【エピローグ】学び多く豊かな旅

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 そのも、洞窟のゴブリン『骨ピ』と『ウンラロ』、と魔女は何度も連れ立っていくつもの冒険に出かけた。時には彼らの洞窟を飛び出し三人で別の国に出かけることもあった。洞窟以外のゴブリンの国、鉱山のドワーフの国、草原のオークの国、そして、いと高きエルフの国……。

 すべての冒険が三人にとって、とても学び多く豊かな出会いに満ちたものだった。ただし『人間の国』だけは、少しトラブルに巻き込まれたけれども。


 『骨ピ』は、そののち、洞窟のゴブリンの各氏族をまとめ上げる偉大いだいな首長となった。彼が首長となったことで、それまで争っていた洞窟のゴブリン各氏族は喧嘩けんかをやめ、お互いのやり方を認め合い、お互いの持ち物を持ち寄って生きるようになったという。洞窟ゴブリンのこの種族的な変化は、彼らの中に『勇気』以外にも多くの新しい価値観を生むこととなった。

 これは洞窟のゴブリンにとっては偉大な進歩である。多くの場合、彼らは『勇気』の使い所を間違え、そのために命を落とすことが往々おうおうにしてあったのだから。

 『骨ピ』の功績こうせきのおかげで、ゴブリンたちはどんどん数を増やし、なかには洞窟の外に集落を作ってそこで暮らす者さえ現れるようになった。彼らは“山守やまもりのゴブリン”や“森守もりもりのゴブリン”や“わたもりのゴブリン”と呼ばれ、中には人間やドワーフと一緒に生活し、“まちのゴブリン”となった者さえあるという。

 また、『骨ピ』とその妻はいつまでも仲睦なかむつまじく、二人は合計14人の子供をもうけた。これはゴブリンとしても子だくさんな方である。もちろんみんな長い名前を持っていて、彼の子供や孫の何人かは魔女とウンラロが名付け親である。


 『ウンラロ』は、その学者になり、自らの経験をまとめた書物を生涯しょうがいにわたって作り続けた。

 彼の書いたものは読みやすく、面白く、ためになり、洞窟ゴブリンたちへの大陸共通語の普及ふきゅうに一役買うことになる。また彼の生来の特徴である吃音きつおんも文字に書くならば、ゴブリンであれ異種族であれ、他者との関わりをなんら阻害そがいすることはない。むしろ、彼と同じ吃音の特徴を持つ多くの洞窟のゴブリンたちに新たな道を指し示すこととなり、その功績をたたえて洞窟ゴブリンたちから『賢きゴブリン』の尊称そんしょうを以て呼ばれるようになったという。

 彼の書いた書物は洞窟のゴブリンだけではなく他の種族、たとえばドワーフや人間の子供たちにも愛されるようになった。『ウンラロ・サビオ(まれかしこき者)』の名は、ゴブリン以外の他の種族の間で最も名の通ったゴブリンとして知られるようになった。一躍いちやく有名人となった彼のもとには毎日のようにたまごが届くようになり、そのおかげで病気がちだった彼の母親もすっかり元気になったという。


 『魔女』は、……相変わらずの魔女である。

 洞窟の中で色々とさわぎを起こしつつ、何も変わらず気ままに今も生きている。

 己の好きなように生き、己以外の何者にもしばられぬがゆえに『魔女』なのだから……。



To Be Continued.⇒【オマケの話】

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