうかお気を悪くなさらずお願いできればと」


 申し訳なさそうにそう告げるエレインに心配ないといった感じで黒崎は返答する。


「大丈夫ですよ。 人に良く思われないのは慣れてますんで」


「そう言っていただければ幸いです」


それを聞いて少しほっとするのと黒崎の気遣いに感謝するエレイン。


「では、外に車を用意しておりますので」


「行きましょうか。 黒崎さん」


「ああ」


 ホテルを出て止めてあった車に乗り込み、エレインを運転手に三人は目的地に向かうのであった。

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