第2話
ー魔術契約、大切な契約をする際に古代から用いられ、契約内容を破るとペナルティーが発生する恐ろしいものだ。ペナルティーは契約時に決める事が出来、過去の出来事の真偽を確かめることもできる。
確か高等魔術の教科書の一節にこの様な文章があったはずです。そして確かこの魔術には魔法陣を書くことが必要でしたね。
「誰か、ペンと紙を用意してください。」
「あ、あの!よかったら私のをどうぞ!。」
綺麗な赤髪をポニーテイルにしたこの意志の強そうな明るい茶色の瞳のご令嬢はたしか…
「まぁ、ありがとうございます。確か貴方はアンジェリカ・バーミリオン伯爵令嬢ですわよね。」
「は、はい。名前を覚えて下さっているなんて光栄です!」
ふぅー、あっていてよかったわ。記憶の資料と実物はやはり違うわね…。バーミリオン伯爵令嬢は資料よりも凛とした感じが美しい方ですわね。
「ふふ、優秀な方の名前を覚えるなんて当然のことよ。それにこの学園にいる方は皆様優秀ですから、全員の名前が言えましてよ。」
これはちょっとしたアピールです。優秀と言われて悪い気になる人はいませんからね。そうほくそ笑んでいる事に気付いていらっしゃる方はどれくらいいるのかしら?
「では、契約内容の確認ですが、私は『今回の真偽判定を行うにあたってパーティー会場内の人々に私が正しいと言わせる様に命令をしていない』という事でいかがでしょう?」
「あぁ、それでいいだろう。」
お馬鹿俺様王子様、本当にムカつくわね。
「それで?こちらは出来る限りの誠意を見せました。そちらはどうしますか?悪い事をしていないのであれば誠意を示す事ぐらい簡単ですよね?」
「あぁ!当たり前だ!お前の望みは何だ!」
「私のパーティー終了後の行動を咎めない、私に今後一切近づかないそれだけ約束していただきたいのですが。」
「その位ならいいだろう。」
ニヤニヤして気持ち悪い。
お馬鹿ピンク頭はこんなののどこがいいのでしょう?あ、次期公爵というところでしょうか!たしか彼女の実家の男爵家は今代限りでお取り潰しが決定した貧乏なお家でしたね。ですが、元々3代前の御当主様がとても商才に恵まれた方とかで、爵位を授けられただけのお家柄でしたからね、ざまぁです!浪費癖が酷い今代になってからは様々なお家に借金を作った挙句、手を出してはいけない所まで手を出してしまっていましたからね。ですが、残念なことにその事を告発した人の名前を思い出せないのですよね…。思い出したらその家系の人を巻き込んで差し上げますのに…。今彼女のお家がお取り潰しになるという情報以外社交会に出回っていないのは確か何の罪もない娘がいるに可哀想だからという理由で告発した人が彼女の家のお取り潰しの理由は明かさない方が良いと陛下に進言したのよね。思い出したら告白した人に許可をとってその事を社交会にばら撒いてしまいましょうか。お馬鹿俺様王子様のお父君である王弟殿下には悪いですが、意趣返しにはぴったりですわよね。
さらさらさらさら……カツン
私が魔法陣を描き終わる音がパーティー会場に響きます。
「では、契約内容を再度確認いたします。
1,この真偽で決まった事はいかなる事があろうとも覆らない
2,今回の真偽判定を行うにあたってパーティー会場内の人々にどちらかが正しいと言わせる様にどちらも命令をしていない
3, シャーロット・ローゼンベルクのパーティー終了後の行動をアイザック・アストレア咎めない
4,アイザック・アストレアはパーティー終了後にシャーロット・ローゼンベルクに今後一切近づかない
