第3話


「あのー、シャーロット様、そろそろ再開しても構いませんか?」


スマラグディ様の言葉で私は、はっと我に帰ります。


「えぇ、お待てせしてしまって申し訳ございません。」


「いえいえ、シャーロット様の銀髪にアメジストの瞳は相変わらずお美しいですね。パーティー会場に突如現れた月の精霊の様です。」


「ありがとうございます。殿下以外にその様に言われるのは初めてですわね。地味で陰気くさい私にはもったいないお言葉ですわ。」


 はい、お気づきの人が多いかと思いますが、ささやかながらお馬鹿俺様王子様への私からの嫌がらせです。


『やっと、地味で陰気臭い貴様から解放される!』


 この言葉、存外私は傷付いたんですよ?

 それに、この髪と瞳の色が地味なはずありませんから。まぁ、陰気くさい顔というのは事実かもしれませんが……。いくら傾国と言われたお父様とお母様に似ていても私自体はそこまで美人ではないのですから……。私はお父様にそっくりで大人気なお兄様とは違うのですから。まぁ、そのせいで女嫌いになって潔癖で冷たい態度しか家族以外に取れないお兄様はご愁傷様ですが。でも、……本当は優しい人なんですよ。素直に感情を出すのが苦手で、不器用なだけで……。


 いざ真偽を始めるとなると少しだけ怖い。堂々としなくては、大好きな家族の顔に泥を塗ってしまう。だから頑張りなさいシャーロット。ローゼンベルクの長女として、胸を張ってこのパーティー会場を闊歩なさい!!


「はぁ?」


 あら?お馬鹿俺様王子様が唖然としていますわね。なんででしょう?こてんと首を傾げると次の瞬間、顔を真っ赤にしたお馬鹿俺様王子様がとんでもないことを口走りました。


「こ、婚約破棄は無しにする!」


「はぁ?」


 はぁ?と言った私は悪く無いと思います。こんな大勢の前で大恥をかかせておいてやめにする?笑止千万、誰もそんな事は認めないと思いますし、何よりこの1番の被害者である私が認めません。


「と、突然何を言われるんですかぁ?アイザックさまぁ~。シャーロット様はチェリーの事をいじめていたんですよぉ~。アイザック様はチェリーの事が大切ではないのですかぁ?それとも、気高くて、高貴なアイザック様があんな、悪女に屈するのですかぁ?」


 うんうん、お馬鹿ピンク頭ちゃん色々と気に入らないけれど、その調子でお馬鹿俺様王子様もっと止めて下さいね。気に入らない部分に関しては後からしっかりと指摘して締め上げて差し上げますからね。自分の首を自分から締めている事にどれくらい経ったら気づくのかしら?

 ふふふ、楽しみね。


「あ、う、く、屈する訳ではない、チェリー。ただ、あいつが俺にピッタリな容姿だったから……、と、隣に並ぶ権利を再度与えてやろうと思ってな。だから、おまえとは別れる。……光栄に思えシャーロット!この俺様の横に立つという栄光を再度与えてやろう!!」


 プツンと頭の中で何かが切れる音がして怒鳴ってしまいました。


「「い、いい加減にして下さい」まし!!」


 あら?私の声だけではなかった気が………?

 きょとんとしているとお馬鹿ピンク頭と目が合い、私と同じ様なきょとんとした表情をしていましたが突然、お馬鹿俺様王子様に絡めていた腕を解いてお馬鹿俺様王子様の正面に立ちました。どうしたのでしょうかと思っていたら、お馬鹿ピンク頭がとんでも発言をかましました。


「サイッテー!あんたなんかに媚び売ってた私が馬鹿みたい!!言われなくてもあんたとは絶交よ、絶交!!」


 お馬鹿ピンク頭の言葉に誰もが絶句してしまいました。誰1人何も言いません。ぴ、ピンク頭ちゃん怒るのは分かりますけど、私の計画がどんどん崩れ落ちていくので、これ以上は………。

 そんな馬鹿げた事を考えていたら、不意にクルッと私の方を向きました。


「あ、シャーロット様!!先程は濡れ衣を着せてしまい申し訳ありませんでした!」


 あぁー、計画が……。私の折角の計画は無念にも、彼女のこの言葉によってガタガタと音を立てて全て崩れ去っていきました。


 彼女の発言によって、会場を陣取ってしようとしていた真偽はする必要がなくなってしまいました。

 そんなっ……。折角、折角お馬鹿俺様王子様に大恥をかかせてやろうとせっせと準備致しましたのに!あんまりよ!嫌、嫌嫌!!


