第41話 2人の夜
「おやすみ、十兵衛」
「ああ、おやすみ寧々」
夜、時間もそこそこに、俺たちは寝ることにした。
「……ふぅ」
自室に着いた瞬間、どっと疲れが襲いかかって来た。飛び込むようにベッドにダイブする。
明日は学校だし、さっさと寝てしまおう。
そう思い、瞼を閉じた。
…………
………………
…………………………あれ? 寝れない。
今日の疲労度でいえば即爆睡なはずなのだが、なかなか寝付けない。ごろんと何回か寝返りを打って寝る体勢を変えても意味はなかった。
なぜ寝れないのか、その原因に心当たりがある。
……俺は今、あの黒宮寧々とひとつ屋根の下一夜を共にしている。少し前まで遠い存在だと思っていた学園のアイドルと。
よせばいいのに、余計なことを考えてしまう。そして段々と意識が強くなっていく。
うぅ……負の連鎖だ。
……こんな時は。
『助けてやよいもーん疲れてるのに全然寝れないよー』
そしてスタンプ連打。
『(やよいー☆)いや、うざいうざい』
『昨日同じことを誰かにされたんんだけど?』
とりあえず、黄瀬さんとロインでもしていたら眠気が来るだろう。
1時間ほど、だらだらとメッセージを送り合っているとようやく眠気が襲ってきた。
黄瀬さんとのロインも一区切りつけ、今度こそ眠るように瞼を閉じた。
…………
………………
…………………………
ギィ……
扉が開く音で目が覚めた。
「……んん?」
折角気持ちよく寝てたのに。朝? ……まだ3時か。なんで扉が開く音なんかしたんだろう?
目を擦りながら振り返ると少し驚いたような顔をした寧々が俺の部屋に入ってきていた。
「……十兵衛」
「……な、なにをして?」
「……変な時間に目が覚めたのよ。だからちょっとだけ居させて」
「え、まぁ、うん」
寧々に背中を向けて、この状況を意識して寝れなくなる前に瞼を閉じる。
意識しちゃダメだ。意識しちゃダメだ。意識しちゃダメだ。
……ドツボにハマっている気がする。
ギシっとベッドが沈む感触と音がした。
「ちょっ……」
「こっち向かないで」
う、と言葉を詰まらせ、寧々のなすがまま背中合わせで2人ひとつのベッドで寝る。
「なにも聞かないの?」
きっと、寧々が言っているのは家出してきた理由だろう。
「まぁ、正直聞きたいし気にはなるよ。でも無理に聞いたりはしない。言いたくなった時に言ってくれたらいい」
「……なにそれ」
「人には言いたくないことの1つや2つあるのが当たり前だし……それに、俺の過去とか、入って欲しくない部屋のこととか、なんで家族は全然帰って来ないのとか……俺が聞いて欲しくないこと、聞かないでくれてるじゃんか」
「…………」
「俺は寧々のそういう部分に救われているところもあるから……だから俺もそうしたいんだよ」
「…………うーーーん」
「な、何?」
「…………………………」
「あ、あの……寧々さん。何か言っていただけるとー」
ふわりといい匂いと柔らかい感触に包み込まれた。
寧々が俺の体に腕を回して、ぎゅっと顔を俺の背中に埋めている。
ここでやっと、自分が寧々に後ろから抱きしめられていることに気づいた。
「やばい……」
「寧々さん? やばいって……何が?」
「今、抑えるのに必死だから話しかけないで」
抑える? 何を? というか、そんなに力強く抱きつかれるとこっちも理性が……
「なにが自分はコミュ障よ。ほんと、いつもいつも……あんたがそんなんだから……私は……」
「……ね、寧々さん?」
「なんでもない……それにしてもあんたのお人好しなところ心配になってくるわ。騙されたり、つけこまれたりしないか」
「……それは大丈夫じゃないかな。俺の特技は嘘を見抜くことだし」
「……うそくさ」
「ひどい」
「……なら、今からいう言葉を嘘か本当か当てて見せてよ」
「え、いやちょっといきなりは−」
「好き」
どくんと鼓動が高鳴った。
「付き合いたい、独り占めしたい、誰にも渡したくない、ずっと一緒にいてほしい、結婚したい、大好き」
「………………」
「どう? 嘘か本当か、わかった?」
「…………わからない」
「……ま、期待してなかったけど」
「寧々がわからないことは俺にもわからないよ」
「…………それもそうね」
「さて、そろそろ寝よう。これ以上が流石に明日に響く」
「ん、そうね。それじゃあ改めて、おやすみ十兵衛」
そう言いながら寧々は眠りについた。
「い、いや……あ、あの。寧々さん。この状態で寝るの? 部屋に戻ってって意味で言ったんだけど? あ、あれ? お、おーい。へ? まじでもう寝た? ちょっと?」
寧々からの返事が一切ない。本当に寝たのか狸寝入りなのか。それは寧々のみぞ知る。
……同じシャンプーを使っているはずなのにどうしてこんな良い匂いなんだろうな。
「はぁ……」
眠れるのは何時になることやら。
明日のアラームは気休めにもならず、寧々に叩き起こされるのだろう。
そんな予感がした。
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