第10話 そして、一日が終わる

「女神殿。 ユン坊はよしてくださいよ」


「はは! すまんすまん! いや~何せお前がこ~んな小さい頃から見てきてたからな、気を抜くと、ついな!」


「やれやれ…… 敵わないな。 それと、気配を消して入ってくるのもどうかと思いますよ」


「ふふ、それに容易く気付くとはね。 腕を上げたじゃないか」


「おかげさまでね」


お互い親しげに軽口を交わしながら女神と呼ばれた女性は、閻魔大王にゆっくりと近づいていった。


「で、どうだった? 『彼』は?」


「そうですね…… 別人ではありますが、根本的な部分はあまり変わってない様に感じましたね。 強さと優しさ、そして悲しみも織り交ざった『魂の色』が視えましたよ」


「みたいだな。 私は遠目からしか視ていないが」


「彼らしいといったところですかね。 少し安心しました」


安堵と優しさが少し織り交ざっているかの様な笑みをこぼす閻魔大王。


女神も同じ様な表情をしている。


そして女神はまた冗談交じりに閻魔大王に話しかけていく。


「しかし、お前も嘘が上手くなったもんだなあ! 確かに際どい判断だが、彼の場合ぎりぎり天国行きか少なくとも地獄には行かず転生の儀待ちってところだろう。 いや~、私としてはユン坊のそういう姿を見るのは、ちょっと複雑だったぞ!」


「そう言わないでくださいよ。 基本的に天国行きにしろ地獄行きにしろ、一度行き先が決定された魂は、よほどの許可がおりない限り、そのエリアから離れるわけにはいかない決まりだ。 彼にはなるべく行動範囲を縛ることなく、やってもらいたい事がある」


「それに正直、転生の儀も今はそこまで順番待ちしていない。 ああでも言わないと時間が稼げなかったからですからね」


「ってだからユン坊はやめてってば!」


「はは! すまんすまん!」


「けどまあ、これでもろもろ良い方向へ向かうといいんだがな……」


「そうですね…… まあ、今は彼らを信じましょう」





     *     *     *





「ああ~! 染みわたるなあ……」


湯につかり一息入れる黒崎。 霧島もご相判にあずかっている。


ホテルのフロントにてチェックインを済ませた後、霧島の勧めで大型浴場に行くことになった。奥の方に露天風呂もついている様だ。


「いや~、本当に! しかし何だか予想外の展開になってきましたねえ。 黒崎さん」


「全くだ。 まあ、俺からしたら今日死んじまった時点で予想外の連続なんだが」


「はは。 まあ、でしょうね」


ようやく一息入れる事ができた二人は今日の疲れを癒すかのように露天風呂を満喫している。


「しっかし、まさか死んだ先にまで解決屋をやらされるはめになるとはねえ」


「僕も驚きましたよ! 言っちゃなんですけど前代未聞ですよ! こんな事!」


「やっぱりそうなの? 正直あの閻魔様が何考えているのかわからん。 もちろん善意で言ってくれているのもあるのだろうし感謝もしている。 ただ…… 正直それだけとは思えないんだよなあ」


少しだけ黒崎の目が鋭くなる。


「ま、それは自分も思いましたよ。 確かに天界での人手不足は問題視されていましたけど、だからといって普通の人間の魂に僕らの仕事を手伝わせるのはあり得ないですからね」


「何か他に狙いがあると?」


「おそらく。 そしてそれに黒崎さんを利用しようとしているんでしょうね。 それが何かまではわかりませんけど」


少し考え込む黒崎を横目に霧島は自分の考えを告げる。


「ただ、それでも安心してくれて大丈夫だと思いますよ。 どんな狙いがあるにしても閻魔大王様は死者の魂や僕達の事等、ちゃんと考えてくれている方です。 少なくとも悪い様にはならないかと」


「ああ。 これでも人を見る目はある方だと思っててね。 少ししか話さなかったが、あの人が相当な世話好きってのはわかったよ。 どのみちもうやるしかないし、俺なりにあの人の事は信じさせてもらうよ」


「ええ。 それで良いかと。 まあ、あくまで黒崎さんは手伝いレベルだと思うし無理はさせませんのでご安心下さい」


「ああ。 まあ宜しく頼むよ」


「こちらこそ」


わからないところもあるが、とりあえず今後ともしばらくの間宜しくといった感じで話がまとまり、二人は改めて疲れを癒す様に露天風呂を満喫した。


その後、浴場を後にした二人は浴衣に着替えロビーで飲み物を飲み、自分達の部屋へ戻っていった。


 相部屋でとっていたその部屋に入った二人はそのままベッドに横になった。


「まあ、とりあえず今日のところはもうお互いゆっくり休みましょう。 さすがに僕も疲れたので」


「ああ。 俺もそうさせてもらうよ」


「電気消しますね。 それでは、おやすみなさい」


「ああ。 おやすみ」


相当疲れていたのか、消灯してそれこそすぐに二人は意識を失うかの様にぐっすりと眠りにつくのだった。


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