第42話 2人の朝
翌朝。
設定していたアラームに起こされる。やはり、昨日の黒宮寧々の襲来のせいで眠りが浅かったせいか、かなり瞼が重たい。体も重くもう一眠りしたいところだが、ここで寝たら遅刻が確定する気がするので、仕方なく起きることに。
「あれ……」
昨日いたはずの寧々が隣に居ない。
もしかして……昨日のことって俺の夢だったのでは? そうだよ。あの黒宮寧々が泊まりに来るなんて、普通に考えてありえないことだ。
「おはよう十兵衛。朝ごはんできたからさっさと顔洗いに……どうしたの?」
「いや、夢じゃなかったんだなって」
目の前には制服の上にエプロンを寧々が。
うーん……なんか、生活感溢れるというか……一緒に暮らしてる感があるというか……感無量です。
顔を洗い、歯を磨き、制服に着替えてリビングへ。
食卓には既にご飯、だし巻き卵、焼き鮭、味噌汁などなど朝ごはんが並んでいた。
ありがたくいただくことに。
「……美味しい。悪いね。朝ごはんまで作ってもらって」
「ま、泊まらせてもらってるんだからこれくらいはね」
俺にしては珍しく、ご飯をおかわりをしながら朝ごはんを平らげた。
いつもは朝からそんなに食べないんだけど、寧々の料理がうまいからか、誰かとだべることによって箸が進んだのか。もしくはその両方か。
「……………ふん」
寧々が自身のスマホを見ながら何やら不満げな顔をしていた。
まただ……家に来てから寧々は随分とスマホを気にしている気がする。
準備も完了し玄関で2人、靴を履いていたらあることに気がつく。
「どうしたのよ?」
「あー……いや……なんでもない」
「いや、なんでもないことないでしょ。言いたいことがあるんならはっきり言って」
「……今日、スカートの下短パンなんだなって」
「ああ、なんだ。そんなこと……いつもは履かないんだけど、今日はね」
「なんで今日は短パンを?」
「……一身上の都合よ」
寧々はなぜか顔を赤くさせ、これ以上のことは話さなかった。2人で家を出て、電車に乗り、学校へと登校する。
正直、時間をずらした方がいいのではと提案したのだが
『なんで? 私と一緒に登校するところを見られるのが嫌なの?』
そんな事を言われてしまったら、取り下げるしかないだろう。
見られるのが嫌というか、変な噂でもされたら寧々の方が迷惑なのではないのだろうか?
案の定、多くの視線が俺たちに突き刺さる。
「おい、あいつなんで、黒宮さんとあんなに仲良さ気に登校してるんだ?」
「え? もしかして付き合ってる? あんな奴と?」
視線だけではなく、トゲトゲした言葉も。
「〜♪」
まぁ、当の本人が上機嫌だから良いか。なんでかわからないけど。
「さとちん。ねねっちおはよ〜」
校舎についた瞬間、後ろから声をかけられた。聞きられた声とあだ名に振り返ると案の定黄瀬さんが居た。
「珍しいねーさとちんとねねっちが一緒に登校なんて……!?」
俺たちに近づいた瞬間、ぱちくりと大きく目を瞬かせる。言葉を失ったように俺の顔をジーと見つめてくる。
「黄瀬さん?」
「あ、ソウダー朝からノート運ばないといけないんダッターさとっち手伝ってヨー」
「え? まぁ……良いけど」
なんでちょっと棒読み気味なんだろう。
「やよいちゃん。私も手伝おうか?」
「いや、さとっち1人で十分しょ。ということで、ねねっち。さとちん借りるねー」
「うん。わかった。それじゃあ先に教室に行くね?」
階段を登って行く寧々を見送ってから、俺たちは職員室に向かい、クラス全員分のノートを受け取って教室へ歩き出した。
「どうだったの? はなちーとの遊園地デート」
「デートではないけど……楽しかったよ」
「ほーん。それはよかった……で? なんでねねっちからさとっちと同じシャンプーの匂いがするの?」
「ああ、それは昨日から寧々がうちに泊まりに来てるから……」
「……え」
「……あ」
しまった。話の流れでついポロッと……恐る恐る見ると黄瀬さんを見るとどこか遠い目をしていた。
なるで悩みの種が増えたかのように。
「……その話、詳しく聞こうか」
「は、はい……」
ひとまず、黄瀬さんには昨日の出来事を話した。
寧々が家出したこと。
その家出先が俺の家であること。
なぜ家出したのかは聞いていないこと。
何日くらい居るのか一切分かってないこと。
「……まぁ、ねねっちも色々と事情があって、さとちんを頼ったんだろうし……お互い合意の上でならいいんじゃない?」
「そ、そうだよな!」
フォロー助かる。
「付き合っていればね」
「………………」
「オイコラ☆黙んな」
はぁ……と大きい、とても大きいため息をついてなんとも言えない微妙そうな顔をしながら俺を見つめる。
「周りにはバレないようにしなよ。特にはなちーには……色々と面倒なことになりそうだから」
「う、うん……」
華には話そうと思っていたんだけど、黄瀬さんいう事を聞いていた方が良さそうだな。
「それと、ちゃんと終わりは見えるように。このままズブズブ同棲し続けるのは絶対良くないし」
「それは……大丈夫でしょ。寧々ならきちんとー」
「あ、あはよー十兵衛くん!! やよいちゃん!」
正面を見ると、教室の出入り口で華が俺たちに向かって手を振っていた。
「おお、はなちーおはー」
「はー……華、おはよう」
危ない危ない。危うく『はーちゃん』って呼んでしまうところだった。このあだ名はあくまで2人きりのみでの呼び名。こんなところで使ってしまったら絶対に面倒なことになる。
まぁ照れくさいというのもあるけれど、きっと華もそこらへんは分かってくれるはず……
「別にみんなの前でも『はーちゃん』って呼んでくれていいよ?」
「はー!?」
は、はーちゃんッ!! ほら! 隣にいる黄瀬さんが絶句してるじゃん!!
「い、いや……それはちょっと恥ずかしいというか」
「えー私は呼んで欲しいのにー」
「や、やー……まぁ、馴れたらね……?」
「むぅー約束だよ〜?」
「う、うん……」
なんとか納得した華は一足先に教室に入る。
さて、俺も教室に……
「……ヲイ」
「……はい」
「さとっちくん。この後詳しく聞くかんな」
「……はい」
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