第22話
「ご飯持って来たんですが………、いちゃいちゃしすぎるようなら報告しますよ。」
「ひぃっ、勘弁して!!」
ニックは大きな悲鳴を上げました。私と離れ離れになるのはよほど嫌みたいですね。
「先輩、追加給金はいくら増やして欲しいですか?」
にっこり笑って特別手当てと引き換えに黙っとけというのをやわらかく告げると、先輩は引きつった表情をして口の端をピクピクと揺らしました。
「買収するってか?」
「いいえ、昼食の給仕代です。」
国王陛下達が私とニックに“影”をつけていることには気がついています。なので、表立って買収するわけにはいけません。
「1回につき500ベル。どうだ?」
「200ベル。」
「じゃあ300で。」
お馬鹿なのか先輩は安値で取り引きしてきました。口封じ代も含まれていることに気がついているのにも関わらず、この値段でいいとは破格ですね。
「じゃあニックは150ベルお小遣いから払って。」
「僕が全部だすよ。」
「いいえ、半分出すわ。」
ニックと押し問答していると、先輩が笑い始めました。本当に迷惑な人ですね。
「じゃあニコラス王太子殿下が200ベル、ローゼンベルクが100ベルでいかがですか?殿下は女性に、というか好きな女にお金を使わせたくないんでしょう?」
「あぁ、」
「ふひゃっ!!」
好きな女性という言葉にびくりと私は身体を揺らしました。いきなりは心臓に悪すぎます。自重してほしいものです。
「うわぁー、顔真っ赤。リア充爆発しろー!!」
「お、お断りしますわ!!」
「あぁ、断るね。僕たちの幸せはこれからなんだから。」
地団駄を踏んだ先輩に、私とニックはそれぞれ微笑みを浮かべて返しました。やっと幸せになれるのです。簡単に離してなるものですか!!
………まぁ、私は忘れていたわけですが。
少し視線をずらすと、ニックは私の背中にすりっと頬擦りしました。
「ニック、ご飯食べよう。私、お腹すいちゃった。」
「分かった。
今日のデザートはなんだろうね。」
「う~ん、………スコーン?」
「それは君の希望だろう?」
「バレちゃった!」
私とニックは恋人繋ぎで手を繋いで、楽しく笑い合いながら昼食の用意されている休憩室に向かいました。
「おっ、シャーリー半分正解だねー。」
残念ながら私の予想は半分正解半分不正解という結果になりました。何故ならプレーンのスコーンとジャムが昼食のメインだったからです。
「デザートは、………クッキーね。」
「チョコチップクッキーだよ!!」
チョコレートの含まれるデザートに目がないニックは嬉しそうに言いました。こういう時に身体が揺れるのは昔から変わっていないようです。今度外国の書物で見つけたホワイトチョコレートでも持って来ましょうか。
「
「料理長が気をつかってくださいました。」
「優しですよね。好き嫌いとかも聞いてくれますし。」
私の言葉に、先輩は苦笑しまいした。好き嫌いぐらいあっても人間らしくていいと思うのですが。
「シャーリーは生のトマトが苦手だったよね。」
「えぇ、あのぷちゅってなるのがどうしても無理なのよ。」
ずうぅんと俯くと、ニックは苦笑しました。トマトの料理ってそこそこ多いんですよね。色々なものに生のものが添えられていて地獄です。
「ま、昔よりは食べられるんだしいいんじゃない?」
そい言ってスコーンを食べ始めたニックに倣って私もナイフとフォークを手に取りました。
「そうね。
あ、これブランデーが効いてて美味しいわね。」
禁酒中ですが、食事に含まれているものはいいですわよね!!
いちごジャムを塗ったスコーンは、甘さがちょうど良く、バターが癖になる感じでした。
ちらりとニックの方を向くと、スコーンに夢中でかぶりついていました。やっぱり甘いものが大好きで目がないなようです。
「ニック、1つあげようか?」
フォークに刺したままの一口大に切ってチョコレートソースを絡めたスコーンを、ニックの口元に持っていきました。私はもうお腹いっぱいです。
ぱく!!
もぐもぐとリスのように幸せそうに食べるニックを、私は頬杖をついて眺めました。
「ほら、あーん、」
もう1口あげようと持っていくと、無防備な姿で大きく口を開けました。可愛いです。
「美味しい?」
「うん、」
幸せそうに微笑んで食べる姿が好きで、私はいつも彼に自分の食事を分け与えてしまいます。
「間接キスなの気づいてないの?」
「「!?!?!?!?!?」」
私とニックは驚愕しました。というより、今まで何故気が付かなかったのか自分を殴りたい気分になりました。それはニックも同じだったのか、ニックは机に頭を打ち付けました。ガンガンと鈍い音が響いています。
「あ、これ言っちゃいけなかったパターンですかね?」
「え、えぇ!!そうですわね!!えぇそうね!!言っちゃいけないパターンですわあ!!」
私は先輩を怒鳴りつけました。ヤケクソ気味に大きく叫んだのを効いたニックも大きく頷きました。
「気づいていなかったんだから!気づかないまま幸せに終わらせといてよ!!」
ニックの叫び声も加わり、休憩室は騒がしい泣き叫ぶような声でいっぱいになりました。私はファーストキスもまだにも関わらず、何故か幼い頃からいっぱい間接キスをしてしまっていたようです。
「ニック、忘れられなさい!!」
「嫌だ!!」
「忘れろ!!」
「いーや!!」
「ははは、ああはははっはははっははははははは!!」
「「貴様~!!」」
私とニックは失礼なほどに爆発している先輩に向けて魔法を作り出しました。
その後、図書館の休憩室は氷漬けになり、ところどころに焦げ目ができてしまいました。当然私とニックは私の両親と両陛下にかっつり絞られ、………なかったのです。何故かきついお咎めなしでした。ゆるくもう喧嘩しちゃだめだよ、と言われただけです。というか、うちの両親が怒らないなんて変です!!明日剣が降ります。槍が降ります。お金が降ります。それくらいに、緊急事態なのです。
「ねぇニック、おかしいと思わない?」
「うん、僕も思ってた。」
お咎めされずにニックの部屋に戻って来た私たちは、向かい合って座って考え込んでいました。これから何が起こっても大丈夫なように2人で対策を立てるためです。
不可思議なことが起こったら警戒しておくのが当たり前でしょう?
「シャーリー、明日は足元に注意しよう。」
「頭上もね。」
ニックの茶々に、私は悪戯っぽく返しました。
まぁ身体中に結界魔法を張り巡らせておくのが模範解答でしょう。
「ねぇシャーリー、魔力の無駄遣いって言葉知ってる?」
「知らないわ。私達に関係あるの?」
「ないね。」
私達はゆったりと紅茶を楽しみました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます