第37話 黄瀬さんと買い物


「まさか、あのキャラが勝ちヒロインだったとはねーぶっちゃけ負けヒロインだと思ってた」


「まぁ、最初から主人公対して協力的で色々と手助けしてたから」


「んー確かに、助けて欲しい時に色々と手助けしてくれたり、相談できる女の子を好きになるのは当然か……」



 俺と黄瀬さんは以前約束していた映画を見終わり、ファーストフードコーナーでちょっとした感想会をしていた。



「あ、そうだ。黄瀬さんに相談に乗って欲しいことが」


「そうだん〜? もしかして、華っちと遊園地に行く件?」


「そうそう。その時に着ていく私服なんだけど……俺なりに、オシャレというものを勉強して新しい服を買ってみたんだ。それを黄瀬さんに見て欲しくて」


「へぇ……! ちゃんと自分で勉強して考えて買ったんだ! えらいぞさとちん」


「へへ……あ、これなんだけど」



 あらかじめスマホに撮っておいた写真を黄瀬さんに見せる。



「前回の反省を生かしているから今回のコーディネートには結構自信があるー」


「うわー相変わらずクッソダッサいねー」


「えっ!?」



 相変わらず? クソダサい?



「いやいや、黄瀬さん!! 黒の服! 黒のズボン! 黒の鞄に黒の靴!! これの一体何か不服なんだよ!?」


「全身真っ黒!! もはや闇なんだよ! 陰キャオタク感がすごい!! 」


「で、でも統一感があって!! それにこれ全部良い素材を使っていて……!!」


「もうやめようさとっち!! 今のさとっち痛々しすぎてみてられないよ!」


「く、やはりドクロとか十字型ネックレスとかの方がよかったか……!!」


「ビジュアル系は絶対やめとけ!! 似合わないから!!」



 ……というわけで黄瀬さんに却下されてしまった俺の服装案。頑張って考えたのに。また一から考えな直しか……


「ていうか、その服着れば良いじゃん……」


「それは……そうなんだけども……この服しかないのって思われたくないし……」


「なにそのプライド……はぁ、しょうがないな。ほらいくよさとっち」



 そう言いながら黄瀬さんは鞄を持ちながら立ち上がった。



「いくってどこに?」



 そう聞くと黄瀬さんは深ーいため息をつきながらジトっと俺の顔を見つめる。いや察せよと言いたいんだろうか?



「今からこのやよい様直々に二度目のコーディネートをしてあげるって言ってんの」


「え!? いいの?」


「まぁ、流石にこれの隣を歩くはなちーが可哀想だし」



 こ、これ……なんともまぁひどい言われようだけど黄瀬さんが言うのならその通りなんだろう。

 

 その後、色々とショッピングモール内の店を渡り歩き遊びに行く用の服一式黄瀬さんに選んでもらい、買った。




「……今日は服選び手伝ってありがとう」


「どういたしまして……ま、完全に私の好みだからはなっちに受けが良いのかは保証出来ないケド」


「それは大丈夫だと思うけど」


「センス皆無のくせにその自信はどこから湧いてくるんだか」


「だって、黄瀬さんが真剣な顔しながら随分と悩んで選んでくれた服だから大丈夫に決まってる」


「……まぁ、適当に選んだら選んだで、私のセンスが疑われるからね」



 そう口ではぶっきらぼうに言っているけど、黄瀬さんはなんだかんだ相談もちゃんと聞いてくれてアドバイスしたりしてくれるし、何かと気が利く友達思いの優しい女の子だ。



「……あ」



 不意に黄瀬さんの視線があるワンピースを着ているマネキンに釘付けになった。



「あ、あのワンピースこの前服を買いに行った時も見てたよね。気になるの?」


「……意外とみてるね。なのになんでそんなに鈍感なんだか」



 え? なんでため息をつかれてしまったんだろう?



