第五話 いったい何が起きている!
~アルベルト第二騎士団長視点~
「それでは諸君、セレーヌ王女の救出は任せた。私も準備が整い次第、遅れて合流する。急ぎ王女様を助けに向かってくれ。君たちならできる」
「お任せください! 絶対にセレーヌ王女を救出してみせます!」
セレーヌ王女救出メンバーの兵士たちに激励の言葉をかけると、第二部隊の副隊長が返事をする。
セレーヌ王女救出部隊には、第一部隊、第二部隊の兵士が混同している。
第一部隊の隊長が不在となっている中、第一部隊の兵士の指揮権は私にある。第一部隊には、副隊長であるシルヴィアが居るが、第二部隊の隊長が、優先的に指揮権を得られるのだ。
あの男の所在が分からなくなったのは予想していなかったが、私としては好都合だ。お陰で城の警備を手薄にすることができた。
「さぁ、兵士諸君! 行くのだ!」
右手を前に出し、部下たちにセレーヌ王女の救出に向かうように命令を下す。すると、兵士たちは一斉に踵を返して、この場から離れ、城の門を潜って城下町の方に向かって行く。
これで、城の中にいる兵士は極一部。シルヴィアがいるものの、どうにか対処することができるだろう。
城に残っている兵士は碌に訓練をしていない成り立てばかりだ。こいつらなら、全員が束になってかかって来ても、瞬殺することができる。
「さぁ、始めようか」
踵を返して歩き、城の中に戻る。そして王様が居る謁見の間に向かった。
手薄になった城の中を歩いていても、兵士とすれ違うことはない。普通なら、誰か1人でもすれ違うものだ。
誰とも擦れ違わずに玉座の間に辿り着き、口角を上げる。
よし、予定通りだ。残った兵士たちは、それぞれ玉座の間から離れた場所で仕事をしているな。
扉を開けて玉座の間の中に入る。
しかし、視界に移った光景を目の当たりにして、困惑をしてしまった。
妙だな。シルヴィアの姿が見えない。
あの女は私を怪しんでいた。なので、王様の身を案じて護衛に付いていると思ったが、不思議と彼女はこの場にいない。
どこかに隠れているのか?
気配を探ってシルヴィアの居場所を突き止めようとする。けれど、玉座の間からは、彼女の気配を感じることはできなかった。
どうやらシルヴィアはこの玉座の間にはいないようだな。
本当に今日の私はついている。まさかここまでトントン拍子に事が進むとはな。
ゆっくりと歩き、王様に近付く。
「アルベルト第二騎士団長か。確かセレーヌ救出に向かっているはずでは?」
「はい。それなのですが、実は王様に話しておきたいことがありまして、私だけ少々遅れて向かうことにしました」
「ほう、話か。何だ? 申してみろ」
腰に帯刀している剣がギリギリ届かない程度の距離を取り、そこで立ち止まる。
流石にあまり近付きすぎては怪しまれる。ここは普段通りの距離を保ち、油断し切ったところで一気に距離を詰め、その首を刎ねさせてもらう。
「はい、実は、第一騎士団長のことですが、実は、こんな噂を耳にしまして」
「ほう、あの男の噂か。それは余も興味があるな。さぁ、もっと近くに寄って話すが良い。万が一にでも他の者に聞かれるとまずいだろうからな。耳元で話してくれ」
耳元で話すように王様が命じてくる。
まさかそこまで近付くことを許されるとは予想外だった。だが、これは好奇だ。本当に今日の私は付いている。
だけど、ここで殺気のようなものを感じられては、チャンスを失うことにも繋がりかねない。ここは自身を落ち着かせ、
心臓の鼓動が早鐘を打つ中、一歩、また一歩と歩いて王様との距離を縮める。
もう既に間合いに入った。剣を抜いて横一文字に振れば、王様の首を飛ばすこともできる。
だけど王様に近付く前に剣を抜こうとする動作を見せるのは良くないような気がする。
やつは耳元で話すように言ってきた。もっと近付いてから剣を抜いた方が良い。
王様との距離が1メートルを切った瞬間、帯刀していた剣の柄に手を置く。
さぁ、このタイミングだ。ここまで近づければ、いきなり剣を抜いたところで対処することができない。
「王様! 覚悟! 貴様を倒し、私がこの国の王様となってやる!」
「何だと! アルベルト、貴様!」
王様が声を上げた瞬間、鞘から剣を抜いて首を狙う。
横に振った剣の刃が王様の首に振れた瞬間、勝ちを確信した。
ハハハ! これでこの国は私のものだ!
心の中で笑い声を上げた瞬間、目の前の光景に驚きを隠せなかった。
剣の刃が王様の首に当たっているのは事実だ。しかし、いくら力を込めても、王様の首を刎ねるには至っていない。
「バカな! どうして王の首が飛ばない!」
「それは、王様が高鬼をしているからだよ。鬼役のあなたがいくら攻撃しても、鬼よりも高い場所にいる間は、10秒の間だけどんな攻撃も受け付けない」
玉座の後から何者かが現れる。その人物を見た瞬間、歯を食い縛った。
おのれ! またしても邪魔をするか! ラルス!
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