第4話 プロローグ ④ 死神登場!
「……んん?」
暗闇の景色から両の目を開け、倒れている黒崎。
何がおきたのか上手く把握できていない様子だ。
「俺は一体…… そうだ! 確かひかれそうになった子供を!」
黒崎はすぐに事故にあったことは思い出し、上半身をおこした後、その場で周辺を見渡す。
周りには、かなりの人だかりができている。
事故が起きてからどの位時間が経ったのかもよくわからない。
ただ、少し離れたところに先程飛び出してきた子供が泣いている姿が目にうつった。
その子供の母親だろうか。一人の女性が泣きじゃくる子供に話しかけ、必死になだめながら背中をさすりながら抱きしめている。
黒崎もパッと見て、子供に大きなケガもなくホッと一息つく。
その場から立ち上がり、もう少し近くで状況を確認しようとする黒崎。
だが次の瞬間、目を疑う光景を目の当たりにする。
あまりの光景に自身の目がおかしくなったか、それとも頭を強く打ち過ぎて幻覚を見ているのか。
それともこれは現実ではなく、実はまだ自分は気絶してて夢でも見ているのではないか。
様々な思いが黒崎の中で巡っている。
そして混乱しながらようやく口を開く黒崎。
「あれ…… 俺じゃね?」
何と黒崎の視界の先に、黒崎本人が血まみれで倒れているのだ。
「はあああ!!っ?」
「なになになに! どういうこと? 何で俺が俺の前に? どういうことだよ!」
滅多にテンパらない黒崎が凄まじいほどに動揺している。
「うん、うん、そりゃいきなりこんな事になれば誰だってテンパりますよね~」
「うわっ! びっくりした! て、あんた誰?」
それまで誰もいなかったはずの黒崎の隣に音もたてず気配も感じさせずに一人の男が
立っていた。
その男は黒いハットを被っており、喪服に近い雰囲気のスーツとネクタイを着用して
いる。
銀色の髪を帽子からのぞかせ、顔立ちは二十代前半位の中性的な顔立ちをしている。
「あ、申し遅れました。私このあたりのエリアを担当している死神です」
「は? 死神!」
「はい。 あなたを迎えにきました」
あまりの状況についていけてない黒崎。
何だこの男は…… 頭おかしいんじゃないか…… いきなり死神だとか言って。
そう、黒崎は思ってしまっていたが動揺しつつも、この状況を整理しようとし始めた。
普通に考えれば信じがたい話だ。
だが、実際に自分の身体が目の前に倒れている。
そして、死神というワード。
極めつけは明らかに周囲にいる人間が自分と、この死神と名乗っている男の事が見えていない様子なのである。
それらをふまえて、黒崎は死神と名乗る男に一つ確認をするために質問をした。
正直確認したくもないことなのだが、黒崎は聞かずにはいられなかった。
「俺……死んじゃったの?」
「はい。死んでます。」
あっさりと返す死神。
そして死神はこう続けます。
「即死でしたね。頭も強く打ってしまったみたいだし。」
黒崎はそんな現実に少しでも抵抗するかのように死神に言葉を投げかける。
「いやいや、でもほら! 俺足ついてるよ!」
「いやそれ、人間の世界で勝手に考えたフィクションの話でしょ。別に死んで幽霊になったからって足はなくなりませんよ」
「やっぱ俺幽霊なんだ!」
「そうっすよ!」
「あ、でもほら! よくドラマや漫画とかでよくある、本来ここで死ぬはずじゃなかったから蘇ったりすることができる的な、そんな感じの展開に?」
「いやいや、ないでしょ! そんな都合のいい展開!」
「あの~、もういいですか? お気持ちはお察ししますが、話が進まないので」
黒崎の現実逃避が一通り終わり、落胆しているところを死神が本格的に説明に入りだす。
「え~、黒崎修二さん。まず! あなたは、死んだんです! そこはもう認めて! ね!」
「で、これからなんですけど黒崎さんにはこれから天界に行っていただきます」
「天界?」
「死んだ者が皆、行く場所のことですよ。」
「それって天国の事?」
「あ~、ちょっとちがいますね」
首をかしげる黒崎に死神は説明を続ける。
