第48話 夏祭り



「……おい、さとっちくん」



 放課後、いつもの4人で下校しているといきなりドスっと黄瀬さんに脇腹を突かれた。


 ぐ、ちょっと痛い。



「な、なに?」


 突かれた脇腹を押さえながら黄瀬さんを見ると何故かジトッとした目で俺を見ていた。



「さとっちはさ? もうちょっとさ、自分の言動を気をつけようか?」


「自分の言動?」


「ほら、今日の休み時間に言ってた『華、俺の膝の上に乗りなよ』ていう爆弾発言のことだよ」


「そんなことは一切言ってないんですが」


「でも結果的にはそうなったじゃん」


「………………」


「まぁ、あれはある意味事故みたいなものだけどさー正直、今日の休み時間みたいな修羅場は勘弁なの。だから自分の言動には気をつけること。わかった?」



 修羅場……? どういう意味なんだろう。


 黄瀬さんの言葉の意味が理解できないが、最近の寧々はどこか不機嫌になりやすくなっているのも事実。確かに自分の行動は考え直した方がいいのかもしれない。



「……わかった」


「よし、頼んだかんね」



 そんなやりとりをした後、駅に着いたらある貼り紙が目に入った。



 夏祭り……か。


 詳しく見ると花火大会もあって結構大掛かりなものようだ。


 メインは祭り(屋台)と花火大会の二つ。



 期間は土日と祝日の月曜日の3日間。

 

 期間が長いのは両方楽しめるようにとのことだろうか?



「佐藤くん? どうしたの?」



 じっと貼り紙を見ていた俺に気が付いた寧々達がこちらに声をかけてくる。3人の視線が俺と同じチラシに向けられた。



「ああ、夏祭りのチラシ……もうそんな時期かぁ。屋台とかも結構出てたっけ」



 思い出したかのように華がつぶやく。


 夏祭り・花火大会・屋台……それらは全て陽キャもしくはリア充どもが友達や恋人と一緒に行く青春キラキライベントだ。


 ゆえに陰キャぼっちの俺には無縁なイベントだったわけで……


 いや、まぁ? 人混みとかやばそうだし? 屋台も食べ物もぼったくりだし? まぁ全然? 憧れとか寂しさとか? ないこともないですけど?


 ただ……人生で一度でいいから



「夏祭り、行ってみたいかも」



「!!」


「!!」



 ボソっとつぶやくように出た言葉を聞いて3人は一気にこちらを向いた。

 驚いた顔で俺を見る寧々と華。そして頭を抱えた黄瀬さん。



「十兵衛くん!! 一緒に行こうよ! 夏祭り! 私、予定確認してみるね!!」


「私も確認してみようかな?」



 ウキウキしながらスマホでスケジュールを確認する華とニコニコしながら表のテンションでスマホをいじる寧々。



「佐藤くん、行くんだったら土曜日か日曜日だよね?」



 寧々がスマホを見ながら確認を取ってくる。


 まぁ、花火大会は土日の二日だけだし、月曜日は次の日が学校だからなぁ。行くのなら次の日も休みかつ花火も見える土日のどちらかだろう。


 俺も寧々と同じ考えなのでそうだねと頷いた。



「さとっち? 私の話聞いてた?」 



 なぜか笑顔で圧をかけてくる黄瀬さん。

 


「え、話って……自分の言動のことだよね? なにか問題でも……」


「問題ありまくりだよ! なんでこんな火種になるようなことを……!!」


「ひ、火種? 別にこんなことで休み時間みたいには」


「わかるんだよっ……なんか嫌な予感がぷんぷんするんだよっ」


 いや、こればっかりは黄瀬さんの心配のし過ぎー



「佐藤くん。私、土曜日なら空いてるかな」


「あ、十兵衛くん。私、日曜日ならいけるよ」



 ピシッ



 うわぁ、あんなに盛り上がっていた空気が一瞬でピリついてしまった。

 なんてことだ……この緊張した空気感、まるで今日の休み時間みたいじゃないか。



(……ほらぁ!! こうなったじゃん! どうすんの!?)



 黄瀬さんの責めるようなアイコンタクトがきつい。


 寧々が土曜日、華が日曜日か……どうしよう。

 

 これはなしにすべきだよな? みんな揃って行く方がきっと楽しいし、それに別に無理して行きたいわけではないし。


 うん。この話は無かったことにしよう。それがいい気がする。



「ま、まぁ今回はー」


「私もこのお祭りは一度行ってみたいって思ってたから、佐藤くんさえよかったら土曜日に私と一緒に行こっか」


「……へ」



 寧々が切り込むように提案してきた。

 


「佐藤くんは私と二人っきりはいや……かな?」



 少し、目を潤わせ、不安が混じったような、懇願するように問いかける寧々。断ることで罪悪感を持たせてしまうような言い方。


 絶対に断らせないという強い意志を感じさせる。


 まぁ、コミュ障に断る勇気なんて微塵も持っていないのだが。



「あ、それじゃあ……」


「ちょっと待って!」


 

 くいっと華に裾を掴まれた。



「えっと……私、何回かこの祭り行ったことあるから……私と一緒に行った方が……た、楽しめるんじゃないかな? 花火が見られる穴場とか知ってるし」


「……え」


 

 まさかのここに来て華からも誘いを受けてしまった……


 え、どうしよう。どうすればいい? この空気でお祭り行くのはなしで!! とか死んでもいえないんだけど!?



(き、黄瀬さんっ……!! 助けて!)



 黄瀬さんにヘルプのアイコンタクトを飛ばすがプイっとそっぽを向かれてしまった。



「佐藤くん。私と華ちゃん。どっちと行きたい?」



 ね、寧々さん!? なにその地獄みたいな質問は!?

 え、選べというのか? この俺に?

 この間までぼっちで優柔不断で判断が遅い陰キャコミュ障の俺に?


 考えれば考えるほど、人を選べる立場ではないことを思い知らされる。



「………………」


「………………」



 二人とも、ただ無言でじっと俺の返事を待っている。



 ア、ワ、ワァ……な、泣きそうだ。



「あの、盛り上がってるところ申し訳ないんだけどちょっといい?」



 黄瀬さんがおずおずと手を挙げる。



「別に月曜日で良くない? この日なら私もいけるし……花火もないし、次の日学校だけどみんなでいけるじゃん。さとっちもそれでいいよね?」


「あ、そ、そうだね……どうせならみんな揃って行きたいし」



 や、やよいっち!! うおおおお!! 本当にありがとう!! やはり貴方は俺の生涯の心の友。もしくは相棒だ!!



「……そういうことなら。わかった。月曜日でいいよ。華ちゃんは?」


「私もそれでいいよ! 4人揃った方が楽しいもんね!」



 寧々と華の承諾も無事取れて、夏祭りはみんなで月曜日に行くことになった。


 後日、黄瀬さんには好きなものをご馳走しなければならないなと強く思った。



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