第52話 夏祭り2日目



「あ、十兵衛くん!!」



 夏祭り二日目。



 昨日と同じく、黄瀬さんに見送られ無事駅に到着し、華と合流した。


 華は白を基調とした浴衣を着ており、とても華やかで可愛かった。



「……ん? ああ、この浴衣? せっかくの花火大会だからね! 少しはりきってみたんだ〜」



「どう?」といいながら自慢げに浴衣をメセつけてくる華は純粋無垢で……



「うん。すごく可愛いと思うよ」



 そう、自然と言葉が出るほどに俺は彼女の浴衣姿に見惚れていた。



「………………」



 あ、あれ? 華さん? なんで黙ってるの? 



「は、はーちゃん?」


「え、あ、ああ……えーと……はは。ありがとね。なんか、直球に言われると恥ずかしいと言いうか……照ちゃうね」


 顔を赤くさせながら目を逸らされた

 その反応が少し意外に思った。


 普段、可愛いとか天使とか色々と褒められ慣れているだろうから嬉しそうにありがと! とハキハキした様子でお礼を言われるだろうなと思っていた。



「あれー? いつもはこんな感じじゃないんだけどな……十兵衛くんだから……こうなるのかな?」 



 え、俺だから?


 そ、それっていい意味で? 悪い意味で? どっち?



「まぁ、いいか! 十兵衛くん! まずは屋台で食べ物を調達しよう!」


「了解です」



 アヒルの子のように華の後ろにひたすら着いていく。


 2日目になるとこの時間でも人が多いな。

 初日は初めてのお祭りブーストでテンションも爆上がりだったので大丈夫だったが、陰キャにはこの人数は少し精神的にしんどい。


 たこ焼き、焼きそば、ベビーカステラ、焼きとうもろこしなど定番の食べ物を屋台で一通り買った後、華の案内のもと『おすすめスポット』へ向かっていた。



 真っ暗で誰も行かないような雰囲気を放つ階段を登る。


 周りに人の気配はなく、虫の音のみが聞こえてくる。


 ああ、これこれ……この静かさ。とてもいい。



「到着!! どう? 見晴らしいいでしょ?」



 長い階段を登りきり、展望台に着いた。



「おお……」



 展望台のその先には絶景が広がっていた。先ほどまでいた屋台の並びがとても小さく見える。



「ふふ、この展望台はね。今のところ白咲家しか知らない穴場スポットなんだよ」


 確かに、屋台からは少し離れたところにあるしとても高い所だからな。連なっている屋台の光ですらイルミネーションの一つのように思える。



「ここでさ、家族みんなで花火を見るのが定番だったんだー寧々ちゃんとやよいちゃんにも教えてないんだよ?」



 そんな大切なところ、俺なんかを連れてきてよかったのだろうか?



「ふふっ」


「どうしたの?」


「ん? いや……それで十兵衛くんも白咲家の一員だなと思って」


「ぶっ!?」



 何という爆弾発言をするんだこの人は……!!

 


「十兵衛くんが白咲家に来たら楽しくなりそうだね……テツくんもお兄ちゃんができると嬉しいと思うし……どう? いっそのこと白咲十兵衛になってみては?」



 なってみては? って? あれ? もしかして今、俺はプロポーズされているか?


 いや、社交辞令? 冗談? 流石にこれは……? 


 いや、落ち着け。考えてもみてくれよ。華は何の考えもなしに相手を勘違いさせるようなことは……


 

『えーだって私だけ十兵衛くんの事名前で呼んだら私の一方通行みたいじゃん……!! これじゃあ私だけが大好きみたいな……そう! 片想いみたいでしょ?』


『……簡単にいうとそう!! 契り……みたいな?』



 あ、いや、結構言ってるな。



「……あーいいね。それ」


「でしょー!?」



 俺もなにも考えず、話の流れに任せることにした。



「……それにしても、ここは人が居なくて落ち着くなぁ」



 まぁ、昨日みたいに人が沢山いて和気藹々としたところも悪くはないんだけど……あくまでたまには良いという話出会って陰キャにはこちらの方が肌に合う。



「こうして、二人で静かなところでゆっくりするのが一番いいかも……」


「十兵衛くん……おじいちゃんみたいなこと言うね」



 確かに、高校生が言う台詞じゃないな……これ。

 


