第十三話 記憶喪失のショタは魔族を知る

 この屋敷からお化けさんたちが居なくなった後、空から鳥が羽ばたくような音が聞こえてきた。


 僕は顔を上げて上空を見上げると、夜空に紛れて何かが降りて来る。


 鳥にしては大きい。それに人の形をしている。


 あれは何だろう?


 呆然と眺めていると、人の形をしたものが中庭に降りて来た。


 パッと見た感じは人間だけど、背中にコウモリのような羽が生えている。


 もしかして天使様が舞い降りたのかな?


 そう考えたけれど、よく思い出せば、物語に登場する天使さんとは雰囲気が違う。


 背中から生えている翼は白くないし、頭にはリングが浮かんでいない。


 天使様ではないのなら、この人はいったい誰だろう。


『どうして人間のガキがここに居る? 警備役のモンスターはなぜ排除しなかった』


 羽の生えているおじさんが僕を見ながら言葉を漏らす。


 警備役のモンスターって何?


『まぁ良い。誰かここに来い! このガキどもを始末しろ!』


 おじさんが声を上げて誰かに言う。だけど、数秒経っても誰も来なかった。


『おかしい。どうして亡霊ナイトやスペルブックが出て来ない?』


 誰もやって来ようとはしない廊下を見ながら、おじさんは首を傾げる。


「モンスターってもしかして勝手に動く鎧や本のこと? それならラルスが倒したわよ」


『何だと!』


 ローザがおじさんの疑問に答えると、彼は信じられないものを見たかのように大きく目を見開く。


「もしかしてあのお化けさんたちはおじさんの知り合いだった? それならローザを守るために倒したよ。多分今頃天に昇っているんじゃないかな?」


 おじさんが驚いていたので、彼女が言っていることは本当だと教える。


 するとおじさんは怖い顔で僕のことを睨み付けてきた。


 ものすごく怒っているよ! やっぱり倒したのがいけなかったのかな?


 お化けでもおじさんにとって大切な存在だったら、やっぱり許せないよね。


『お前が倒しただと? つまりお前は勇者なのか?』


 やっぱり謝るべきかと考えていると、おじさんが僕の正体は勇者なのかと訊ねてきた。


「僕は勇者様じゃないよ?」


『勇者ではない? もしそれが事実であったとしても、見過ごすことはできない。お前が育ち、成長すれば脅威となるだろう」


 おじさんが右手を掲げると、空中に大きな火の玉が現れた。


 凄い! 火の玉が出てきた! あれって魔法って言うやつだよね!この目で魔法を見たのは初めてだよ!


 僕が使える魔法は、肉体強化系の魔法だけ。だから炎を出す魔法を見ると、かなり興奮する!


『何だこのガキは、そんなに目を輝かせながら俺のことを見やがって。気持ち悪いんだよ!』


 おじさんが声を上げると火球が僕の方へと飛んで来る。


 早く避けないと丸焼けになっちゃう。


 地面を蹴って横に飛び、ローザを守るために彼女の前に立つ。


「おじさん! どうして火の魔法を飛ばしてくるの! 危ないじゃないか!」


『お前を排除すると言っておろうが! この俺のアジトに乗り込んだのが運の尽きだったな』


 再び空中に火の玉が現れる。


『今度こそ燃やしてやる!』


 また火の玉が飛んできた!


 迫り来る火球を避けるために、後ろに居るローザを抱き抱える。そして直ぐに横に飛んで躱した。


 あのおじさんは僕を狙っている。なら、ローザとは別々に行動した方が良いよね。


 中庭を見渡す。でも、彼女が隠れそうな場所は見当たらなかった。


 こうなったら、僕がおじさんの気を引いてローザが巻き込まれないようにしないと。


 その場にローザを下ろすと、地面を蹴って走り、ローザとの距離を開ける。


『まさか俺のファイヤーボールが避けられるとはな。やはりただのガキではない。今度こそお前を消し炭にしてくれる』


 走りながらおじさんの方を見る。彼は手を翳すと再び僕に向けて火球を放つ。


 今のスピードなら、あの火を避けることは難しくない。


 とにかく走り回っておじさんの火球が当たらないようにした。


『くそう! なんて速さだ。本当にガキなのか! 精霊でも乗り移っているんじゃないのか!」


 攻撃を避け続けているからか、おじさんは苛立っている様子だった。額に青筋が浮き上がっている。


 このまま攻撃を避け続けても、何も変わりそうにない。だったら、僕の方からも攻撃をしないと。


 視線を下げると、足元には石が転がっている。確か使用可能技に石投げって言うのがあったよね。


 石を拾っておじさんに投げ付ける。


『そんな石を投げられただけでこの俺が臆すとでも思っているのか!』


 投げた石をおじさんが掴むと、地面に投げ捨てる。


 こんなの変だよ。だって、ソフィーお姉さんやシルヴィアお姉さんは、僕が石を投げただけで、野盗とか言う悪いおじさんたちを倒したって言っていたもん!


 どうして今回は、僕が投げた石が通用しなかったの?


 考えてみると、ある可能性に思い当たる。


 もしかして、これまでは無意識だったからバカ力が発揮していたのかも。自分のユニークスキルのことを知って、意識的にスキルを発動するようになったから、失敗しているのかもしれない。


 もしかしたら違っているかもしれない。だけど何事もやってみないと分からないよ。


「今から的当てゲームを始めるよ! 的はおじさんね!」


 今から的当てゲームを始めることを宣言する。するとおじさんは理解していないみたいで首を傾げていた。


「行くよ! せーの!」


 地面に落ちている石を拾い、脳内に的当てゲームだと意識させる。


 これでユニークスキルの遊びが発動して、さっきと違った結果になるかもしれない。


 願いを込めて第一球を投げる。


『何が的当てゲームだ! ふざけるな!』


 おじさんが声を上げて飛んで来る石を手で弾こうとする。


『そんなバカな! さっきと威力が桁違いじゃないか!」


 投げた石をおじさんは弾こうとする。でも、両手を使っているのにも関わらず、弾き返すことはできなかった。


『くそおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 弾き返すことができなかったおじさんは、逆に僕が投げた石に弾き飛ばされた。


 屋敷の壁にぶつかり、口から血が流れている。


 やり過ぎちゃたかな? どうしよう! 大ケガになっていなければ良いけど?


『おのれ! こうなったら奥の手だ』


 ケガをしたおじさんを心配していると、彼は走ってローザのところに向かう。


「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 おじさんはローザを捕まえ、火球を生み出した。


『お前が一歩でも動いたら、こっちのガキを燃やす。こいつを助けたければ俺の言うことを聞くんだな』


 ローザが捕まってしまった! 僕はどうすれば良いの!

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