第23話
▫︎◇▫︎
禁書庫破壊事件から数日、私とニックの身には何の危険もなく平和に過ごすことができていました。そして、今日は仕事がお休みの休日の日です。
そう、私がニックに返事をする日です。
「お嬢様ー、お洋服はー、」
「髪型はあのバレッタを使ってちょっとだけリボンをプラスして複雑に編み込んでください。服は………、青地に金糸のものを………。」
言っていて少しだけ恥ずかしくなります。いえ、………とっても恥ずかしいの間違いですね。だって、こんなの………。
「王太子殿下に包まれているみたいですねー!!」
「ひぎゃっ!!」
「あらあら、意識していたのですかー?」
「う、うるさいですわ!!」
私の優柔な侍女は、今現在私を揶揄うことをとっても楽しんでいます。
意地悪!!悪魔!魔王!!
「外道も付け足して下ると正確ですねー!!」
「………。」
自覚ありほど嫌なものはありません。
あ、でも無自覚でやられてしまうのもとっても嫌ですね。嫌なものはどうあろうとも嫌です。
「ほら、動かないでください。今日はとびっきり美しく仕上げますからー!!」
うちの優秀な侍女カロリーナは、先程の宣言通りさくさくと私の髪を編み上げ、他の侍女に私の注文に沿うお洋服を全て持って来るように命令しました。
「あ、あのー、お洋服と髪飾りなのですが、王太子殿下から贈り物が………。」
「!!」
「じゃあそれを使うわー!!いいですよねー?お嬢様ー!!」
「え、えぇ。構いませんわ。」
私の頬にどんどん熱が溜まっていくのが分かります。
ニックから贈られてきたお洋服は、庶民にぎりぎり溶け込める範囲のもので、鮮やかな青地にふんわりとした紫色のシフォンが重ねてあります。色合いが私とニックの瞳の色をいやでも連想させます。そして、膝丈のワンピースの裾とボレロの端に金糸と銀糸で複雑な花が刺繍されていて、こちらは髪色を連想させます。花はよく見ると、ブルースターや桔梗を模しています。どちらも花言葉は『愛』にまつわるものだったはずです。
「『幸福な愛』に『永遠の愛』すごいですねー!ちなみに、青薔薇の花束も一緒に贈られていますよー!薔薇の花言葉も『愛』で、青薔薇は『神の祝福』でしたっけ?いやー、ものすっごいラインナップ!!」
「花束も贈られています。44本で『変わらぬ愛を誓う』ですね。愛されていらっしゃいますね。ローゼンベルク侯爵令嬢。」
「………。」
王妃様の侍女にまで頬を染めながら羨ましそうに言われ、居た堪れなさに加速がかかります。
「髪飾りはリボン付きのバレッタですねー!お洋服とお揃いの刺繍の施されたリボンに、サファイアとアメジスト、いやー、本当にものすっごい独占欲。お嬢様ー、まだお返事前でしたよね?婚約前でしたよね?なのにこれはなんなのですか?いやまじでやばくない?」
「カロリーナ?」
少し低い声で笑みを浮かべると、途端にカロリーナが引き攣った表情で数歩後ろに下がります。本当に皆さま失礼ですね。
「ひぃっ、せ、せせせ、せっかくの可愛い顔が台無しですよー!!」
「元から可愛い顔ではないことは100も承知ですわ。言うならば、もっとマシな言葉を言ってください。」
「………無自覚って良くないと思いますー!お嬢様は綺麗で綺麗で、とーっても可愛いんですからー!!」
私は今、じとっとした目をしていると思います。まぁ、仕方がありませんよね。
嘘くさいんですもの。
「はぁー、さっさと支度してください。………ニックを待たせたくありませんから。」
「分かりましたー!!」
カロリーナは私の髪の仕上げのニックから先程贈られたバレッタを止め、服を着る手伝いをしてくれました。庶民の格好ということもあり、着やすさは抜群です。本来は1人で着るものですからね。
「靴や手袋、靴下にネックレスとブレスレットも贈られていますねー!あ、懐中時計も!!」
テキパキと身につけさせながら、嬉しいそうに声を上げる彼女は、私よりも圧倒的にテンションが高いです。本当に可愛らしい子です。
「はい!完成ー!!」
「もう、ですか?」
「はい!」
私はいそいそと鏡の前に移動しました。
鏡の中に、不安げに佇む少女が現れます。服に着られてしまっているような………。
「大丈夫ですよー!ちゃんと着こなせてますからー!!」
「でも、」
「お嬢様の王子様は、お嬢様が着れば着ぐるみであっても喜ぶんですから、こんなに綺麗に着飾ったら、もしかしたら外に出してもらえなくなっちゃうかもしれませんよー!!」
着ぐるみ風のお洋服を着たことは1度しかないはずなのですが………。
コンコンコン!
