第四話 王女様が誘拐された

~シルヴィア視点~


「何だと! セレーヌが族に襲われただと!」


 王様から呼び出しがあり、玉座の間の扉の前に立った瞬間、扉越しに王様の大声が耳に入る。


 セレーヌ王女が襲われた! 彼女は確か、第二騎士団たちが護衛に付いていたはず。


 この扉を開ければきっと重苦しい雰囲気が部屋中に漂っているはず。


 気を引き締めて扉を開けると、第二騎士団長のアルベルトが、片膝を付いて首を垂れている姿が視界に入る。


「はい、私が付いておきながら不甲斐ないばかりです。奴らは予想以上に強く、私の部下も全滅しました。私が死ねば、この事実を報告できる者がいなくなる。そう思って、恥を忍んで逃げ帰った次第にございます」


 ゆっくりと近付くと、第二騎士団長のアルベルトが、首を垂れて王様に報告を始めた。


「王様、シルヴィア到着しました。話しが聞こえてきたのですが、セレーヌ王女が族に襲われたとか?」


「おお、シルヴィア、良く来てくれた。第一騎士団長との連絡が途絶えておってな。何か知らないかと思って訊ねようと思っていたのだが、その前にもっと重大なことが起きた」


 王様の言葉に衝撃を受ける。


 兄さんとの連絡が途絶えた? 兄さんはラルスの情報を隠蔽するために動いていたはず。まさか兄さんの身に何かあったのか?


 そのように考えていたが、すぐに脳裏に浮かんだことを否定して小さく首を横に振る。


 いや、そんなことはないはずだ。多少好い加減なところもあって時々ふざけるが、あれでも腕っ節のほうは強い。


 ラルスが相手ならともかく、そこら辺の奴らには負けない。実力はこの私よりも数段上だ。だからこそ、兄さんは第一騎士団の団長にまで上り詰めることができた。


 きっと兄さんは無事だ。何か特別な理由があって、隠密に行動しているのだろう。


 それよりも、一番の問題はセレーヌ王女が襲われたことだ。


「第二騎士団長、セレーヌ王女の安否は分かりますか?」


「シルヴィア副騎士団長。ええ、きっとセレーヌ王女は無事だと思います。奴らは、王女様を取引に使い、金を毟り取ろうとしている計画を立てていると口を滑らせましたので」


「そうか。今のところは無事なのだな。だが、こうしては居られない。直ぐに救出部隊を編成し、セレーヌを救出するぞ」


「それが宜しいかと。奴らと一戦交えて分かったことですが、第一騎士団長が不在となっている以上は、この国の殆どの戦力を使い、全力でセレーヌ王女を救出するべきかと。奴らは1人1人が各国の騎士団長レベルに匹敵します」


「なんと、そこまでの武人が族なぞに落ちぶれるとは、人生何が起きるか分からないものだな」


 王様がポツリと漏らす中、ワタシはアルベルト第二騎士団長の言葉に違和感を覚えた。


 気のせいかもしれないが、今の話し、少し引っかかる部分がある。疑問に思う箇所がある以上、ここは訊ねてみるべきかもしれないな。


「アルベルト第二騎士団長、相手は各国の騎士団長に匹敵するほどの武人たちと言っていましたよね。そして一戦交えたとも」


「ええ、そうですが何か?」


 首を傾げながら、彼は問いかけてくる。


「いや、騎士団長レベルが相手で一戦交えたにしては、どこもケガをしている様子がないなと思いまして。騎士団長とアルベルト第二騎士団長が手合わせをしているところを過去に見学させていただきましたが、その時は無傷では済まなかった。なのに今回に限ってどこもケガをしていないのは妙に変だなと思いまして」


 頭の中に浮かんだ疑問を彼にぶつけてみると、一瞬だけアルベルト第二騎士団長の顔つきが変わったような気がした。


 やっぱりこの男には何かありそうだな。


「あ、ああー。それですね。あまり王様に時間を取らせる訳にはいかないと思いまして、一部分省略させていただきました。確かに騎士団長レベルの奴らと戦いましたが、私がやられそうになると、部下たちが身を挺して守ってくれました。なので、このようになっています」


 アルベルト第二騎士団長が質問に答えるも、完全には信じきれなかった。脳内でシミュレーションをしてみても、確率的に考えて無傷で城に帰還することはほぼ不可能だ。


「一戦をしたにしては、着ている衣服に乱れなどがありませんね。戦ったのなら、土埃くらいは付いていそうなものですが」


「それは着替えたからです。王様が御前になるのですよ。あまりにも身だしなみを悪くしては、王様の気分を害すかと思った次第にございます」


「王女様が襲われたと言うのに、呑気に着替えていたかと申すか! 緊急時には王様も身嗜みにとやかくを言う――」


「シルヴィア副騎士団長、さっきから私を糾弾きゅうだんしてばかりですが、まるで私を悪者にしようと必死になっているようにお見受けします。まさかと思いますが、あなたがセリーヌ王女を襲わせた真の犯人なのでは? いや、正確には、姿を見せないあなたの兄が黒幕なのかもしれませんね」


 小さくニヤリと笑みを浮かべるアルベルト第二騎士団長の姿を見て、拳を強く握る。


 これ以上問い質しても、逆に私が罪をなすり付けられる可能性が出てくる。


「追求しすぎて悪かった。頭の中に浮かんだ疑問を解消しないとスッキリしない性格なのでな」


 軽く頭を下げて第二騎士団長に謝る。そんな時、王様が一度手を叩いて音を鳴らした。


「仲間内で争っている場合ではない。一刻も早く、セリーヌを救出する部隊を編成するぞ」


「そのお役目は私にお任せください。確実にセリーヌ王女を救出できる編成をいたします」


 部隊編成は自分がやると言い、アルベルト第二騎士団長は踵を返すと玉座の間から出て行く。


 このようなことになってしまった以上、ワタシも動いて手を打った方が良いな。


「王様、ワタシからも報告があります」


「何だ? 申してみろ」

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