第36話 寧々とのデート


「ここよ」



 私が行きたいラーメン屋、ラーメン野郎。十兵衛は看板を見て絶句していた。



「ここ……二郎系ラーメンだけど大丈夫?」



 じろう? 何言ってんのよこいつ。



「あ、量が多いってこと? 大丈夫よ。今の私お腹ぺこぺこだから、何も問題はないわ。ほら、さっさと入るわよ」


 店に入った途端、店内にいる客全員が私達を見た。

 いや、私たちというより私か……なるほど、見渡す限り男しか居ない。やっぱりこういう大食い系の店は女子珍しいらしい。


 十兵衛と一緒に来て正解だったわ。


 ……へぇ、この店並盛りと大盛りと特盛り全部同じ値段なんだ。同じ値段なら〜特盛ね!



「……マジか」



 なんで後ろの十兵衛は呆然としているのだろう?

 食券を買い、席に座る。



「トッピングの注文方法とか分かる? 俺が言ってあげようか?」


「は? 子供扱いしないでくれる? そんなの一人でできるわよ」



 初めてのラーメン屋じゃあるまいし……



「お待ちどうさまでした! お二人様……まずは彼氏さんの方から麺、野菜、ニンニクどうしますか?」



 ……彼氏、彼氏ね。私たち一応カップルに見えるの−



「ニンニクナシヤサイアブラカラメウズラアリで!!」



 え!? な、何なのよその呪文は!? こんなので伝わるわけがー



「かしこまりましたぁ!! ニンニクナシヤサイアブラカラメウズラアリ一丁!!」



 つ、伝わってるー!?

 え、ちょっと待って……私が想像してたやつと違うんだけど!?



「彼女さんは!?」



 ちょ、まって、聞いてくるのはや!?



「え、あ、えーと……彼と同じでお願いします!」


「え……寧々大丈夫か?」


「へ、平気よ……平気」



 な、なんとか注文出来たわ……それにしても何あの注文方法。あんなの呪文じゃない。



「ねぇ、どうして小刻みに震えてるの?」


「いや、なんて怖いもの知らずなんだろうって、一応ここお残しは厳禁だから……」


「いや、残さず食べるなんて当たり前でしょ?」


「……そっすね。もう俺も腹をくくるよ……」


「へい!! ラーメン小ニンニクナシヤサイアブラカラメウズラアリとラーメン特盛ニンニクナシヤサイアブラカラメウズラアリでーす!!」



 ーーはい?


 ドン! と目の前に置かれたのは巨大などんぶりに山のようにチャーシュや野菜うずら卵が盛り上がったラーメン? だった。


 ラーメン? いやラーメンなの? これ?


 完全に動きが固まる。いや動けない。



「なるほど、現実を受け入れられないのか」



 十兵衛は捨てられた可哀想な子犬を見るような目で私を見ている。



「あの十兵衛くんー野菜が多すぎて麺が一際見えないんだけど……」


「そうだね。見えないね」


「あのー十兵衛くん? こんな大きなどんぶり初めて見たんだけど……」


「そうだね。特盛りだからね」


「あ、あのじゅ、十兵衛くん。これって本当にラーメンなの? こんなの豚の……」


「それ以上は言ってはいけない……さ、早く食べないと伸びちゃうぞ?」


「お、おう……」



 く、こうなったら仕方がない……や、やってらるわよ!!

 私は必死に野菜の山に食らいついた。



「ふーふー、はふはふ……」



 うぅ……食べても食べても食べても麺が見えないぃぃ……もやし、キャベツ、もやし、キャベツ……


 なんとか、ある程度まで減らせたこど、正直この時点で腹5……いや6分目くらいまできている。



「こ、これは……!」



 やっと、麺が見えてきたと思ったらこの麺……長極太麺じゃない!? こ、こんなの食べ切れるわけが……うぅ……!!


 はふはふと極太麺をスープと野菜と一緒に食べる。


 !! 美味しい!! 濃いめだけどパンチが効いていて今までたべたことのない味!! これなら! 全部食べられそう!!


 満腹感を感じる前に一気に食べるしかない……! 


 私は完食に向け猛烈に食べるスピードを加速させた。



 30分後、なんとか完食した私たちは芝生で作られた広場で休憩していた。

 空はすっかり暗くなっていて、街灯屋イルミネーションが綺麗で雰囲気もあってか周りにはカップルか互いに意識している良い感じの男女がたくさん居た。



「コウジくん♡」


「ミユキ♡」


 というようにくっつきあっているカップルばかりだ。


 ……きっとここはそういうところなんだろう。まぁ、私たちの場合はお腹が破裂しそうでそれどころじゃないけど。いやそれ以前にカップルですらないけどね。



「あれは一般人が食べる量じゃなかったわよ……一体何カロリーあるのかしら」


「そんなの気にしてたらあの店にはいけないよ」


「……ていうか、小盛りだったくせになんであんたも苦しそうなのよ」


「……寧々の半分くらい残ってたチャーシューともやしと極太麺を食べたの俺なんだけど」


「………………」


「目を逸らすな」



 さて、動けるまでには回復したしそろそろ帰ろうかしら。これ以上このイチャイチャ空間にいたくないし。



「さ、帰るわよ」



 立ち上がると、十兵衛も同じことを思っているのか何も言わず立ち上がる。

 


「ユキちゃん♡」


「ノブヒコくん♡」



 ちょっと!? そこのカップル! こんなところでキスなんかしないでよ……!!



「なぁ、めぐ俺達も……さ」


「んも〜トウジのえっち」



 うわぁ……なんか周りのカップル達も影響されてキスし始めたんだけど。 


 空気を色に表現すると完全にピンクねここは……ハートが飛び交いまくりよ。嫌になるわ。


 ………………はぁ。



「っ!? 寧々?」



 私は十兵衛の胸に飛びついた。ぎゅっと力強く抱きしめる。

 いや、まぁ、なんというか、これは決して周りに当てられたとかじゃなくて……こんな状況じゃ私たちが浮いてしまうからやってるわけで。


 ……十兵衛の心臓の鼓動を感じる。驚いているからか、意識してくれているからかこれはどっちなのかな?



「……寧々、まさか」



 まさかの十兵衛が抱きしめ返してきた。



「……っ」



 息が止まるほど、力強い。なんというか慣れてない感がすごくて、でもそれがまたなんだか嬉しくて……なんだか、猛烈にキ


「吐きそうなのか?」


「…………………………」


「え、ちょっと、あれ? 怒ってる? 気を悪くすることを言っちゃった?」


「……別に」




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