番外編 お風呂



 晩御飯も食べ終え、お風呂の時間がやって来た。十兵衛の厚意に甘えて私が先に入ることに。


 なぜこんなことになっているのか。それは私が絶賛家出中だからだ。クソ親父にムカついて家を飛び出したものの、あいつから一切の連絡が来ていない。


 もうそろそろ気付いていてもおかしくないはずなのに……


 いや別に期待してるわけじゃないけど……心配で電話くらいしてくるものじゃないの? 普通……


 はっいけないいけない。お風呂の時くらいはこのムカムカは置いといてと。



「……っ……はぁあ……♪」


 

 湯船に肩まで浸かって、一息ついた。

 この瞬間はまさに至福の時で、どんなお風呂でも変わることはない。


 それにさっきまで結構緊張というか、気を張ってたからね。


 なぜなら私は十兵衛に手料理を振る舞っていたからだ。


 泊めてもらう少しものお礼としてだったんだけど、やっぱり十兵衛の反応というかちゃんと美味しかったのか気になった。


『美味しい!! 寧々って料理上手いんだな……』



 あいつが美味しそうに私の料理を食べている姿を思い出す。



「……んふふ」



 やばい、なんか自然に頬がにやける。

 ま、まぁ……料理上手って言われて舞い上がるのは普通のことだし、女子ポイントが高いってことだから。


 だから、これはあいつに言われたから嬉しいとかそんなんじゃない。


 それに? なんというか? 女の子らしく、家庭的な面をアピール出来て……いや別にあいつに対して何かアピールする必要なんて全然ないんだけど。



「………………」



 最近、なんというか……私の中で十兵衛の存在が少し、ほんの少しだけど、特別になってる気がする。


 今日だって、声をかけるならまずやよいや華にするのが普通なのに。女同士だし、同い年だし……


 でも、クソ親父と大喧嘩してカッとなって、家出してやるって考えた時に真っ先に思い浮かんだのが、十兵衛の顔だった。


 理由はいくらでもある。


 ほぼ1人暮らし状態だし、私の裏の顔を知っているし、良い意味で気を使わなくてもいいし。


 でも、それは単なる建前で、本音は別にあるような……



「いやいやいや、何考えてんだ私……」



 余計なことを考える前にさっさと体とか洗って上がってしまおう。



「……あ」


 また、余計なことを思い出してしまった。


 家を出る時、勢い任せに持って来てしまったアレ。


 超アダルティな、キワドイ下着のことを。


 以前に店員さんとやよいに乗せられて買ってしまったのは良いものを使う機会が0回だったアレ。


 穿くの? 着けるの? アレを?


 いや、まぁ、あいつに見せるわけじゃないけど。マジで。パジャマも着るし、見られることは絶対ないんだろうけど。


 それに、一応普通の下着も持ってきてるわけだからそっちを……

 

 いや、でも……でもよ? その、今夜はあいつと2人っきりだし? 何があってもおかしくはないというか、万が一そういう状況になったら……?


 ありえないことだけど、そういう気分になる……こともないこともないし。


 ん? あれ? だったら逆につけたほうがいいんじゃないの?



「…………………………」



 落ち着け私、初めての男の家のお泊まりだからってパニックになってるんじゃないわよ。


 常識的に考えたら−



「あ、上がったわよ……」


「ん、それじゃあ俺も行ってこようかな」


「い、行ってらっしゃい……」


「……寧々?」


「な、なによ」


「いや……なんでそんな内股なんだろうって」


「……思ったより、すーすして落ち着かないのよ」


「?」



 

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