「欲しいけど、いいや。お金足りないし」


「……ちょっとだけ見に行かない?」


「へ? ち、ちょっと!? さとっち!?」


「まぁまぁいいから」



 黄瀬さんの手首を掴み、手をひきながら店に入る。



「サイズは?」


「……このサイズだけど」


「ん、わかった。ちょっと買ってくる」


「へ? ちょいちょいちょい!! 何言ってんの!? いきなりどうした!? 何が目的!? こわ!?」


「この前の服足りない分お金出してもらってるし、今日も相談に乗ってくれてるからお礼だよ。お礼」


「いや、お礼にしては貰いすぎてるというか……」


「まぁまぁ、ここは男らしくズバッといかせてくださいな」


「お、おう……」



 現在の所持金は5200円。


 金額は見ていないけど5000円あれば足りるだろ。もし、万が一だけど足りなかったら最終兵器もあるし。



「1点で7500円になります」


「………………………カードで」



 1分前の俺を恨みながらお年玉を貯めている口座のカードで支払いをした。



「はい、どうぞ……」


「あ、ありがとう……さとちん? 本当にいいの? やっぱり半分くらい出す?」


「ダイジョウブ。問題ナイ」


「顔が大丈夫そうじゃないんだけどー」




「あれ? やよいじゃね?」


「……げ」



 イケメン陽キャ二人が立ち止まり、俺たちをみていた。黄瀬さんは大分気まずそうな、怪訝そうな表情をしている。



「え、可愛い子っすねー先輩。まさか元カノとか?」


「あーそんな感じ」


「………………」



 なんともいえない気まずいというか居た堪れない空気になる。……これはあれだ。修羅場ってやつだ!!


 それにしても黄瀬さんの元カレめちゃくちゃチャラそうだな……



「えー勿体ないっすね。なんで別れたんすか」


「いや、それがさぁ……デートしてもつまんなさそうな顔してるし、思いやりもなし。軽い女だし、基本わがままなんだよなぁ」


「え、やばっ」


「しかもー」



 すごいなこの人たち! 本人の目の前で愚痴り始めたぞ!?……デリカシーがないのか!?

 

 なんというか、理解者面というか、上から見線というか……


 元カレさんの視線が黄瀬さんの持っているワンピースが入ってる袋をとらえた。


 うわ、嫌な予感がする。



「やよい〜男がいないからって陰キャくんを勘違いさせてダメじゃないか〜そこの財布扱いされてる陰キャくんが可哀想だろ?」



 やっぱり、勘違いしてた……



「やっぱ、お前問題ありまくり女だよな〜」 


 チャラ男二人はケラケラと笑っている。それに対して黄瀬さんは怒ってはおらず、呆れている様子だ。相手にするだけ無駄ということか。



「……いこう。さとっちー」


「あなた、それ本気で言ってますか?」



 でも、俺は違う。



「……は?」


「本気で言ってるのなら、はっきり言うけど見る目ないですね」



 こっちは腹が立って仕方がない。言いたいこと言わなきゃ気がすまないんだよ。



「確かにやよいは言動とか軽いし、男漁りに余念がないけど、すごく友達思いで面倒見がいい所もある魅力的な女の子ですよ」


「な、なんだよお前……彼氏面してかっこいいと思ってるのか?」


「え? いや、俺はただ、やよいの魅力を言ってるだけですけど? あれ? 逆に彼氏だったくせにご存じない?」


「……っ!?」


「少なくともデリカシー皆無なあんたの方が問題なんじゃないんですか?」


「ぐっ……ちっ! おい! 行くぞ!!」


「あ、先輩! 待ってくださいよ!」



 これ以上ムキになって反論したらダサいと思ったのか元カレさんは後輩を連れてこの場を去っていった。 


 ふん、雑魚め。二度と面を見せるなファ●クやろう。



「……まさか佐藤の方が食ってかかるとはねームキになっちゃって〜私のこと大好きか〜?」



 面白がりながらツンツンと突っついてきる黄瀬さん。



「まぁ、元カレとは言え流石にあれはないでしょ……」


「は? いやいや、元カレじゃないから。やめてよ」



 えっ!?



「あいつ、何回目かのデートで告白してきたから振ったんだよ。私にとってはただの振った男の一人ってワケ」



 ……そういえば、


『え、可愛い子っすねー先輩。まさか元カノとか?』


『あーそんな感じ』



 確かに元カノとは言ってなかったな……もしかして



「後輩に見栄はちゃったんじゃない? 知らんけど」 


 ……そういうことか、あれ? なんか、今自身の言動を思い返すとなんか。



「さとっちの方が私の彼ぴっぽかったね。向こうも勘違いしたんじゃないの?」


「で、ですよね……どうしよう。今から追いかけて誤解を解いた方が」


「別にもういいんじゃない?」


「いや、万が一他校とはいえこのまま噂とかになってこっちにも話がきたら……!!」


「その時は潔く交際宣言でもしちゃえばいいんじゃない〜?」


「えっ、あ……はっ!?」


「あははははは!! なんつって!!」



 こ、この尻軽女がぁぁぁぁ!!



「腹減ったしサイゼいこ。今の私は気分がいいからドリンクバー奢ってあげよう」


「わー微妙に嬉しいなー」


「奢ってもらう文句分際で文句言うな」


 鞄で叩かれながらも俺たちは歩き始めた。









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