第4話


「…さま、きさま、貴様、貴様~!!」


 周りに水と光、蔦が渦巻く平和な組み合わせな魔力を纏いながら、お馬鹿サイテークソ野郎がこちらに踏み出しきました。相当お怒りのようですねー、平和ですが。しかも、私の魔力の方が圧倒的に強い為、お馬鹿サイテークソ野郎の魔力は全て無力化され、尚且つ、私の氷の魔力によって水の魔力は凍ってしまっていて、緑の魔力には霜がかかっています。役に立たない彼の魔力は一切私に届いてきていません。わざわざ私に攻撃するように伸びているのに。


「うわぁー。酷……。」


 お馬鹿ピンク頭が可愛らしい顔をぐぅっと顰めながら毒を吐きました。……酷いお顔。まぁ、お馬鹿サイテークソ野郎のやったことを考えるれば、当然のことですよね。周りも似たような反応を浮かべています。侮蔑、軽蔑、蔑みを誰も隠すことをしようとしていません。これらの反応から見ても明らかですが、アイツの事は、誰も助けたいとは思わないでしょうし、なんなら、陥れてやろうという思考を持っていそうです。ここまで来ると可哀想ですが、手加減をしてあげる義理は私にはありません。だって、私にここまでやるに至らせたのは貴方なのですよ?

 お馬鹿サイテークソ野郎は、お馬鹿ピンク頭の言葉で尚頭に血が昇ったらしく、青筋を立てながら、怒りの形相でこちらに詰め寄ってこようとしています。ピンク頭ちゃん、いい加減私の隣に立つのやめてくれませんかね?流れ弾を喰らうのはごめんなのですが…。


「なによ!私は事実を言ったまでよ!言いたい事があるなら、はっきり言えば?」


 ピンク頭ちゃんはなんと、真っ向勝負をする気なようです。まぁ、彼はどうせ廃嫡でしょうから、身分の差があれど、言い合いに発展したとしても、殴り合いに発展しなければ、問題はないでしょう。ですが、どこからそんな汚い言葉が出てくるのかは気になりますね。まさか、あんな可愛らしい口から飛び出しているとか言いませんわよね?


「はぁ!?お前、誰に口聞いていると思っているんだ!?この、クソ女!!」


 あ、こちらにもいましたわ。キラキラ容姿でお口が悪い方が……。


「クソ野郎よ、それに、そんな奴にお膳立てしておしとやかに話しかける必要性を全く感じないからでね。あんたなんかに掛けてやった時間は1から10まで無駄だったようね。」


 ぴ、ピンク頭ちゃん?さ、流石に言い過ぎな気が……。ま、まぁ、でも、お嫁に貰ってもらえる先が元々無いんですからお口が少々悪くてもだ、大丈夫ですわよね?


「アイザック、シャーロット嬢、マゼンタ男爵令嬢、そこまでにしなさい。」


ばっ


 あのお方のお声を聞いて、私を含め、パーティー会場にいる者が皆跪きました。


 社交会では、あのお方には、最も身分、家柄が高い者から話しかけますが、学園では、総合成績の良い者から話しかけるのが礼儀です。今日にて私達は学園を卒業いたしますが、まだ学園内にいますから、おそらく、主席卒業生である私が話しかけるのが礼儀でしょう。

 私は完璧なカーテシをして典型的な挨拶をします。


「皆を代表して国王陛下にご挨拶申し上げます。ローゼンベルク侯爵家が娘、シャーロットです。この度は私達の卒業パーティーにお越しいただいて誠にありがとうございます。」


 凛とした声で堂々と言葉を言うのがポイントです。それだけで、印象がとっても良くなりますからね。


「うむ、相変わらず其方は容姿・声ともに、月の精霊の如くとても美しいな。」


「光栄にございます。陛下の方は相変わらずお元気なようで、幸いです。」


 陛下は口調こそ年老いているようですが、実際はとても若々しいです。白髪混じりの太陽のような金髪に藍色の瞳で穏やかな雰囲気の方です。最近お目にかかっていませんでしたが、お元気そうで何よりです。



