第40話 寧々の家出


「………………」


「………………」



 日曜日、玄関の扉を開けた俺の目の前にはなぜか男子高校生を夢中にさせている女子、黒宮寧々さんが腕を組んで立っていた。


 なぜかキャリーバックを携えて。


 沈黙、お互いに見つめ合う。


 そこには甘い空気はなく、ある種の緊張感があった。


 昨日、遊園地に行った疲れを取るように『休日部屋』で過ごしていた矢先、なんでこんなことに。



「……あの、寧々さん? 今日はどういったご用件で? その荷物は?」


「……お願いがあって来たの」



 家、キャリーバック、お願い。これらの要素から予測されるのはもうあれしかない。



「しばらくの間あんたの家に泊まらせて」



 頭を抱えたくなった。これはあれか? 家出というやつかな? なんでよりによって俺の家を選んだんだよ……黄瀬さんとか華とかいるだろう。もしかして、断られてのだろうか?


 というか、なんで急に家出なんか……いや今の問題はここではない。



「………………だめ?」



 いや、ダメでしょう……普通に考えて。

 いくら友達だといっても俺は男で寧々は女の子なのだ。男女同じ屋根のした一夜、下手すればそれ以上共にするとなると……



「お願い。十兵衛。あんたしか頼れるやつがいないの……」


「いや……そんなこと言われても」


「うぅ……!! あんたが泊まらせてくれないと……私はこのまま路頭に迷うことになんだわ……!!」


「ちょっ……!! なんでそうなるんだ……!!」


「……もしあんたに断られたら私は飴ちゃんでも舐めながら路上で神待ちギャルをするしかないのね……」


「い、いやいや!! 捨てられた子犬みたいな目で訴えられても無理なものは無理なんだって!!」



 5分後。



「タオルケットは予備があるからいいとして、寝るところは……」


 

 結論、黒宮寧々さんがしばらくの間我が家に泊まることになりました。

 仕方ないよな……だって頼られると承認欲求が満たされるんだもの…… 



「とりあえずこの部屋を使っていいから……」


「本当にいいの? この部屋誰かの部屋なんじゃないの? 正直、リビングの床で全然大丈夫よ?」


「いいよ。この部屋は滅多に帰ってこない義妹の部屋だし。それに泊めるとなった以上はちゃんとしたところで寝てほしいから」


「……わかった。ご厚意に甘えるわ」



 遠慮するか少しだけ迷ったようだが、首を縦に振ってくれた。その後、軽く我が家の部屋割りの紹介をしてとりあえず、部屋を出てリビングで寧々の準備が終えるまで待機。



「……そういえば誰かが泊まりに来るなんて初めてだな」



 これが俗にいうお泊まり会というやつなのだろうか?


 スマホを適当に触りながら待つこと数十分、寧々がリビングに来た。

 


「……お、終わった?」


「ええ、一通りは」



 うむ。これで準備らしい準備は終わってしまった。


 つまり。


 これから学校に行くまで寧々と2人きりということだ。



「…………」


「…………」


 わー気まずーい。

 知ってたけどー

 わかってたけどー


 どんな理由があったとしても高校生以男女が2人りきりひとつ屋根の下で

暮らすことになるのだ。前のようにはいかないだろう。


 流石の寧々さんもこの状況には落ち着かない様子。正直、意識するなというのが無理な相談だ。


 こういう時は……


「あー……寧々さん」


「な、なによ」


「ここにいても何もすることないし、ちょっと別の部屋に移動しない? 娯楽部屋みたいなのがあるんだけど」


「別にいいけど……」



 というわけでいつもの休日部屋へ。 


 超大型液晶テレビ・超大型高性能二人がけ電動リクライニングソファ・自室の倍以上に漫画とラノベが入っている本棚達・ジュースなどを入れる冷蔵庫などなど堕落道具が全て詰まった部屋。


 その快適性はちょくちょく来ている黄瀬さんも太鼓判を押すほどだ。



「へーここがさっき言ってた部屋ね……」



 寧々も興味深そうに周りを見渡している。



「え、すごっ電動ソファー!!」 

 


 うんうん。楽しんでもらえているようで何より。


「何か飲みたいものでもある? コーラとかオレンジジュースとかレモンティーもあるけど」


 お、冷蔵庫にこの前黄瀬さんが置いていったプリンがある。4つくらい残ってるし2つくらい頂こうかな。


 食べた分は後で買い足しておけばいいだけだし。



「……そっかそっかぁー十兵衛くんはここに色んな女の子を連れ込んでるんだねっ」



 え? なんで表の口調?



「いや、連れ込んでるって……あいにくそんな相手は俺にはいないよ」


「え〜? それじゃあ、このマネキュアとシュシュは一体なんなのかな?」



 振り返ると、寧々は黄瀬さんが置いていったマネキュアとシュシュを俺に見せつけた。



「誰のだろう? 説明してくれるよね? 十兵衛くん?」


 

 ……黄瀬さん!! 自分の持ち物くらいちゃんと持って帰って帰ってくれよっ!!


 やばいぞ……寧々があえて表の口調と表情で話す時は結構怒ってる時だ。


 ここは素直に言っておいた方が良さそうだ。下手に嘘をつくと状況が悪化してしまう。そんな気がする。


 黄瀬さんが家……というか休日部屋にちょくちょく遊びに来ることを説明しつつ納得してもらえるのにどれくらいの時間と労力がかかるのか。


 なんだか気が遠くなった。

 




 

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