第7話 警備増強
高木先輩の乗った車がやかましい爆音で走り去って行った。
「高木先輩、自分の車持ってるから、係長にパシらされたのね。気の毒ね」
「おあ!!」
私が思わず本音を漏らしてしまった時、係長が急に声を荒らげた。私は怒られるのかと思ったが、そうではなかった。
「おう! 今、宝の間、どうなってる!」
それを聞いて、みんな急に焦った。
「監視カメラを確認します」
森中さんが慌てて事務室へ駆け込んでいった。
私と京子は黄金のマスクの部屋へと全力疾走した。部屋に着いたら、林さんが壁にもたれかかって寂しそうにしていた。黄金のマスクはガラスケースの中にちゃんとあった。
「はぁ、良かった」
「おう、予期せぬ事態が起きたとはいえ、宝の間の警備が手薄になっていた。気を抜くなよ」
「えー、係長が高木先輩を呼んだからでしょー。責任転嫁ー」
「おう、林さんを一人で残したのはお前らのミスだろうが」
「えー、係長がトイレから帰って来なかったんですからー、仕方ないですよー」
「おう、大だったんだよ、大。だから、時間かかったんだ、仕方ないだろ」
「汚いー」
制服警官には駐車場でパトカー内から警戒に当たってもらうことにした。黄金のマスクの部屋の外側が見える場所、建物の玄関横、駐車場奥で建物が全体的に見える場所の三箇所だ。六名の警官の増援は、とても心強かった。
森中さんと林さんは事務室に、私と京子と係長は基本的に宝の間に待機することに決めた。
「おう、まだ11時半だな」
係長は缶コーヒーを飲みながらつぶやいた。
「係長、缶コーヒー飲みすぎではないでしょうか。眠れなくなりますよ」
「おう、香崎、お前眠る気満々か」
「あ、いえ、そういうわけでは」
「小春ー、眠っちゃだめよ。係長に襲われるかもしれないわよー」
「アホか! 俺がそんな人間に見えるのか」
「見えまーす」
「……あのなぁ」
係長はしょんぼりした。
「まあ、三人いるから、誰かが眠っても、他の誰かが起きてるだろうし、大丈夫だろ」
係長は楽観的なこと言いながら、缶コーヒーを飲み干した。
「さあて、夜食にするかな」
コンビニの袋をゴソゴソと探って、係長は缶詰らしき物を取り出して開けたようだった。
「係長ー、なんか青臭いんですけどー。何食べるんですかー」
「シブい男の定番、サバ缶だ、悪いか」
係長はまたガサガサと袋を漁り始めた。
「あれ、マヨネーズないのかよ。それに、箸がないぞ。高木、箸もらうの忘れたのか。おう、香崎、磯田、箸ないか?」
「ありませーん」
「係長、お弁当は夕食の分だけで、あとは、パン、サンドイッチとかなので、お箸はもうありません」
「マジかよ……」
係長は増々しょんぼりした。そこへ、ひょっこりと林さんがやってきた。
「皆さん、部屋の照明や温度は適切でしょうか?」
「はーい、快適でーす」
「あ、林さん、箸、余ってませんか?」
「箸ですか。ありますよ」
「え、あるんですか」
「ええ、美術館ですから」
そのおかしなセリフを聞いたのは三回目だった。
「あ、マヨネーズは、ないですよね?」
「マヨネーズですか、ありますよ」
「え、あるんですか」
「ええ、美術館ですから」
すぐに林さんは事務室から、コンビニ弁当用のお箸とパック状に小分けされたマヨネーズを持ってきた。
係長はサバ缶を食べ始めた、くちゃくちゃと音を立てながら。
「なんかー、キモいー」
「磯田、お前には、ハードボイルドの意味がわかってないようだな」
係長はカッコつけながら食べていたようだが、私にはとてもハードボイルドには思えなかった。
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