 この時の私は全く分かっていませんでした。事態が尚のこと混乱しつつあることに……。


「さて、シャーロット嬢、其方は不当な理由にて公衆の前でアイザックに婚約破棄をされてしまったようだね。しかも、その月の精霊の如く美しき容姿を露わにした途端に婚約破棄を破棄しようとされそうになった、合っているかね?」


「誠にございます。」


 国王陛下のお言葉に私は平伏したまま答えました。私以外のみなさんも平伏しています。低位貴族の人達特に三男、次女以降の方達は一生のうちにお目にかかれるか、かかれないか微妙なラインだからか、非常に感極まっています。忘れがちですが、陛下ってとっても慕われているんですわよね。私にとってはとっても優しいおじ様という感じなので、公の場以外では素の自分で改らずに普通に話しているので、ね……。私のお父様は、陛下の幼馴染であり護衛でもあるので、小さい頃はよく遊んでもらったものです。ちなみに、私の本来の容姿を昔から知っている数少ない人物でもあります。


「シャーロット嬢、アイザック、マゼンタ男爵令嬢、前に来て、面を上げよ。」


 陛下について整理していたら、お声がかかりました。陛下の登場が吉と出るか、凶と出るか、ちょっとワクワクしながら、私は陛下の御前へあゆみを進めました。


「叔父上!!どうか、シャーロットと俺の婚約について、お言葉をください!!シャーロットが私の許可も取らず、勝手に私から離れると言うのです。この愚かな女に罰をお与えください!!」


 私は、お馬鹿サイテークソ野郎の発言のあまりの愚かさに目眩を起こして固まってしまいました。今までの会話にそんな要素がどこに合ったのでしょうか?

 分かりません。

 公の前で婚約破棄を言い渡したのは彼、もう彼なんて綺麗な呼び方すら馬鹿馬鹿しいですね。公の前で婚約破棄を言い渡したのはあいつですし、昔貶した私の本来の容姿を知って、いえ、改めて見て、書類上は成立していないにしても沢山の証人がいる婚約破棄を撤回しようとしているんですわよ。どちらが悪いのかは一目瞭然ですし、自分中心に世界は回っているのではないのですから、許可を求めないのは当然な筈です。あいつにはそんな権限なんて一切ありません。あったとしても、私のプライドがあいつにいちいち許可を求めることを許しません。

 落ち着きを取り戻すにつれてふつふつと湧き上がる怒りを仮面の下に隠して、私は陛下のお言葉を待つ事にしました。


「うむ、それが何と言うのだ。」


「へ?」


 陛下のありがたい?お言葉に対してお馬鹿サイテークソ野郎は間抜けで情けない表情と声を返しました。見るに耐えませんわね。本当に酷過ぎます。11年あんなのの婚約者だっただなんて考えたくもありませんわ。


「おそれながら陛下、私を北の修道院に送っていただきたく存じます。」


「はい!?」


 お馬鹿サイテークソ野郎のせいで頭がまともに回転しなくなってクラクラと目眩を起こしていた私は、突然あまりに突飛なピンク頭ちゃんの発言に思わず叫び声を上げてしまいました。あぁ、なんて事でしょう、私の淑女の仮面が……。今日始めて被った私の淑女の仮面が……。

