第39話 はーちゃんと遊園地②
「さて、次はいよいよ今回のメインだね!!」
嬉そうにはーちゃんが指さす先は『スーパーローリングサンダー』というジェットコースター。
メリーゴーランドに乗ったあといくつかのアトラクションに乗り、肩慣らしのようなものが終わったのでいよいよ絶叫マシーンに乗ることになった。
……とうとうきてしまったか、この時が。
くねくねと激しく曲がっているレール。
日本一高いと看板に書いてあるほどの頂上の高さ。
ジェットコースターの坂とは思えないほどの急勾配。
絶対に怖い。
待ち時間、はーちゃんと雑談をしながら気を紛らわせていたが、とうとう次あたりで乗ることになりそうだ。
一番前だけは嫌だ! 一番前だけは嫌だ! 一番前だけは嫌だ!!
「わ、十兵衛くん!! 私たち一番前だよ!!」
チクショー!!
一番前のシートに案内される。
「おお、いざ乗ってるとちょっと怖いね」
隣に座っているはーちゃんはテンションこそ高いが顔が強張っている。
正直俺は今それどころではない。
ガタンガタンと振動しながらゆっくりと長〜〜〜い上り坂を登って行く。
「……じゅ、十兵衛くん? 大丈夫? 頬引き攣ってるけど……!?」
「あ、あ、あ、あ、ああ」
「大丈夫? 手でも握ってあげようかーってはやっ」
俺は一瞬で無駄に洗練された無駄のない動きではーちゃんの手を握った。
「……意外と握る力強いな」
横でそう言いているはーちゃんの頬はなんだか赤くなっている様に見えた。
そして遂にコースターが頂上に到達し、ぐっと体に力を入れて急降下の衝撃に備える。あとついでに覚悟を決める。
……? あれ? なんでピタって止まってー
そう気を抜いた瞬間、コースターが一気に下り坂を駆け降り始めた。
「うオオオオオオオオオオおおおん!?」
「わーーーーーーー!!」
ちょっと待って!! 浮いてる!! 体が浮いてる!!
そして次は急カーブへと突入。
「ぐぎぃぃぃ!?」
「うぅぅぅぅぅ……!?」
ちょっと待って!! 浮いてる!! 内臓浮いてる!!
その後、気を失いかけながらもなんとか絶叫コースを耐え続けガクンと恐ろしいほどの速さで走っていたコースターの速度がゆっくりになる。
そうこれはホームに近づいている証拠。つまり終わりの合図!!
長いようであっという間で、やっぱり長かったような絶叫時間は終わったのだ。
「楽しかったね!! こう、体がブワーって浮いて! これ、もう一回乗りたいかも!!」
「……………………インターバルを、後生なのでインターバルを下さいっ!!」
「い、いや……十兵衛くん? 嫌だったら別に大丈夫だからね?」
いや、楽しかったのは楽しかったのだ。アドレナリンがドバドバ出るというか……こんな気持ちの良い感覚はジェットコースターでしか味わえないのだろう。
ただ……めちゃくちゃ疲れる!