「ほら、お迎えですよー!!」
「シャーリー、」
「ほら、行ってきてください!!大丈夫ですってー!お嬢様はとーっとも美しいんですから。」
ニックの呼びかけに、カロリーナが私の背中を強く叩きます。痛いけれど、勇気を分け与えられているかのような錯覚を覚えます。
少し、頑張ってみまようかな………。
「………行ってきます。」
「えぇ、行ってらっしゃいませー!!」
「いってらっしゃいませ。」
カロリーナの元気な挨拶と、王妃様からレンタルした侍女の恭しい挨拶に、自然と微笑みが浮かびます。
「!!」
「お洋服ありがとう。ニック。」
「ーーーーあ、あぁ、どういたしまして………。」
ニックは顔を真っ赤にして固まっています。
そんなに似合わなかったのでしょうか………。
「行こっか、ニック。」
「う、うん。」
ニックに手を出すと、一瞬びっくりしたように目を見開きました。
確かに珍しいことですが、そこまでびっくりされると逆に手を繋ぎたくなくなるのですが………。
「に、握るっ!!」
私のじとっとした視線に気がついたニックが必死になって私の手を握りました。
恋人繋ぎ、やっぱり気恥ずかしいけれど懐かしいです。
私達は恋人繋ぎで人目を避けてバレバレなお忍びに出かけるための馬車に乗り込みました。
何故バレバレなのかって?それはニックが美形すぎるからです。全てにおいて貴族丸出しなのですわ。
「………………。」
「………シャーリー、とっても綺麗だよ。青薔薇の精霊かと思ちゃった………………。僕をおいてどこにも行かないで………。」
「っ、!! ばか………。」
沈黙を破って顔から湯気を出しながら私にぎゅっと抱きついて言うニックに、私は熱くなった頬を冷たい手で覆い隠しながらぼそっとつぶやきます。
「え、理不尽。」
さっきの気恥ずかしい空気はどこに行ったのやら、ニックはきょとんと言葉を漏らします。間抜け面がとっても面白いです。
「ふ、ふふふっ、ははははは!!」
「もう、シャーリー!!」
「ふふふ、だめ、面白いっ、」
「ぶー、」
今まで通りの友達以上恋人未満の心地の良い空気に、私は自然といつも通りに振る舞ってしまいます。せっかく今日は、告白の返事をすると決めていましたのに。
「急がない。」
そんな私に気がついたのか否か、ニックが私の唇に人差し指をふにゃりと置きました。
そんな彼の行動に、またもや頬に熱が集まります。
せっかく少しだけ冷たくなっていましたのに!!
「ーーーじゃあ、いつ答えたらいいの?」
「う~ん、………簡単にわかると思うからそれまで待って。」
「分かった。」
子犬のようなニックに負けた私は、渋々頷きました。
彼は時々、というかよく腹黒です。今回も何か企みが存在しているのでしょう。下手に邪魔したくありませんから、必死になっていつ告白のお返事をするかどうかのタイミングを見計らいましょう。
「………頑張るわ。」
「うん、気負わせすぎちゃったね………。」
ニックの独白はよく聞こえませんでしたが、あまりよくないことを言っているような気がします。
というか、春先のはずですのに、とっても暑いです。ぽかぽか陽気というより、蒸し器の中のようにとっても蒸し蒸ししています。汗がたらりと流れ落ちそうなくらいです。
「シャーリー、頭がパンクしちゃってて可愛い。」
「!!」
十中八九こいつのせいですよね!?
頭がパンク寸前なのも!身体がびっくりするくらいに暑いのも!全部全部こいつのせいですよね!?
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