 絶望に浸っていた私は気が付きませんでした、皆さんが私の声を気にする余裕すら無いことに……。


「うむ、マザンタ男爵令嬢、何故そのような事を言うのかな?」


 陛下はそんな私を一瞥した後に私を放って話しを進め始めてしまいました。


「私は、私は今回このような大きな事件を起こす発端となりました。ですので、罰として北の修道院に入りたいのです。」


 ピンク頭ちゃんは至極真面目に陛下に向き合って言いました。少し落ち着きを取り戻した私は、冷静に“責任を取る”と言ったピンク頭ちゃんを眺め始めました。

 彼女の声音には反省の色が混じり、少し目を潤ませる姿は、迫真の演技です。あ、演技って言ったら可哀想ですよね。ですが、私には計算高い?彼女の演技にか見えないのです。


「君は自分が事件の発端だと言ったね。何をやらかしたんだい?」


 陛下は朗らかな声音でピンク頭ちゃんに問いかけました。今なら嘘を言えば、逃げる事も可能だよとでも言っているかの様な……。


「……、私利私欲の為に、金持ちの家の子息を落としました。……落とした子息の中には婚約者がいる者もおり、シャーロットさま、いえ、ローゼンベルク侯爵令嬢以外にも私の所為で婚約破棄を申し付けられたご令嬢もおります。家と家との契約である婚約を破棄させてしまう事案をいくつも起こしております。これらの事件の発端は私です。」


 私は彼女の言葉に思わず息を飲みました。何故なら、馬鹿だと思っていた彼女は、実際には頭の回転が速くて、思慮深く周りを見回していて、何故起こったのかを理解していたということが分かったからです。自分の方が賢いと傲って彼女を馬鹿にしていた私が許せません。それに、彼女は逃げなかった。事実を真っ直ぐに伝えた。賞賛に値します。


「うむ、それだけ理解しておりながらそなたは何故この様な行動を起こした。」


 国王陛下はピンク頭ちゃんにいえ、マゼンタ男爵令嬢に逃げる気がない事を悟ったのでしょう。真面目な表情で問いかけました。事情によっては、罪を軽減すると言わんばかりです。


「い、家にお金がないからです。」


 マゼンタ男爵令嬢は苦し気に唇を噛んで拳を握りながら答えました。ですが、そのことは此処にいる誰もが知っていることです。他にも、何か事件を起こした大きな理由がある筈です。それが知りたい、そう思っているのは私だけではない筈です。


「それだけかね?」


 国王陛下は猛禽類を思わせるような威圧的な気配と声音で尋ねました。まるで、まるでこの空間全てが国王陛下に支配されたかの様な錯覚に陥ったのは私だけではなく、きっとこの場にいる全ての人間でしょう。現に、隣にいるお馬鹿サイテークソ野郎とマゼンタ男爵令嬢は息を飲み、金縛りにあっているかの様です。


「……。」


 だんまりになってしまったマゼンタ男爵令嬢に対して国王陛下が尚のこと鋭い視線を寄越しました。


「……マゼンタ男爵令嬢、わしはそれだけかと聞いているのだが?」


 陛下はもうマゼンタ男爵令嬢から言い出すのを待つ気はないようです。


「あまりに醜い理由ですので、この場で言う事ではないかと思います。」


マゼンタ男爵令嬢はこれ以上聞かないでくださいと言わんばかりに静かに深く頭を下げました。


「言ってみるがいい、どうもわしには動機がそれだけには思えんのだよ。」


だが、陛下はにやっと笑って尋ねました。どうやら陛下には何か大きな思惑があるようですわね。


「わしにはある程度のことならば解決してやれる程の力がある。そなたは賢そうだからの、賢い人材は拾っておくに越したことはない。」


あぁー、そういうことですかと納得してしまった私もマゼンタ男爵令嬢に陛下と同じ感想を抱いていたからでしょう。それに、使える人間は有効活用するに越したことはありませんからね♪


「……お父様に、……お父様に売られそうになったからです……。」


マゼンタ男爵令嬢が泣きそうな震える声で言いました。想定していた内容でしたが、実際に本人の口から聞くと重みが圧倒的に違いました。1人で苦痛に必死で耐えてきたであろうマゼンタ男爵令嬢は強い少女だと不覚にも私は再確認させられることとなりました。


