第4話 警備準備

 私と京子は麓のコンビニで買い出しを終えて、森の中美術館へ戻った。

「あー、疲れたー」

「そうね、片道40分はさすが疲れるわね」


 係長が缶コーヒーを飲みながら館内で突っ立っていた。私たち二人の姿を見て、林さんが入り口を開けてくれた。

「おう、ご苦労」

「あれー、係長ー、そのコーヒーどうしたんですかー」

「ん、トイレの横の自販機で買ったんだよ」

「そういえばー、自販機あったわねー」

「おう、じゃ、マスクの部屋に行くぞ」


 黄金のマスクが展示されている宝の間へ行った。

 袋から購入した物を取り出して分けていたら、京子は早速ビニールシートを下に敷いていた。

「おう、コーヒー、ブラックじゃねえか」

「あっ、ブラックでしたか。すみません、間違えました」

「係長ー、ダンディーなんでしょ、ブラック飲んで下さいよー」

 京子はビニールシートで、簡易椅子を組み立てながら言った。

「係長、この椅子、どうぞ」

「おう、俺にもビニールシートくれよ」

「係長のはー、これですよー」

 京子はダンボールを係長に渡した。

「……え」

 係長はダンボールを受け取って、広げながら絶句していた。

「……俺の、ビニールシートは……」

「係長の買い出しリストにはー、ビニールシートって書いてなかったからー。買ってませーん」

「……え」

「ダンボールをわざわざもらってきてあげたんですからー、喜んで下さーい」

「……え」

 係長は目が点になっていた。森中さんと林さんは笑いをこらえていた。

 気がつけばもう夕方だった。

「それじゃ、昼飯か晩飯かわからん飯にするか」

 宝の間に館員を三人残して、私たちは事務室を借りて昼食兼夕食を取ることにした。


「監視カメラ、よく写ってますね」

 係長はご飯をボロボロとこぼしながら、モニターを見て感心していた。

「ええ、はい。どんな小さな動きでもわかるように最新のカメラを導入しましたから」

「やっぱり、展示物に触ったりする客がいるってことですよね。だから高性能の監視カメラを、ってことなんですよね」

「ええ、はい」

 モニターでは、宝の間にいるスタッフの顔がはっきりくっきりと写っていた。

「森中さんたちは、どうされますか? 帰宅されますか? どなたか一緒にいてもらえるとありがたいのですけど」

「私と林くんは刑事さんたちと一緒に黄金のマスクを守るつもりです」

「あっ、それは良かった」

 係長はくちゃくちゃと食べる音を立てながら会話していた。それを見る森中さんと林さんは、嫌そうな表情だった。

「職員には全員帰ってもらいます。明日も休みを取るように指示してあります」

「そうですか」

 私たちは食後のティータイムを取ることにした。係長は相変わらず缶コーヒーを飲んでいた。

「係長、怪盗一面相のことなのですが」

「おう、何だ、香崎」

「一面相っていうことは、変装しないってことなんでしょうか?」

「おう、そうだな。そういう意味のはずなんだがな」

「えー、自分以外の人間一人だけに変装できるから、一面相ってことじゃないのかなー」

「うーん、オリジナルの自分以外に変装するか……」

「おう、面は顔のことだし、相は姿だよな。だから、一つの顔と姿っていうことになるし」

「四天王って、四人ですよね。五人にはならない」

「三面鏡ってさー、鏡が三つよねー」

「二大俳優っていうけど、二人よね。三人にはならないし」

「おう、そうだな。一段落は、段落が一つしかないからな。一面相って、その人物本来の姿だけってことになるはずだがな……」

 私たちは、怪盗一面相の、一面相という意味について、一面相形而上学のような白熱した議論を交わしてしまった。


 夜の7時になり、職員は全員が車で帰宅することになった。

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