その2 地球人多くない?

「おいおい、聞いた?なんか隣のイバリー大陸にレオニダス王が転移してきて、オルスだかって小国を占領したらしいぞ。」


 適当に注文したバーを飲み干し、今日のクエストの同行者から聞いた情報を弥助とジュンさんに話す。


「れおにだす?」

「どなたですか?」

「あー、魏とか尾張ではギリシャの話って聞かなかった?」

希臘ぎりしあなら殿から頂いた書物で少しだけ学んだでゴザル。」

「漢字で表記すな。」

「西欧の国ですか。あまり交流がなかったのでよく知らないですね。」

「スパルタっていうやべー戦闘集団を率いてた将軍だよ。」

「戦闘集団でゴザルか。島津のところの軍と、どちらが強いか気になるとことでゴザル。」

「そういや、日本にも戦闘民族がいたな・・・」


 ※


「君たち、もしかして地球から来た者か?」


 見知らぬ少女が話しかけてくる。


「え、もしかして、転移者?」

「やはり、君たちもか。私はこの世界には来たばかりでな。少し情報提供してもらっても良いだろうか?」


 非常に落ちつているが、非常に若く見える。何よりテレビで見るような美少女だ。身長は160cm半ば、黒髪の長髪をローポニーテールでまとめ、軍服のような物を着ている。


「君たちもってことは、君も地球から転移してきたのか?」

「そうだ。西暦でいうと、2130年ごろだ。君たちは?」


 西暦2130年・・・自分がいた時代とは更に未来から来たらしい。


「俺は、西暦でいうと2040年だ。」

「拙者は、天正10年でゴザル。」

「私は、建安17年です。」

「すまないが、暦を統一してもらっていいか?」気持ちはわかるが


 ※


「失礼、名を名乗るのを忘れていた。私はミト。ひと月ほど前にこちらに飛ばされ、現状を把握するために、色々と情報収集をしていたところなのだ。」

「俺は柳だ。まあ、しがない公務員をやっていた。」

「拙者は弥助。侍でゴザル。」

「私は荀彧と申します。魏という国で軍師を仰せつかっておりました。現在は、ここツェルンの軍会議で本部指揮を執っています。」


 なんか、俺だけ自己紹介弱くない?


「ほう、弥助に荀彧・・・両名とも歴史に名を残している著名人ではないか。」


 やめろ、悲しくなるだろ。


「それにしても、随分詳しいな。そういった仕事をしていたのか?」


 若い割に、自分がいた時代よりも100年も先から来た女の子が、特に弥助なんていうマニアックな侍をよく知っていたもんだ。


「仕事柄、というのは若干語弊があるが、諜報活動のためには、地球史、特に戦争史については詳しくならねばならないからな。」

「若いのに大したもんだな・・・相当勉強したんだろう?」

「いや?歴史書のデータを脳にコピーするだけだ。」5分で終わるぞ

「未来人!!」


 ※


「レオニダス王か。3000年経っても書物に名を残すほど蛮勇だが、まさか異世界でもその力は通用するのか。挙兵して一国を落とすとは、恐ろしい力だな。」


 魔法という地球にはない未知の力がある以上、地球での常識は通じなかったはずだ。しかし、レオニダスはそのハンデすら乗り越えたことになる。むしろ、魔法をうまく利用したということだろう。一応、こちらの世界に飛ばされてきた俺や弥助、ジュンさんも少なからず魔法は使える。


「そのレオニダス王君は、どのような人物だったので?」


 ジュンさんがレオニダスに興味津々のようだ。やはり、戦争の中で生きてきた英傑として血が騒ぐのだろう。


「ああ、レオニダス1世(古希: Λεωνίδας、ラテン文字転記:Leonidas I、 ?-紀元前480年、在位:紀元前489年 - 紀元前480年)は、アギス朝のスパルタ王である。第二次ペルシャ戦役中のテルモピュライの戦いに300人のスパルタ兵士と共に参戦し、20万人以上と伝えられるペルシア軍にも互角以上に渡り合い、最期は壮絶な死を遂げた。その名声はギリシア中に轟き、スパルタ随一の英雄とされた。」

「ウィキペディア!!」せめてカッコはしゃべるなよ


 ※


「しかし、ラームスがいくら小国とはいえ、こちらにきて間もない地球人が選挙するとは・・・末恐ろしい人材が転移してきたようですね。」

「オルスってどこの国の属国だったっけ?」


 グリゼリアには5つの大国がある。ジェノヴァ、ラムビア、ヤシヤ、アッファー、メラネシア。俺たちが拠点にしているツェルンはジェノヴァの属国だ。


「オルスは、ヤシヤの属国ですね。他の属国と少し距離があり、周囲が渓谷など険しい地形にあるので、救援などが間に合わなかったのかもしれません。」

「そもそも今はヤシヤが内部分裂の危機を抱えていて、非常に危うい状況なのだ。これを機に、地続きになっているジェノヴァとアッファーが攻め込む可能性がある。」

「ミトはやけに詳しいな。」

「ああ、職業柄というのもあるが、色々と気になることがあってな。」

「気になること?」


 俺が聞き返すと、ミトが俺たち三人の顔を見回す。


「ここ数年、地球人が多く、このグランゼリアに転移している。君たちも不思議に思わなかったか?」


 言われてみりゃ、確かにそうだな。


 ※


「確かに、ここにいる全員、同じ地球から転移してきてるでゴザルな。」

「それに、先ほどのレオニダスという者も地球人なのですよね。」

「私が現在持っている情報によれば、他にも確定で地球人が数人いる。しかも、そのどれもが、歴史に名を刻む者だ。」


 まるで地球人のバーゲンセールだな・・・

 それに、聞く限りは歴史的な人物が多い・・・まあ、無名な地球人はこちらにきても目立たずひっそりと暮らしているだけかもしれないが。


「どうしてそんなに地球人が来ているんだ?」


 転生ものの漫画やアニメは何度か見たことがあったが、確かに不思議な話だ。他の世界から来ても良さそうなもんだけど。まあ、地球人向けに書かれた物語なんだから、地球以外から転生させても異世界から異世界に転生することになる。だからなんだってストーリーになってしまうしな。


「それについてはある程度見当がついている。」


 俺も、残りの二人も黙ってミトの顔を見つめる。


「おそらく、何者かが、何らかの意図を持って、地球人をこちらに転移させている。」

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