【3】素人は知らなくて当然

≈≈≈


「遅かったじゃない。何してたのよ?」


 魔女は遅れてきた骨ピに機嫌悪そうに言った。魔女の準備は自分のねぐらから持ってきた小さな袋【ポシェット】ひとつだけだ。

 ……これならば何も持たないのと変わらない。


 対して、『たまご泥棒名人』こと骨ピの方は、見るからに大荷物である。しかも、【荷車】をく仲間が一人と、勝手に家から着いてきた骨ピの5人の子供たちも一緒にいる。

 子供たちの一人が魔女の体にじゃれつくのを魔女は片手で引き剥がし、ゆっくりと地面に下ろしながら骨ピにたずねた。


「貴方まさか、子供一緒に連れてく気?」


 ……やはり、魔女の思考は分からない。

 子供など危険な『たまご泥棒』の現場に連れていける訳がないではないか。たまご泥棒は遊びではないのだ。


「コドモ、ツレテイカナイ。ソレヨリモ、オマエ『ニモツ』スクナスギ」


 骨ピは魔女に対して呆れて言った。骨ピの子供たちも、スクナスギー!スクナナスギギー!と魔女をはやし立てる。


(やはり、『魔女』などと言ってみたところで『たまご泥棒』に関しては素人、という訳だ……)


 骨ピは声に出さず、心の中だけでそう思った。

 侮辱ぶじょくの意思があってのことではない。

 巨大な【ヒクイドリ】からたまごを盗むことができるのは、人類種族多しとえども【ゴブリン】だけである。むしろ『知らなくて当然』という気持ちが強い。

 

 しかし『子供を連れて行くのか?』とは、思わず常識を疑う言葉だった。


 骨ピが小一時間かけて準備したものは、

 1.ゴブリンのナタ。

 2.木の繊維で作られた長いロープ

 3.革紐かわひもを編み込んだ丈夫なロープ

 4.先端に輪っかの付いた大きな鉄のくい10本。

 5.紐付き分銅ボーラ用の輪っか型の鉄分銅てつふんどう6個。

 6.木でできた大きな荷車。

 7.それをく仲間一人。


 最低でも、これだけはそろえなければ『準備をした』とは言えない。『たまご泥棒は準備が九割』とは昔からのゴブリンの格言かくげんである。


「そんなに荷物要らないわよ。それにこれから行く場所に【荷車】は持っていけないのよね」


 魔女は骨ピの荷物を見て呆れたように言った。

 魔女の言葉を聞いて、骨ピは思わず目を丸くする。


「バショ?オマエ『カリバ』アルノカ?」


 これは意外な事実だ。自分の『狩り場』があるということは、この魔女は『たまご泥棒』の経験があるということになる。…これは、自分(骨ピ)の方が相手に対して礼をしっしてしまったようだ。


「あるわよ〜。大きいのが!だから、荷物はさっさと片付けて来なさい」


 これは骨ピの方が一本取られたらしい。

 ともすれば骨ピは、この魔女に『たまご泥棒』のなんたるかを教える気でいた。どうやら余計なお世話だったらしい。

 骨ピは素直に反省して荷物を戻しにまた家に戻るむねを魔女にげて、スマナイ…と頭を下げたのだった。骨ピは勇者とはいえ、他者へのれいわきまえている。




To Be Continued.⇒【4】

≈≈≈









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