会場がいつのまにかざわざわとした囁き声に包まれていました。


『え、嘘でしょう!?』

『親が子を売るとかありえない!!』

『マゼンタ男爵家ってなんか黒い噂が絶えなかったよな。』

『男爵は確か賭博好きじゃなかったか?』

『それで娘に尻拭いさせるとかサイテーすぎるだろう……。』

『全ては男爵は責任だな。』

『というか令嬢が頭良かったとか意外だな。』

『あいつ馬鹿面してるけど、成績自体はいつもそこそこ良かったぞ。』

『私、あの子に婚約者取られたけれど、結果的にはこれでよかったと思ってるし、同情するわ。』

『わたくしもよ。あんな浮気男なんかと結婚しなくて本当にわたくし良かったわ。』


酷い言葉も混ざっていましたが、どちらかというとマゼンタ男爵令嬢ではなく、父親である男爵への罵詈雑言が多く聞こえてきました。

それに、ついでと言わんばかりに浮気をした子息への罵倒も聞こえてきました。


えぇ、えぇ、もっと言ってくださいまし!!

浮気した御子息(ゴミクズ)どもにはもっともっとお釣りが返ってくるくらいに言って差し上げるべきですわ!!

性根、ぶった斬って差し上げましょう!!


陛下の御前ではなかったら猫をかぶる必要がなくなった私はこう高らかに言っていたでしょう。


「静粛に。あーそうそう、皆面を上げよ。その姿勢は辛いであろう。」


陛下の荘厳なお言葉がざわざわとした悪口カーニバルなホールに響きました。

瞬間、ぴたりと静寂がホールを支配し、皆が一斉に顔を上げました。

流石のカリスマ性ですわ。


「うむ、マゼンタ男爵令嬢、そなたはそなたの父が悪いとそういうのかね。」


「……いいえ、原因を作り出したのは父ですが、この誤った選択をしたのは他の誰でもない私です。結局は私もあの男と同じです。」


一拍置いて聞こえてきた言葉には嘲笑が含まれていました。


「ほう、だからそなたは修道院に赴きたいとわしに申しておるのか?」


陛下は驚きを含んだような声音でマゼンタ男爵令嬢にお聞きになりました。


「はい。私は罪深き人間です。ですから、修道院に赴くことをお許しください。」


「と、申しておるのが、シャーロット嬢はどう思うかね?」


「わたくしは、彼女のしたいようにさせるべきだと思っております。」


私は陛下が求めているであろう返答とは正反対の言葉を述べました。


「ほぉう……。」


陛下が興味深そうな視線を私に向けてきました。ですが、彼女のためにもここで引き下がるわけには参りません。


「北の修道院はとても厳しいところであると伺っております。……ですが、それはあくまで箱入りに大事に大事に育てられた貴族令嬢にとってであると、そうわたくしは考えております。」


暗に彼女ならば大丈夫だと私は胸を張って言い切りました。


「そうだな。たしかにあそこは問題を起こした貴族子女の溜まり場と言っても過言ではないであろう。ならば何故彼女をそんな魔窟に放り込もうとしている?そなたは令嬢を気に入っているだろう?」


「えぇ、聖属性の魔力の持ち主ですし、何より頭の回転も早い。わたくしが気に入らない要素がどこに存在しているのでしょうか?」


「……どこにも存在しておらぬな。ならばもう1度聞こう。ならば何故北の修道院に行こうとする令嬢を止めるのでなく、助けようとする?」


陛下はふっと笑みを溢したあと、私の思考を読もうと探る視線をよこしました。全てを見透かされそうな不思議な強い意志のある視線です。


ですが、やっぱり私はここで陛下と対立することになっても引けません、引くことができません。


「気に入っているからこそですわ。」


私はにっこりと笑って言いました。お馬鹿には見えない、それどころか思慮深く見える、作り上げられた笑みです。


「北の修道院は今現在、問題児とされるご令嬢によって8割が埋まってしまっている現状です。」


「……そなたはどうしてそのような無意味なことを知っておるのだ?」


陛下は呆れたような声音で溜め息を吐きながら言いました。


うふふふ……、陛下は私が使える人間であれば、どのような身分・生まれ・性別・性格・経歴であろうとも利用することをよ~くご存知でしょうに。


「理由はなんでもよろしいではありませんか。

 それはさておき、わたくし、このことを知った時に不思議に思ったことがあったのです。」


私は全員の視線を私に向けさせて、私だけに注意が行くように仕向けました。何故なら、マゼンタ男爵令嬢が私の立場が悪くなってしまうと慌てて真っ青なお顔でお口を挟もうとしたからです。


