第47話 白VS黒





 休み時間。



「ねぇねぇ、佐藤くん」



 こそこそと次の授業の準備をしていたら隣の席である寧々から声をかけられた。



「えと、黒宮……さん。どうかした……んですか?」



 教室の中、周囲の目があるのでついつい黒宮呼び&敬語で話してしまう。



「あのねっ、最近新しいスタバーが出来たんだけど、とってもおしゃれな所なんだ。庭もあってー」



 ニコニコと可愛らしい笑顔で話す表の顔の寧々。


 最近、寧々がやたらと話しかけてくる。


 前まで教室では周りの目があってかわざわざ表の顔で話しかけてくることはなかった。


 考えられる原因は……この前行われた席替えで寧々の隣の席になったことくらいか。


 席で寝たふりをしていても周りにバレないように椅子を蹴ってきて起こそうとするし、なんで俺なんかと話がしたいんだろう。



「さーとーうーく〜ん? 私の話、ちゃんと聞いてくれてる?」



 あ、しまった。考え事をしていてきちんと聞いてなかった。


 まずいな……口調、表情は表の黒宮だがその心は不機嫌になりつつなっている。



「ちゃ、ちゃんと聞かせていただいております。新しいスタバーの話だよね? うん。おしゃれだと思うよ」


「………………」



 あ、あれ? なんでジト目で見つめてくるの? 何かやらかしてしまったのか?



「もうっ! 全然分かってないよっ! 一緒にいこって誘ってるんですけど?」


「え、あ、あぁ……もちろん。お供させていただきます」


「やった。楽しみだねっ」


「あ、はい」



 また、あの陽キャキラキラオシャレカフェに行かなくちゃならないのかぁ……


 いや、フラペなんとかは美味しかったから良いんだけど。だけど、あの空気感はいまだに慣れない。



「寧々ちゃんー十兵衛くーん」



 俺たちと離れた席に座っている華と黄瀬さんがこちらにやってくる。



「あれ? 寧々っち。何か良いことでもあった?」


「え〜? 別に何もないよ?」



 いつものように寧々、華、黄瀬さんの3人で構成されているトップカーストの美少女グループが集まり雑談を開始した。


 前まではどこか居心地悪く感じてしまい、トイレへ逃げたこともあったが今は違いこのメンツに少し安心感を感じている。



「よっと」



 黄瀬さんがさも自分の椅子かのように俺の机の上に座った。



「あ、さとっち机使わせてー」


「座ってからいうんじゃないよ……まぁ、いいんだけどさ」


「あ、むしろさとっち的にはご褒美か」


「……ふ」


「おいコラいま鼻で笑ったな? いびるぞ?」


「あ、ちょっと、ヘッドロックはやめてくださいっ」



 そんな会話を繰り広げながら黄瀬さんのヘッドロック受けているとふと視線を感じた。



「……やっぱり、やよいちゃんと十兵衛くんって距離が近いよね」



 華はじーと俺たちを見つめながらそう呟いた。



「え? まぁ、さとっちは出来が悪い弟みたいな物だからね。だから決して好きとかそんなんじゃないからね? 誤解しないでね? いや、本当に」



 黄瀬さんが必死に華とこちらをニコッとした表情(ちょっと不機嫌)な寧々に弁明するかのように訴える。



 そんな中、あることに気が付いた。俺と寧々は自分の椅子、黄瀬さんは俺の机それぞれ座れているが華だけがいまだ立ったままだった。


 女の子を立たせて、俺は座っている。


 うーん……男としてどうなんだろうか? まぁ、良いことではないのは確かだろう。


 よし、ここは俺が立って華には俺の席に座ってもらおうか。



「は、華……さん。よかったら座る?」



 おずおずといった感じで華に提案してみる。



「……へ?」 



 すると華は目を大きく見開き、驚いたように俺を見つめた。


 あれ? 俺なんか変はこと言ったかな?



「え、っといいの? じゅうべえくん……す、座っちゃって」



 ああ、俺が代わりに立つことに抵抗があるのか。さすが大天使である華さん。そんなことにも気を遣ってくれるとは。



「遠慮することないよ……俺たち親友だし」


「!! うんっ」



 とても嬉しそうにこちらにくる華。

 さて、俺も立ち上がなければー



「それじゃ、お邪魔しますっ」  



 えい。と華はなんの躊躇いも見せずに椅子に座っている俺の膝の上に座ってきた。


 下半身に伝わる柔らかい感触といい匂い。そして視覚的刺激。なんだこれは……劇薬か?



