【4】吃音のゴブリン

≈≈≈


「わ…私も、つ…連れて、い…行け、た…『たまご泥棒名人』、よ」


 骨ピが荷物を片付けている時、一緒に片付けを手伝ってくれていた仲間の男が骨ピに申し出た。骨ピが荷車をくことを依頼した骨ピの仲間だ。

 彼は吃音きつおんのゴブリンである。ゴブリンの中にもまれにこういう話し方の者が生まれる。しかしゴブリンは元々、言葉をただ伝えるよりも『感情を伝える』ことに重きを置いている。こうした個別の話し方の特徴の違いは、ゴブリンたちにとってなんら問題ではないのだ。

 何をどう語るか、ではない。ゴブリンにとって大切なのはその者が『何をすか』である。


「……ふむ」


 骨ピはしばしの間、仲間の男の顔を見ながら熟考じゅっこうする。

 この仲間の男が、自分の両親から与えられた名は【まれなるうるわしき宝物】という。しかし、男のその夢想的な性格が災いして、仲間内のゴブリンからは『愚かなゴブリン』という蔑称べっしょうで呼ばれている。

 彼は「星の位置が変わるのは自分たちの『台座』である大地が動くため」などと言って、しょっちゅう仲間のゴブリンたちから失笑される。骨ピは笑わない。大地は普通動かないものだが、かと言って積極的に愚かなゴブリンの言うことを否定する根拠もまた彼は持たないからだ。

 むしろ、骨ピはその経験則けいけんそくによって、愚かなゴブリンの言うことは正しい…と感じることさえある。


 問題はこの男がゴブリン特有の『勇気』の変わりに、なにか別のものを持って生まれたということだ。この男は、ヒクイドリのたまごを盗むよりも、イノシシに乗るよりも、他の氏族との血き肉おど喧嘩ケンカよりも、『火はなぜ燃えるのか』とか『水はなぜ形を持たず流れ混ざりそして消えるのか』とか言った『考えても意味のない』ことばかりを考えている。こういった者はゴブリンには非常にまれである。

 果たして、この男を荷物きではなく『たまご泥棒』に連れて行ってもいいものか?


「た…頼む。は…母に、え…栄養の、あ…あるものを、た…食べさせて、や…やりたいのだ」


 真剣な表情で愚かなゴブリンは骨ピに言った。

 彼は『優しいゴブリン』でもあるのだ。


「分かった。『優しいゴブリン』よ。ただし俺の言うことにしたがって動いてもらう」


 骨ピの言葉に優しいゴブリンは大きくうなずいた。




To Be Continued.⇒【5】

≈≈≈










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る