「シャーロット、こっちにこい!!何故その美しい容姿を隠していた!あぁ、貴様ほど俺に相応しい女は他におらんだろう……。婚約破棄は撤回してやる。さぁ、こっちに来い!!」


「はぁ?」


 さっきの絶望感がピューっとどこかに行ってしまい、代わりに怒りが到来して来ました。


 ピキピキ、パキンっ


 物凄い勢いで、パーティー会場が全て凍てついき、氷の城と化してしまいました。


 “魔力の暴走”ふと頭によぎり、人生初の魔力暴走があいつのせいとか本当に最悪と悪態をつき、やけくそでもう自分はどうなってもいいからお馬鹿俺様王子様もといお馬鹿サイテークソ野郎に大恥をかかせてやろうと思いました。

 そうして心の中で悪態を吐きながら私は周りの状況を確認しました。パーティー会場のみなさんは男性はタキシード姿で唖然とし、女性はそそくさとストールを出して羽織っていました。中には、パートナーにジャケットを真っ赤な顔で借りている者もいました。パートナーが婚約者では無い人はその恋が実ります様に。あら?ふふふ、アンがスマラグディ様にジャケットを借りているわ。2人ともお耳まで真っ赤、できる男とできる女、お似合いの組み合わせね。


 私は全ての属性の適性を持つ稀有な存在ですが、1番得意なのは氷属性でその次が光と聖属性です。魔力の暴走によって氷の城と化したパーティー会場はその属性に大きく作用されていました。人以外の全ての物が氷属性の魔法で凍てつき、それにも関わらず、人には寒さ以外の害は無いどころか聖属性の魔法で癒され、私の周りには3つの属性を表す色のキラキラとしたエフェクトの様なものが輝いています。氷属性の水色、光属性の虹色、聖属性の黄金色、自分で言うのもなんですが、とっても綺麗ですわね。特に王家の血筋の象徴であると言われる光属性のエフェクトが美しいです。この魔力の暴走はさほど周りへ被害を及ぼしていないようですし、放っておいても構いませんわよね?


 それはそうと、お馬鹿サイテークソ野郎にどういう風に大恥をかかせてやりましょうか……?


 ーーー! あるじゃないですか、大恥をかかせるネタが考えるまでもなく沢山。そう、たーくさんね。


「お馬鹿サイテークソ野郎……、ご、ごほん、アイザック様、少し昔話しにお付き合い願えますか?」


 私は、妖艶に微笑み、穏やかな口調で言いました。


「あぁ!」


 お馬鹿サイテークソ野郎は、これが自分を苦しめ、もう2度と社交会に出られなくするものとは思わず、自分を褒めるものと思い、嬉しそうに許可してくれました。


 私はにっこりと穏やかな微笑みを周りの人達に振り撒いてからゆっくりと歌を歌うように言葉を紡ぎ始めました。



~ これはほんの少しだけ昔のある侯爵家の冴えない娘と王弟殿下の御子息の出会いのお話しです。 ~


 侯爵家の娘は、母親譲りの銀髪に父親譲りのアメジストの瞳を持つ派手な色彩の少女でしたが、傾国と言われた両親には似ず、地味で陰気な雰囲気の本好きな少女でした。本人もそれを気にしており、いつも不安いっぱいで、その気持ちが尚のことその少女の心に追い討ちをかけ、人見知りになってしまってました。ですが、優しい両親と兄には心を開いており、3人の前でだけは穏やかな少女でした。