「天国ってのは天界の一部のエリアにすぎないんですよ」
「死んだ者はまず、閻魔の城と呼ばれる閻魔大王様がいらっしゃるお城に行くことになってるんですよ」
「そこで生前の行いを考慮されて天国行きか地獄行きか閻魔様にお決めいただくんです」
「天国行きならその魂のまま記憶を保ったまま幸せに暮らすこともできますし、天国
にも仕事があるから就職とかバイトするもよし」
「え、バイトとかあんの? 天国なのに?」
「ありますよ~。ず~っと何もしてないのも退屈でしょうし、やりたい人はって感じですけどね」
「もちろん働かないで、ずっと好きに遊んでるのんびり暮らすのもありです」
「後、天国行きの方はもう一つ選択肢があります」
「それは、この選択肢は記憶を消されますが次の生を受ける、つまり生まれ変わって
新しい命を生きていくこと」
「その際は記憶は消されますが、事前にその方の希望にある程度ですがそって転生させることができます」
「例えば性別とか、金持ちの家の子に生まれたい、前世の恋人にまた会いたいとか」
「まあ、全て叶えられるわけではないですけど、なるべく希望を考慮された上で次の生を授かることができるんですよ」
「すごいな、それ! ほぼ何でもありじゃん!」
「ええ、そうなんですよ。だから天国行きの方はすごい恵まれてると思いますよ!」
「そして、今度は地獄行きの方なんですけど」
黒崎はきたかとばかりに不安そうな顔になって死神の話の続きを聞いた。
「地獄行きの方は生前犯した罪が許されるまで過酷な労働を強いられるのと、悪い心を洗い流す為に浄化の滝に打たれるんですよ」
「んで、心がきれいに洗い流されたら、前世の記憶を消して、その魂に次の生を与えるために転生させるんですよ」
黒崎はいくつか感じた疑問を死神に聞いてみた。
「せっかく改心させたのに最終的に記憶は消されるんだな」
「そっすね。天国行きの方も地獄行きの方も、基本的に転生時の記憶の持ち越しは禁じられてるんで」
「けど、それだと生まれ変わってもまた悪いことするかもってことだよな?」
黒崎の質問に対し、死神はこう答えた。
「もちろんその可能性はありますよ」
「でも例えば、いくらきれいに洗濯したからって服は絶対に汚れるでしょ」
「だからといって洗濯しないわけにはいかない」
「魂も同じなんすよ。また汚れるかもしれない。けど一度リセットして、ちゃんと真っ白にきれいにしてからまた地上に送ってあげなきゃならない」
「罪を犯してしまった側の人も、ある意味その時点で不幸な人なんですよ。だから罪を犯してもきちんと償わせて、次の生にチャンスをあげたい」
「記憶は消されても魂自体がきれいだったら罪は起こしづらいんですよ」
「ま、生まれ変わった後に何か悪影響を及ぼす事件や人達と関係が繋がったら、また悪い方向にいくかもしれませんので結局は本人次第なんすけどね」
「それにある程度命を循環させないと、新しい命が生まれてこなくなってしまうんすよ」
「なるほどね」
黒崎は続けて質問をする。
「ちなみにさっき、生前犯した罪が許されるまでは過酷な労働をって言ってたけど……」
「大体どの位かかるもんなの?」
「ん~、罪の重さにもよりますけど、大体、数百年位ってとこですかね」
「そんなに!」
一気に不安になっていく黒崎。
「ま、とにかくここでじっとしてるわけにもいかないんで移動しましょう!」
ここでぐだぐだ考えても仕方がない。
自分にそう言い聞かせ、腹をくくり、黒崎は死神と共に歩きはじめた。
しかし、まだ数歩しか歩かないうちに黒崎はハッとある事に気づいた。
「あ!」
「どうしました?」
「さっき借りたDVDどうすっかな……」
「……黒崎さん。もしかして、結構余裕ですか?」
この状況で、そんなどうでもいいことを気にする黒崎に感心しつつ、少し呆れる死神。
誰か何とかするでしょと黒崎に言いつつ、死神は改めて黒崎を連れて歩いていった。
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