元々魔術契約の内容として無かったものもお馬鹿…ごほん、アイザック様のお約束いただけたものについては入れさせていただきました。よろしいですか?」
「あぁ、当たり前だ!俺は寛大だからな!」
……それ、自分で言いますか?普通…。ま、まぁ、お馬鹿俺様王子様に言っても無駄ですよね…、諦めましょう。
「では、血を1滴この魔法陣に垂らしてください。」
「俺に指図するとはいい度胸だな!」
「………。」
お馬鹿俺様王子様は今自分がとっている行動がこれから行われる事にどれほどの悪影響が起こるのか気づいているのでしょうか?ふふっ、お馬鹿ピンク頭の方は気付いているみたいですわね。ぷるぷる震えてます。安心してください。貴方達は誰を敵に回したのかこれからしっかりとお教えさせていただきますからね♪泣き喚いても知りませんし、止める気もありませんから覚悟してくださいな~。
「せっかく俺がお前の駄目な所を指摘してやったのに謝罪もしないのか……。まぁいい、血を垂らせば良いのだろう?」
いちいち煩いわね…。もうこのほんの数十分の間に慣れてきてしまって溜め息とか愚痴とかを溢さないようにするのが上手になってしまったじゃないの!要らない技術の獲得は時間の無駄なのに…。
ぽたり
血の落ちる音に合わせて魔法陣が光り輝き始めます。
「ほう……。」
周りから感嘆のため息が漏れます。当たり前ですが、この魔術は超高度なものです。今までこれが当然だと思っていたお馬鹿俺様王子様は一切気づいていないでしょうが…。
彼は魔法は得意ですが、まぁ、お馬鹿なので魔術の類は一切使えないんですよね…。魔法は得意なんですけれどね…。魔法は…。
まぁ、これで彼との魔法と知識の格の差を周りに示すことができますし、彼のお馬鹿さを納得し、どちらがこの国に不要かを理解していただけますしね!なんて素敵なんでしょう!
果たして、お馬鹿俺様王子様はこの先この国にいられるのでしょうか?こんな問題を起こしたのです。無事でいられないのは承知の上ですよね!魔術契約もできましたし準備万端!徹底的に叩き潰してもいいですよね!
「契約は終了いたしました!これより真偽を開始致します!」
私は高らかに宣言しました。
「恐れながらローゼンベルク嬢私が審判をさせていただいても宜しいでしょうか?」
彼のことはよ~く知っています。
「ではおバ、ごほん、アイザック様、スマラグディ様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ!彼ならばお前と違って信用できる!スマラグディ、貴様に審判という役を与えてやる!俺様にせいぜい感謝するんだな!」
曖昧な笑みを浮かべるスマラグディ様。あらあら、相当に困っていらっしゃいますわね…。あと、一部の女性のお馬鹿俺様王子様への殺気も見られますわね…。まぁ、それも当然ですわよね。だって、スマラグディ様は一部の女性からの人気が物凄く高いもの。スマラグディ・スプルース様、深緑のストレートな短髪に翡翠の瞳を持ち、次期宰相と言われるまでに頭脳明晰であり、侯爵家の嫡男。笑顔が絶えず、穏やかな性格。しかも婚約者がいない。まぁ、ここまで来るとモテないほうが不思議になってしまいますか。
ですが、本来の彼はみなさんご存知ありませんが、腹黒で負けず嫌いです。それに、座学1位を守ってきた私にずっと勝負を挑んできていましたしね。
彼のことは良く知っていますが、公平を好みますから安心して任せられますね。それに今回は100%彼は私の味方でしょうしね。
さぁ、スマラグディ・スプルース様、共に戦いましょう!
