第6話 夜の訪問者

 玄関まで来ると、森中さんが館外を注視していた。ガラス張りの玄関ドアの向こうから、車を降りてこちらへ歩いて来る人影が見えた。

「幽霊! 幽霊!」

「京子、大丈夫よ、人間だから」

 月明かりでよく見えなかったが、見たことがあるシルエットだった。

「あれ、あの怖がり方、高木先輩かしら」

「ホントだー、外が暗いからビクビクしてるわねー」

 その人物はだんだんと近づいてきて、玄関の明かりでやっと誰なのか判別することができた。

「やっぱり、高木先輩ね」

「えー、何で先輩がー」

 高木先輩が手荷物を持って、こちらに手を振っていた。

「ああ、警察の方ですか。では鍵を開けましょうか」

「待って下さい」

 森中さんが鍵を開けようとするのを私は止めた。

「本当に高木先輩かしら?」

「そうねー、変装かもしれないわよねー」

「えっ! もしかして怪盗一面相!」

 冷静な森中さんが取り乱した。

「おーい、開けてくれ」

 玄関の向こう側で高木先輩、いや先輩に変装した怪盗一面相かもしれない人間がコンコンとノックしながら言った。

「どうする、小春ー」

「そうね、先輩本人である確認が取れるまで開けられないわね」

 私と京子は玄関ドアに近づいていった。

「先輩、本人ですか?」

「え!? 何だよ、香崎、どういうことだ」

「怪盗一面相かもしれないのよねー」

「え、いや、違う」

「先輩ー、たしか先週の土曜にー、出会い系で見つけた女の子と一緒にー、◯◯駅近くの居酒屋に行きましたよね。店の名前、言ってみて下さいよー」

「え、磯田、何でそんなこと知ってるんだ」

「前の日にー、ニヤニヤしながらー、コソコソとスマホ触ってましたよねー」

「え……」

「店の名前は何ですかー」

「……い、居酒屋南海の幸……」

「当たりでーす。でー、その後ー、カラオケに行きましたよねー。店の名前は何ですかー」

「……え、えーと、カラオケ、カエルの学校……」

「当たりでーす」

 私は京子の観察眼と情報収集力に驚いた。玄関ドアを開けて、高木先輩に入ってもらった。

「高木先輩、もう夜の9時です。どうしてこんな時間に?」

「どうしてって、係長に食い物買ってこいって頼まれたんだよ」

 大量の商品が入ったコンビニの袋を持ち上げて、高木先輩は困惑していた。

「おーっ、高木、すまんすまん」

 後ろから係長がやってきた。

「係長、ここ、めっちゃ遠いですね。これ、注文の品です」

 係長は高木先輩から重そうなコンビニの袋を受け取って嬉しそうだった。

「係長ー、先輩が来るんだったらー、言っといて下さいよー」

「おう、わりい、わりい。こんなに早く来るとは思わなかったんでよ」

 全く悪いとは思っていないようなセリフだった。高木先輩も少々呆れ気味だった。すると突然、駐車場の向こうに明かりが二つ見えた。

「え!?」

 その明かりに続いて、すぐにまた別の明かりがいくつか見えた。

「え!? 車?」

「おう、こんな時間に車が、えーと、三台!」

「えー、何ー」

 やっと緊張が解けてきたと思っていたら、また空気が張り詰めたような感じになった。私と京子と係長は身構えた。だが、高木先輩は呑気にヌボーっとしていた。

「ああ、応援ですよ。係長と香崎と磯田の三人じゃ少ないんじゃないかって、課長が所轄署に応援頼んでくれたんですよ」

 赤色灯をつけていなかったのでわかりにくかったが、近づいてくるにつれ、パトカーだとわかった。

「制服警官が六名、来るはずです」

 パトカーは建物の入り口前で停まり、制服警官が降りてきた。私たちは挨拶をしてから所属の確認をした。

「では、係長、僕はこれで」

「おう、すまんかったな」

 高木先輩は自分の車の方へ歩いていった。

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