「へ?」


「は?」



 呆然とした様子で俺と華を見つめる寧々と黄瀬さん。


 なにが起こっているのか分からない。そんな感じだ。


 大丈夫だ。俺も同じだから。



「うわわ……ちょっと倒れそう。ごめん十兵衛くん。もう少しくっつくね」



 え? ちょ、なに? 近……近い。



「むぅ。まだ安定しないか……あ、後ろから抱きしめる感じで両腕まわしてくれない?」


「エ、ワ、ワァ……」



 言われるがまま行動すると華は満足気に頷いた。



「そうそう。うんうん。いい感じ。あ、それでさー」


「いや、ちょ!? 華ちー!? 何やってんの? 何やってんの!?」



 さ、さすがやよいっち! 俺の思っていることを代弁してくれる!!



「へ? なにって……十兵衛くんの上に座ってるだけだよ?」


「なんで!?」



 それな!?



「へ? だって座っていいって」



 違う、違う、そうじゃない……!!



「いや、それはさとっちが離席するから座ったらって意味でしょ?」



 そうそうそうそう!!



「あ、そういう意味だったんだね」



 華の言葉に全力で首を縦に振る。



「んーでも……もうこのままでもいいかな」



 え!? いいの!?



「いやいやいや……それは流石に色々とまずいでしょ!」


「まぁ、流石に恥ずかしいけど、私たち親友だから……ね? じゅうべえくん?」


「え、あ、はい」


「おいコラそこのクソ陰キャ。流されるな」


「は、華ちゃん。私もそういうのはあまり良くないと思うな〜? 周りからあらぬ誤解を招いちゃうから……ね?」



 表の口調をしているが、纏っている空気に圧がある寧々。黄瀬さんもそれを感じ取ったのか「ひっ……」と顔を青ざめている。



「へ? 誤解?」


「うん。そういうのは、親友じゃないくて恋人がやることだから……だから周りから良くない目で見られちゃうでしょ? だからあまり良くないと思う」


「寧々ちゃんは良くて、私はだめなの?」



 華が放った一言で空気がピリついた。



「……どういう意味かな?」


「だってこの間、十兵衛くんの腕組んで登校してたでしょ? あれも周りから見ると誤解されちゃうと思うんだ。なのに寧々ちゃんは十兵衛くんとそういうことをするのに、私はしちゃダメなの?」


「そ、それは……」



 華の言葉に寧々はたじろいだ。

 なんというか、言い方とか声調はいつも華のものだが、どこか威圧的に感じるのは気のせいだろうか?



 いや、きっと気のせいだろう。そうであってくれ。



「寧々ちゃん……ヤキモチ妬いてるんでしょ?」


「ちょ!?」



 やばいと言いたげな顔で黄瀬さんが必死に俺へアイコンタクトを送ってきた。



(ちょいちょい!! どうすんの!? さとっち!? どうすんの!?)


(……あのさ、なんで黒宮が白咲さんにヤキモチなんて焼くんだ? あ、もしかして、黒宮は普段仲がよかった親友である白咲さんを俺に取られてやきもちを焼いてしまった!?)


(お前はもう黙ってろ!)



「…………」


「黙ってるってことはそうなんだね。うん……わかるよ。私も十兵衛くんのこと。好きだから」


「!?」


「!?」


 !?



(え!? 黄瀬さん!? どういうこと!? この二人俺のこと好きなの!?)


(あぁ……もう終わりかもしれない)



 き、黄瀬さんが遠い目をし始めたぞ!?



「きっとやよいちゃんも十兵衛くんのこと好きなんだよね?」



 !?



(き、黄瀬さん!?)


(もうそれでいいよ……)


(やけくそにならないで!!)



「だって、好きじゃなきゃこうしていつも仲良く一緒にいないもんね?」


「……ん? ちょい待って。華ちー……その、さとっちのこと好きって親愛の意味でってこと?」


「へ? そうじゃないの?」



 あれ? ピリついていた空気が一気に穏やかになったぞ? あんなに緊張した空気感だったのに。



「あ、あー……うん。そだね。私も好きだよ。さとっちのこと。親愛って意味で」



 まるで緊張が解けたようにぐったりしながら黄瀬さんは言った。


 あ、好きってそういう意味ね……人として好感を持てるってことか。つまりラブではなくライクということだ。



「………………うん。そうだね。私、佐藤くんのこと好きだから、ヤキモチ妬いちゃってたみたい」



 え、待って寧々さん。なんですか今の間は? 本当はあまり好きじゃないのに華に合わせたってことですか?



「あ、チャイムがなってるから私たち戻るねーありがと十兵衛くん」



 ひょいと華が俺の膝の上から離れて自分の席に戻って行く。お腹を抑えながらその後を追っていく黄瀬さん。



「……まさか。ね」



 寧々は華をじっと見つめながらそう呟いた。

 




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