「では僭越ながら、このスマラグディ・スプルース、審判兼司会を務めさせていただきます。」
私はスマラグディ様が司会をし始めている隙に前髪を編み込み、近くにいたバーミリオン伯爵令嬢に湯煎タオルを持ってくるよう頼みました。もう婚約破棄されたのですから、髪の色や瞳を隠す必要ありませんね。
前髪が編み込み終わった途端に視界がとても良くなりました。サイコーです。
ザワッ
あら?周りの方がとても驚いていらっしゃいますわね。不義の子だと噂していた娘がいきなり容姿を表したかと思えば、両親そっくりなんですものね。顔立ちは吊り目な目元以外お母様そっくりですし、吊り目な目元はお父様そっくりですもの。親子じゃないと言う方が難しいですわよね。
「んな!?おまえその容姿はなんだ!?おまえは不義の子なんじゃないのか!?」
そんな中はっきりと噂を信じた挙句、私に向かって堂々とその噂を言ってきたお馬鹿さんことお馬鹿俺様王子様にみなさん唖然としています。そうそうもっとみなさんに醜態を晒して下さいね♪
髪の色を戻したら次はどんな反応を見せてくれるのでしょうか。
今から楽しみです♪
「ローゼンベルク様、湯煎タオルをお持ち致しました。これでよろしいでしょうか?」
仕事が早い女性は好みです。お近づきになっておきましょう。
「えぇ、ありがとう。あの、バーミリオン様よければお名前でお呼びさせていただけませんか?私のこともシャーロットと呼んでいただいて構いませんから。」
「ふぇ!?よ、よろしいのですか!!」
「えぇ。貴方とはもっとお話ししてみたいと思ったの。よければ今度うちにいらして頂戴。」
「こ、光栄です!!シャーロット様。私の事はアンとお呼びください!呼び捨てにして頂けると嬉しいです!!」
「ありがとう。」
アンは思いの外とても可愛い方ですわね。しっかりとした見た目ですし、普段抜け目がない感じなのに、驚くとわたわたするとか可愛すぎません!?ギャップ萌えです!ついつい微笑んでしまいました。
どわっ
周りがうるさいですわね。どうしたのでしょうか。こてんと首を首を傾げた瞬間今度は、会場から何人かの男子生徒がでていって女子生徒から黄色い悲鳴が上がりました。本当になんなの…?
「シャーロット様、素敵すぎます。…はぅ…。」
「アン?」
アンがよく分からない事を言って頬を赤く染めています。誰かこの状況を説明してください。
そんなこんなで会場は一瞬大変なことになりましたが、今は大分落ち着きました。そこで私は、はっとアンに持ってきていただいて湯煎タオルの存在を思い出しました。私の髪は特殊な植物で染めているのですが、暖かい水、お湯で濡らすと元の色に戻るのです。魔法で染める事もできるのですが、学園には姿現しの結界が張られていますので、校内に入ると元に戻る事になってしまうので使えないのです。それはそうと、湯煎タオルが暖かいうちに髪を拭いてしまわないと色が綺麗に取れないから早く拭かないといけませんわね。
パチン
今日つけていた唯一の髪飾りを外します。さらりと先程編み込んでハーフアップをする為に付けていた髪飾りに入れ込んだ前髪が滑り落ちます。前が見えなくなるので鬱陶しいですわね。卒業式が終わったら切ってしまいましょうか……いえ、それではこの私がお馬鹿俺様王子様の為に伸ばしていたと認めるみたいでなんか癪で屈辱的なので辞めましょう。編み込めば済む話です。
そんな事を考えながら髪を拭いていたら周りから息を飲む気配がしました。今日は本当に不思議な日ですわね。何にそんなに驚く必要があるのでしょうか?
ーーーそんなシャーロットの気の抜けた思いをよそに卒業生達は、気怠げに髪を拭く天より舞い降りし月の精霊の如く美しい才女をその瞳に焼き付けんとしていました。ーーー
琥珀色に染めていた髪を丁寧に拭き上げて銀髪に戻し、視界を塞ぐ邪魔な前髪を先程の簡易型ではなく、パーティーで通用する様な複雑な形で編み込み、付けて来ていた唯一の髪飾りを付けます。今日は特別に嬉しい日になりそうでしたから、幼馴染に頂いた1番お気に入りの髪飾りにアクセサリーを着用しています。ドレスは誕生日プレゼントにと、今日幼馴染に頂いた物で、いわゆる勝負服です!鮮やかな藍色のドレスで、宝石は装飾品にもドレスにも、サファイアとアメジストが使われてす。この勝負服が着られたのですから、ドレスを送って来なかった事だけはお馬鹿俺様王子様を褒めて差し上げても良いかもしれませんわね。
ほう……
周りから溜め息が聞こえましたが、みなさんをお疲れさせてしまったのは私ですから文句は言えませんね。せっかくの卒業パーティーを台無しにしてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいます。
……あ!そうです!!今回の件のお詫びにお馬鹿俺様王子様の慰謝料を使って、卒業生とそのパートナーを全員招待して再度パーティーを開きましょう!!慰謝料、いくら請求しましょうか?う~ん、今までの不当な扱いを考えれば多めに請求出来ますよね。それに、彼の失態によるものでも私は傷物令嬢になって結婚が難しくなってしまったのですからその分も踏んだくれますよね。
うふふ……
王弟殿下には悪いですが、今からとってもワクワクします!!
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