 一方、王弟殿下の御子息である少年は、両親に散々甘やかされて育っており、我が儘な性格の小説風でいうと俺様キャラの少年でした。ですが、最悪なことに見た目が良く、貴族の中でも最も尊重されることになる魔力もとても強いものでした。王家の血筋ですから当然のことですが……。

 私は物語の主人公である2人の紹介をし終わったので、息継ぎのついでに周りを見回して反応が上々なのを確認して、再び語り始めました。



 そんな正反対で相性の悪そうな2人の出会いは当然上手くいきませんでした。

 双方が5歳のときに親同士での婚約が決まり、初めての顔合わせが行われました。そして、その顔合わせは双方にとって最悪な印象を植え付けることになりました。

『お初お目にかかります、ーーーーー様。ーーーーーーー侯爵家が娘のーーーーーーと申します。』

 そう一生懸命に挨拶をした少女に対して少年は、

『あぁ』

 たったそれだけしか返しませんでした。一般的な挨拶しか知らない少女は何がどうなっているのか分からず困惑してしまい、泣きそうになった挙句、母親のドレスにしがみついてしまいました。王弟殿下は少年を叱ってくださいましたが、少年は全く聞く耳を立てず、挙句の果てには

『おい、俺はお前の髪色と目が嫌いだ、変えろ。』

 そう少女のコンプレックである髪色と瞳に文句を言いました。

 少年と少女の出会いを語り終えた私は薄く微笑んでからストレートな銀髪を指に絡めました。私の小さい頃からの不安な時にする癖です。平然なふりはできても、実際、全く平気ではありません。緊張して今にも固まってしまいそうです。今まではお馬鹿サイテークソ野郎のせいで表立って発言してこなかったのでこういう場面に私は慣れていません。ですが、初舞台にはピッタリだと思っています。ローゼンベルク家の者として恥じぬ舞台にしなくてはなりませんね。

 そんな決意を胸に昔話しの続きを話そうとした時、ふと私が人に対して大きく意見をするのをやめることとなった言葉を思い出しました。『決して目立つな。俺だけが主役だ。俺の後ろに静かに佇んでいろ。』呪いの様な言葉。こう命令されたのはいくつの時でしたでしょう。考えても無駄です。忘れましょう。忘れなければ前に進めなくなってしまいます。

 えーと、なんでしたっけ、あーそうそう、出会いを語り終えたところでしたね。

 では、そろそろ続きを語り始めましょうか。


 私は大きく息を吸って、また歌う様に物語を紡ぎ始めました。


 それから少女は前髪を伸ばして瞳を隠し、髪をありふれた優しい色である、琥珀色に染めるようになりました。それから少女は、周りの人に不義の子と嘲笑され、挙句、婚約者にも馬鹿にされるようになりました。容姿を変えろという命令以外にも無茶な命令は沢山ありました。中でも、少女に1番の呪いを与えたのは、

『決して目立つな。俺だけが主役だ。俺の後ろに静かに佇んでいろ。』

という言葉でした。見た目、生き方、全てを否定された少女は限られた人の前でしか自由に生きられなくなってしまいました。

 少年の方はどんどん我儘が酷くなり、最終的には不貞を働き、少女に婚約破棄を突きつけましたとさ。


 おしまい



 シーンとした沈黙がやがて大きな拍手に変わり、アンはいきなり私に抱きついてきました。何故?しかも涙ぐんでいます。と、とりあえずよしよししたら良いのでしょうか?私は拙い手付きで出来るだけ優しくアンの頭を撫でました。すると、拍手の他にも歓声が加わり、女子生徒はハンカチで目元をぬぐい始めました。何故に?


 と、とりあえず、昔話しは成功したとみていいのでしょうか?



---不安げな、けれど、穏やかで慈愛に満ちたシャーロットを他所に、とある男は醜く、怒りでみちた表情でシャーロットを睨みつけていたことに、シャーロットを含め、周りの人達はきずかなかったとさ。---



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