人が話している最中に割って入るのは“めっ!”ですのに。


「どうして北の修道院が問題児……、もとい、ご令嬢でいっぱいにならないのか、と。」


陛下はやっと私の言いたいことが分かったのか、僅かに困ったような笑みを浮かべました。


「……それで?」


「ふふふっ、わたくし、どうしても気になってしまって院長さんに尋ねてみたのです、

 『どうして修道院がご令嬢で溢れかえらないのですか』

 って。」


私は扇子で顔を隠しながら、優雅に見えるように小首を傾げて一拍置きました。


「院長さんはわたくしにこうおっしゃったのです、

 『普通に一市民として、平民として生活できるようになったご令嬢から、平民として修道院から出て行ってもらっているんです。』

 と。

 修道院に送らるご令嬢のほとんどは、問題を起こしてしまったご子息のように監禁されるのではなく、勘当されてしまっていらっしゃいます。ですから、貴族子女が最もよく送られてくる北の修道院では、ご令嬢方が平民として日常生活が送れるようにして追い出す……ごほん、出て行っていただいているそうです。出て行っていただかないと、すぐに修道院がご令嬢が溢れかえってしまってしまうようで……。

 それでも、いつまでもお貴族様気分で生活なさっている平民の偉そげなご令嬢、もとい、少女や女性などは永遠と出られなくて、今最もご高齢なお方は85歳だそうですわ。」


「君はわしに何を言いたいのかい?」


陛下は分かりきったことを、周囲の人間に理解させるためだけにわざわざ尋ねた。


「たとえ北の修道院に入ったとしても令嬢ならば、すぐに追い出されてしまうでしょう、と言いたいのですわ。」


「……マゼンタ男爵令嬢、そなた、家事はどのくらいできるかね?」


私の言わんとすることを理解した陛下は私を助けるために動き出しました。


「…、私の実家には使用人が父専属の執事しかできません。ですから、家事は全て私が一人で行っておりました。ですので、家事は一通りできます……。」


自分が修道院で生きられないことを悟ったマゼンタ男爵令嬢は真っ青な顔で唇を噛みながら言いました。


「そうか。シャーロット嬢、彼女が北の修道院に入ったらどうなるかね?」


「可哀想ですが、おそらく、すぐに修道院に追い出されてしまうでしょう。なにより、今回の他人の婚約者を奪うという行いについて彼女は深く反省しておりますし。」


私はマゼンタ男爵令嬢に笑いかけました。


「それにわたくし、彼女にとても感謝しているのです。彼女のお陰で穏便に婚約破棄できましたし。」


「え……。」「はぁー!?」


マゼンタ男爵令嬢の僅かな呟きと、元婚約者であるアイザックもとい、お馬鹿サイテークソ野郎の叫び声がホールにこだましました。

陛下の御前で叫ぶなんてもうお馬鹿サイテークソ野郎には1つも救いどころがないですね。


「さっさとくたばってくれないかしら……。」


あら、つい声に出してしまいました。扇子でお口を隠して置いて正解でしたね。

本当に僅かな呟きでしたし、扇子が遮ってくれていましたから、よっぽどお耳が良くない限り聞こえないでしょうね。………聞こえませんでしたよね!?


……陛下のくつくつという笑い声が聞こえてきました。


腹を抱えて笑うのを必死に耐えている陛下を私は座った目で見つめました。

聞こえてしまったのですね………。


「陛下?このことはご内密に。」


私はとびきりの笑みを浮かべてお願いしました。


陛下が引き攣った笑みでたじろいでいるのは決して私の所為ではございませんよ?


「……承知した。だから、その笑みを沈めてくれ。本当に“それ”は、その笑みは、心臓に悪い。」


私はすっと笑みを消して無表情になりました。

必死の懇願を聞き入れないほど、私は性悪ではありませんのよ?


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