「……あっ」
やば、はーちゃんの手を繋いだままだった。それに気がついた瞬間、パッと手を離す。
「ごめん……いつまでも手を握ってしまいまして」
「…………ちぇー」
「はーちゃん?」
「あーいや、次はお化け屋敷に行きたいなって」
とのことなので次はお化け屋敷へ。
廃業した病院をテーマとしているこのお化け屋敷は日本でも屈指の怖さを誇るらしい。
リタイヤする人が続出しているらしく日本屈指は伊達ではないようだ。
いざ、中に入ると暗闇で視覚が十分ではなく、うめき声や消毒液の匂い、じめっとした空気など五感全てを刺激させる演出がされている。
「………………」
はーちゃんの表情は先ほどまでと打って変わって青ざめていた。
「……はーちゃん」
「!! なに!?」
いや、そんな驚かなくても……
「リタイヤする?」
「いや、大丈夫だよっ! まだおばけにあってもないし……!!」
へへ……と笑ってはいるが引き攣ってるんだよなぁ。
「本当に大丈夫? 手でも握ってあげようかーってはやっ」
はーちゃんは一瞬で俺の手を握ってきた。
「ほら行こう!! 十兵衛くん!!」
ジェットコースターの時と立場が逆になってると思いながら手を繋ぎながらも先に進む。
手術台が置いてある大きなフロアに着く。いかにも何か仕掛けて来そうなところだ。
「っ!?」
はーちゃんも同じことを思ったのか、手を繋ぐどころか抱きついてきている。
別の意味でドキドキしながら進むと
「ヴァアアアアアアアアアア!!」
案の定、血だらけの患者のおばけが悲鳴を上げながら現れた。
「きゃああああああああああ!?」
「うわっ!?」
おばけよりも隣のはーちゃんの悲鳴でびっくりする。
「……ごめん。やっぱりリタイヤする」
怯えながら涙目でそう言われたら首を縦に振るしかなかった。
おばけ役のスタッフさんに親切丁寧に誘導してもらいながら無事病院を脱出した俺たちは当てもなくフラフラと歩いていた。
まだ恐怖感が残っているのかはーちゃんは俺の腕に抱きついたまま。指摘することもできるけどもう少しこの幸福を味わってもバチは当たらないだろう。
「……ごめんね。まさか、あんなに怖いとは思ってなくて」
「全然いいよ。無理はしないほうがいいし」
「うー! でもなんか悔しい! 絶対またリベンジする! 次は少なくても第二フロアまで耐えてみせるよ!」
次……か。はーちゃんの中で『次』があることに驚く。
「このお化け屋敷10フロアくらいあるけど……完走は何回目くらいになるんだろう」
そういうとはーちゃんは『うっ』と固まり
「……年パス買おっか!!」
いや、完走までどれくらいかけるつもりなんだ……!?
その後、ゴーカート・空中ブランコ・バイキング・スーパーローリングサンダー(2回目)など他アトラクションを堪能し、気がつけば夕方になっていた。
おかげで体力がすっからかんといったところだが、その分楽しめたのでよしとしておこう。
電車に揺られて30分ほど、降りる駅まで後半分といったところだ。
「十兵衛くん大丈夫? 疲れてない? 頭、私の肩に乗せて寝てもいいよ? 駅に着いたら起こすし」
「あ、いや……大丈夫」
とても魅力的な提案だったけど、流石にそれは周りの目が気になる。そこまで眠気が限界なわけじゃないし、話していたら目が覚めるだろう。
「久しぶりの遊園地、とっても楽しかった。もっともっと遊びたかったなぁ」
「俺も……今日は一緒に遊んで楽しかった。時間があっという間に過ぎて……まだまだ乗りたいアトラクションとかあったし」
「ほんと? それはよかった! 十兵衛くんも楽しんでもらえて! 次はいつ行く? あ、夏休みとかで行くのもありだよね〜」
とても嬉しそうな笑顔を見せるはーちゃん。
「あ、でも別に遊園地にこだわることはないのか〜……よーし! 夏休みは十兵衛くんと色んな予定立てちゃおっかな!! 十兵衛くんはどこ行きたい? 毎日一緒に夏の思い出作ろうね!!」
毎日!? それは流石にしんどいんですけど……!!
「えっと……う、うん。まぁ考えておくよ」
「へへ〜やよいちゃんやねねちゃんを誘うのも……」
しかし、何か考え込むような顔をした後、俺の目をじっと見て
「……ねぇ、十兵衛くん」
「ど、どうしたの?」
どこかいつもの雰囲気と違うはーちゃんに少し驚きながらも返事をする。
「今日とこの前の寧々ちゃんとの………………いや、やっぱりなんでもない!!」
まるで、言いたかった言葉を無理やり飲み込んだかのようだった。聞きたいけど、聞きたくない。そんな感じだ。
そして、自分を戒めるような表情をしながら下を向く。
「……華。今日は誘ってくれてありがとう。また来よう。約束」
「!! うん!! どういたしまして!! 絶対だよ!」
2人で指切りして、約束をする。
この約束がどうか守れますよにと祈りながら。
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