第十四話 ラル君が居ない!

 ~ソフィー視点~





「ふあ~! 今何時かしら?」


 目が覚めた私は、寝ぼけ眼のまま周囲を見る。


 まだお日様は昇っていない。ラル君を抱いてもう一眠りしましょう。


 横に寝ているラル君を抱き寄せようと手を伸ばす。けれどいくら腕を動かしても空を掴むばかりだった。


「あれ? ラル君いないの?」


 眠気が取れていない瞼を軽く擦り、もう一度瞼を開ける。先程よりも視界が良くなり、ボヤけていない状態で布団の中を覗く。


「ラル君がいない。もしかしてトイレかな?」


 上体を起こしてベッドから降りると、寝室を出てトイレに向かう。


「ラル君居る?」


 扉をノックして返事が返ってくるのを待つ。でも、数秒経っても返事は返って来なかった。


「ラル君はトイレにいない。なら、どこに居るのかしら?」


 一度部屋に戻り、明かりを灯す。


 寝相でベッドから落ちたのかもしれないと思い、ベッドの下を覗く。


 けれど、ラル君の姿は見当たらなかった。


 ベットの下にもトイレにも居ない。いったいどこに行ってしまったの?


「ラル君、どこにいるの? 居たら返事して」


 夜中であるので声を最小限に抑えてラル君の名を呼ぶ。けれど、どこからも返事が返ってくることはなかった。


 浴室を覗いてもあの子が隠れてはいなかった。


「もしかして夜中に1人で出歩いたってこと!」


 心臓の鼓動が早鐘を打つ。


 城下町は他の町に比べて比較的に安全ではある。でも、犯罪が全くないとは言い切れない。もし、夜中にラル君が出歩いて彼の身に何かが起きれば、私の責任よ。保護者失格だわ。


「シルヴィアに声をかける?」


 親友のことを頭に浮かべるも、直ぐに首を振る。


「ダメよ。シルヴィアはお城に住んでいる。声をかけるにしても時間がかかってしまう」


「昼間とは違い、夜中の警備は厳重になっている。いくら知り合いだとしても、簡単には会うことはできないはず」


 やっぱりここは、私が自力で探し出すしかないわ。


 部屋に置いてある杖を握り、家を飛び出す。


 そして杖を振り翳した。


 この杖は、魔力を送って探したい人を頭の中に浮かべると、居場所が分かる効果を持っている。


 これでラル君を探しましょう。


 頭の中にラル君を思い描くと、杖が反応して光を放つ。


 光は城下町の門の方を指し示してあるわね。


 光の導きに従い、門の方に走って行く。


 確か、門は門番さんがいるわよね。もしかしたらラル君を見ているかもしれないわ。


 門に近付くと、篝火かがりびの明かりに照らされた兵士の姿が視界に入る。


 けれど兵士は直立しておらず、壁に背中を預けて顔を俯かせていた。


 もしかして!


 この場で何かが起きたのだと思い、兵士に近付く。


「大丈夫ですか!」


 声をかけるも反応がなかった。もし、この人が何者かに襲われていたのなら、城にも危険が及ぶことになる。


 顔を近付けて兵士の様子を窺うと、彼は寝息を立てていた。


 魔法を受けた痕跡はなさそうね。もしかして仕事中に居眠りをしているのかしら?


「仕事中に何居眠りをしているのよ!」


「は! シルヴィア副団長すみません!」


 強めの口調で声を上げると、兵士は目を覚ました。どうやら私をシルヴィアと勘違いをしているみたい。


 夜の警備の人は顔見知りではないけど、この人のことは、明日にでもシルヴィアに報告した方が良さそうね。


「な、何だ。シルヴィア副団長ではなかったか。驚かせないでくれ」


「あなたに聞きたいのだけど、ここに8歳くらいの子どもが来なかった? このくらいの背丈で、黒い髪の可愛い男の子なのだけど?」


 ラル君の特徴を兵士に伝え、目撃していないかを訊ねた。


「子どもも何も、俺は夜間の仕事が始まってからさぼり……じゃなかった。睡眠トレーニングに集中していたから、誰がここを通ったのかすら知らないぞ。もう俺の用が済んだのならさっさと何処かに行ってくれ。また睡眠トレーニングをしなければならないのだからな」


 堂々とサボっている兵士を一発殴ってやりたい衝動に駆られる。


 けれど拳を握ることなくグッと我慢した。


 ここで私が注意をするよりも、シルヴィアに報告して彼女に制裁役を任せた方が最も効果的よね。


 もう一度杖の効果を発動すると、光は扉の奥を指し示している。


 ラル君は城下町の外に出たの! でも、何のために?


 あの子が城下町の外に出た理由を考えるも、思い当たる節がない。


 もしかしたら、家の外に出た時に何者かに連れ去られたのかもしれないわ。急いで助けに行かないと。


「お仕事の邪魔をして悪かったわね。私は外に用があるから開けてくれるかしら」


「はぁ? こんな夜中に外に出るとかバカだろう? それにどうして俺がそんな面倒なこと……分かった。開けるよ」


 男を睨み付けると、どうやら私の迫力に怖気ついたみたい。彼は小さく息を吐くと渋々扉を開けた。


 門を潜って外に出る。夜ということもあり、昼間は見慣れた風景でも、明かりが殆どないと環境ではガラリと変わる。


 早くラル君を見つけるわよ。


 杖の光に導かれるまま森の中を歩くと、屋敷の建物が視界に入る。


 光はあの屋敷を指し示しているわ。あの中にラル君がいるのね。


 屋敷に近付き、外観を見る。


 結構オンボロね。お化け屋敷と言われても納得しそうだわ。


 扉を開けて中に入る。どこからモンスターの類いが出て来るのか分からないわ。警戒だけは怠らないようにしないと。


 周囲に気を配りながら廊下を歩いていると、声のようなものが聞こえてきた。


「もしかしたらラル君かも」


 耳を澄ましてもう一度音の出どころを探る。


「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 今度は確かに聞こえた。しかもこの声は悲鳴じゃない!


 今聞こえた声はラル君ではなく女の子の声だった。でも聞こえてしまった以上は、そちらに向かわないと良心が痛んでしまうわ。


 声が聞こえた方に一目散に駆ける。


 すると、開かれた扉の奥にコウモリの羽が生えた人形ひとがたの人物が見えた。


 もしかして魔族! しかも女の子を捕まえているじゃない。


「その女の子から離れなさい! ファイヤーボール!」


 火球の魔法を発動して魔族に放つ。


 女の子に当たらないようにコントロールすると、ファイヤーボールは魔族のみに衝突した。

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