第十二話 お化け屋敷に住む男
ローザを守ろうとして隠れていた穴から飛び出し、鎧のお化けに体当たりをした。すると鎧のお化けは床に倒れると同時にバラバラとなる。
「これは……いったいどうなっているの?」
予想外の展開に唖然なってしまう。
『今度は俺が食ってやる!』
別の鎧のお化けが僕に迫ってきた。
もしかしたら、僕はこのお化けたちを倒せるかもしれない。
しゃがんで体勢を低くすると、鎧の足に自身の足をぶつける。すると鎧の足が吹き飛び、鎧のお化けはバランスを崩して転倒した。
やっぱり、お化け屋敷で戦うことをごっこ遊びにしたことで、自動的に魔法が発動して強くなったんだ。
これならローザを守ることができる。
「よくも僕たちを怖がらせたな! 今度はお前たちが怖がる番だ!」
声を上げて飛び掛かると、鎧のお化けにしがみ付く。そして頭部を殴ると、吹き飛んで床に落下した。
これで残りは本のお化けだけ。
空中に浮いている本が素早くページを開き、紙の部分をこちらに見せてくる。
そのページは真っ赤になっており、人の顔が描かれてある。
本に描かれてあった顔が動き、口を開く。すると口から炎が吐き出された。
本が炎を吐くなんてずるいよ! どうして本なのに自分の炎で燃えないの!
心の中で文句を言いつつ横に飛んで躱す。すると地面に倒れている鎧のお化けが持っていた剣を握った。
普通ならきっと、この剣も握ることができないのだろうな。でも、今は僕のユニークスキルのお陰で剣が持てるようになっている。
この剣を使ってどうにか倒さないと。でも、僕は包丁すら握ったことがない。
剣の扱い方も殆ど分からないよ。
でも、どうにかしてこの剣で倒さないと僕が食べられてしまう。
どうすれば本のお化けを倒すことができるのかを考える。すると、もしかしたら倒せるかもしれない方法を思い付いた。
この方法なら本のお化けを倒せるかもしれない。でも、この屋敷にそんなものが存在するのかは分からない。
だけど、ローザをお化けから引き離すには、この方法しかないよね。
「炎が吐けるからって、威張るなよ! 僕の方が強いのだから! 僕を食べられるものなら食べてみろよ! お尻ぺんぺん」
本に背を向けると、お尻を突き出して軽く叩く。その後、走ってこの場から離れた。
走りながら後ろを見ると、本のお化けが追いかけて来た。
よし、僕の誘導が成功した。後は目的のものを見つけるだけだ。
走りながら部屋の扉を片っ端から開けていく。
でも、探している部屋はまだ見つかっていない。
まだ開けていない扉はあそこだ。扉を開けたあの奥に求めているものがなければ、また別の方法を探さないといけない。
扉に近付き、急いで開ける。すると浴槽や桶が目に映った。
「浴槽を見つけた! 水が出れば、逆転できる!」
浴室に入って浴槽の蓋を開けて見る。しかし、お湯が張られてはいなかった。
直ぐに蛇口を捻ってみるも、水が出てくる様子がない。
「そんな! 水が出てこないなんて!」
振り返ると、本のお化けが迫っていた。
こうなったら別の場所から水を探そう。
浴室から飛び出し、本のお化けとすれ違う。
本のお化けが浴室の中に入った瞬間、扉を閉めた。
閉じ込められた本がぶつかっているのか、何度も扉が叩かれる音が響く。
そうか。本のお化けだから手がないんだ。だから扉を開ける事ができない。
取り敢えずは閉じ込めることに成功した。今の内にローザと合流しよう。
ローザがいる場所に戻ろうとすると、急に熱を感じて振り返る。浴室のドアが燃やされ、空いた穴から本のお化けが飛び出してくる。
ドアを燃やして脱出するなんてずるいよ!
心の中で叫ぶも、僕は全力で走る。
残りの扉はどこだっけ?
廊下を走りながら、頭の中で屋敷の見取り図を描く。すると、まだ開けていない扉があることに気付く。
1階中央のあの扉はまだ開けていない。あそこが最後の希望だ。
床を蹴って廊下を走り続けて、目的地に辿り着く。そしてドアノブを握って扉を開けた。
「外に出た?」
扉を開けた先は外だった。でも、周りには建物の壁がある。ここがローザが来たがっていた中庭か。
中庭には、大きな壺が置かれてあった。近付いて中を覗くと、水が入っている。
「どうしてこんなところに水の入った壺が置かれてあるのか分からないけれど、ラッキーだよ。これであの本のお化けと戦うことができる」
扉を見ると、本のお化けが再び迫って来ているのが見えた。
逃げ場はない。だからここで戦うんだ。
壺の中に腕を突っ込み、水鉄砲の形を作る。
それと同時に本のお化けも中庭に入ってきた。
「こいつを食らえ!」
壺の中から腕を出し、本のお化けに向けて水鉄砲を放つ。手の中に入れていた以上の水が噴射され、本のお化けに命中した。
濡れたことで重くなったのか、本が地面に落下する。
予想が当たった! 今ならこいつを倒すことができる!
鎧のお化けから貰った剣を握り、ジャンプをすると振り下ろす。
刃は本を切り裂き、真っ二つになると、本のお化けは紫色の光に変わって消えた。
「倒したの?」
消えた本のお化けが居た場所を見つめながら首を傾げる。
「そうだ。お化けさんたちが成仏するようにお願いしないと!」
十字を切ってお化けさんたちが無事に成仏するように心の中でお願い事をする。
どうか、この屋敷に居たお化けさんたちが成仏できますように。
「ラルス!」
祈りを捧げていると、ローザの声が聞こえて廊下側を見る。金髪ツインテールの女の子が、こちらに走って来た。
「ローザ、どうして来たの?」
「あのね、鎧のお化けが消えたの。だからラルスが何かをしたのかなって思って」
「そうだったんだ」
やっぱり祈りが通じたんだな。
「もう、この屋敷にお化けが出ることはないと思うよ」
「本当! なら、ちょうど中庭に来れたことだし、目的のものを探そうっと!」
嬉しそうに笑みを浮かべながらローザが辺りを見渡す。その時、頭上から羽が羽ばたくような音が聞こえてきた。
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