「まぁ、俺みたいな陰キャは人混みとか苦手だから……」


「そういうものなの?」


「うん……あ、でもたまにはこういった陽キャパリピイベントには参加したい」


「お、奥が深いんだね……」



 いや、めんどくさいだけだよ……


「……そういえばさ」



 華は俺の顔を見ずになにもない夜空を見上げながら声をかけてきた。



「あともう少しで夏休み……でしょ。覚えてる? 前に私が言ってたこと」


「え? あぁ……」



『夏休みは十兵衛くんと色んな予定立てちゃおっかな!! 十兵衛くんはどこ行きたい? 毎日一緒に夏の思い出作ろうね!!』



 多分このことかな?



「水族館とか、この前行ったショッピングモールや美味しいスイーツが食べれるお店とか色んな予定を私なりに考えてるんだけどね」



 さ、さすが華チョイス……陽キャが好きそうなオシャレな所だ。



「二人で旅行でもしちゃう?」


「旅行?」


「そそ、自然がたくさんある旅館に泊まって二人でゆっくりするの」


 いや、男女二人で旅行って……やってること完全に恋人じゃねぇか……いやはーちゃんのことだし、深い意味はないんだろうけど。


 まぁでも


「……はーちゃんと二人かぁ……ありかもね。でも実際それは難しいんじゃない?」

 

「あー……高校生だけで泊まれるか分からないしね。お金もかかるし……」


「そう。だからまぁ、くじ引きでも当たらない限り無理なんじゃないのかな」


「そっかぁ……う〜良い案だと思ったんだけどなぁ」


「まぁ、もし機会があったら是非」



 この話はあくまで可能性があったら……と言うことで終わらせる。

 まぁ、可能性なんて0に等しいんだけどな。


 ただ、少しくらい期待するだけなら悪いことではないだろう。



「あ、花火。そろそろ始まるよ」



 その言葉を聞いて視線を空に向ける。


 緊張と期待が混じりった胸の高鳴りが時間の流れを遅く感じさせた。


 昨日は屋台メインで花火は全然みてなかったからな。



「……始まった」


 音を上げながら最初の花火が上がった。そして後に続くかのように数多くの花火が打ち上げられる。


 夜空を染める色鮮やかな光。赤、黄、白、紫、緑と色とりどりの花火に息を呑んだ。


 空気を震わせる炸裂音、変化する光の色を全身で体感する。


 眼鏡を外してきていて正解だった。


 思わず息ののむ光景で。心の底から今日は来て良かったと思えるくらい花火に目も心も奪われる。



 あー打ち上げ花火も良いけど、手持ち花火もやってみたいな。


 人は強欲なものでしたいことが達成するとさらにさらにとやりたいことが増えていく。


 それがなんだか、無性に嬉しかった。



「………………」



 ふと、視線を感じたので隣をみるとはーちゃんは花火ではなく、俺の横顔をじっと見ていた。



「えと……はーちゃん? 花火は? 見ないの?」


「え、あぁ……そうだね。見ないとね……うん。ちゃんとみるよ」



 そう、戸惑った表情をしながら前を向く。


 しかし、すぐに視線は俺の方へと向かれる。



「えと?」


「ごめんね?……なんでかな。花火より十兵衛君の楽しそうな横顔を見ちゃうや」



 困ったように笑うはーちゃん。



「えっと……はーちゃんが見たいならいくらでも見てくれていいけど……花火みないともったいないよ?」


 

 それに俺の横顔なんか見てもなにも楽しくなんかないし。

 

 しかし、はーちゃんはそうは思っていないようで俺の言葉に首を振って笑った。



「大丈夫だよ……きっと、今日一番見たかったものだから」






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