第35話 鉢合わせ②
運が良いのか悪いのか、まさか華に声をかけられるとは思わなかった。隣には『なんでこんなところに居るの?』と目で訴えてくる黄瀬さんが居る。
そうか、黄瀬さんが渋谷駅にいたのは華と遊ぶ予定があったからか……!!
「こんなところで会うなんで奇遇だね!!」
「あ、ああ、うん。そうだね……えと、今日は黄瀬さんと?」
「うん! 本当は寧々ちゃんも誘って3人の予定だったんだけど、用事があるからって断られちゃった」
もしかして、その用事って……俺とのお出かけか?
だ、だとするとまずい! ここのままでは『俺との約束を優先して誘いを断った』寧々と『俺との約束を優先されて断られた』華がエンカウントしてしまう!!
そうなると気まずくなるに違いない!!
「はなちー? さとっちもきっと誰かと遊んでる最中だろうし邪魔しちゃ悪いから行こ?」
やよい〜!! ナイスフォロー!! ほんとすき! 大好き!!
「……ねぇ十兵衛くん。今女の子と一緒にいるんだよね?」
「へ?」
「だって、ここレディース専門のブランドだし、持ってる鞄のデザインも女の子もの……誰と遊んでるの? ていうか休日に二人っきりで遊べるほど仲がいい女友達なんていたんだね? 私、知らなかったよー」
「え、えっと……」
いつも通りの大天使のような笑顔。とても明るい声。天真爛漫のような可愛さ。だけどなぜだろうか? 今の華には謎の威圧感があった。
「は、はなちー……?」
そのことに黄瀬さんも感じているのか、かなり戸惑っている様子だった。
「で? 私の知ってる子? それとも知らない子?」
「え、あ、あ……」
「よかったら私にも紹介して欲しいな〜なんて?」
有無を言わさないその雰囲気に妙な恐ろしさを感じる。
まずい、下手に嘘をついたら余計事態が悪化しそうな気がする……!!
ここはもう素直に……!!
「……え?」
華の心底驚いたような表情と黄瀬さんの終わった……という表情で理解した。
「寧々ちゃん……?」
「……華ちゃん」
後ろを振り返ると両手に服を持っている寧々の姿があった。
なんてことだ……黒宮寧々と白咲華がエンカウントしてしまった。
あぁ、おわた。
「十兵衛くんと遊んでたのって寧々ちゃんだったんだ! よかった〜私てっきり十兵衛くんが知らない女の子と遊んでるのかと思ったよ〜」
先ほどの威圧感はなくなり、純粋な笑顔で胸を撫で下ろす華さん。
「なるほど。寧々ちゃんが言ってた用事は十兵衛くんとのデートだったんだね」
「で、デートではないけど、先に約束してたんだ。ごめんね? 華ちゃん」
「全然いいよ!! 先に約束してた方を優先すべきだし!」
「そう言ってくれると嬉しいな」
あ、あれ? なんか思ったより平穏に収まった? てっきり気まずい感じになるものかと思っていたけど……そんなことなかったのか。
なんだ〜俺の考え過ぎか!! どうやら早とちりだったみたいだ! いやー恥ずかしい恥ずかしい!!
「でも、十兵衛くんと寧々ちゃんがちゃんと仲良さそうで安心したな〜なんで私も誘ってくれないの!? って悲しくなったけど」
「あはは……」
「というわけで十兵衛くん。来週は予定空けておいてねー」
「え、あ、うん……え?」
「二人でどっかお出掛けしよー」
「お、おう……」
華の突然の提案に首を縦に振るしかなかった。
ここで断ったらなんで寧々だけとは二人で遊ぶの? ってなるし、自分とは仲良くなれないの? って空気にもなる。
それに俺と華は親友という関係。断るの方がおかしい。
完全に流れが出来た上での提案。なるほど、これが陽キャの誘い方……!!
まぁ、別に陰キャ元ぼっちの俺に断るという選択肢は最初からないんだけど。
「どこいこうかな……考えておくねっ」
「わかった」
複雑そうな表情をしている寧々の視線を感じながらスマホのスケジュール帳に予定を入れる。
「あ、そうだ。せっかくだから4人一緒に晩御飯でも食べない? こうして偶然集まったんだし!」
「私は別に良いけど……」
黄瀬さんがこちらを見て俺たちの様子を伺っている。どうやらこれから何か予定がないのか気にしてくれているらしい。
一応、寧々とはこの後ラーメンを食べに行く予定なのだが、俺としてはここで合流して4人で食べるのも楽しいかなと思ってる。だから華達と一緒に食べるものやぶさかではないのだが……
「……うん。私もそれで良いよ?」
寧々は『嘘』をついた。
それはきっと、この場の空気を読んでのことだろう。
『はぁ……あのねぇ、陽キャにとって空気が読めない=死なのよ』
バッティングセンターで行っていた寧々の言葉を思い出した。
空気をよむ。これは人間関係において重要な能力の1つだ。
でも、空気を読むということは……時に自分の気持ちを押し殺さないといけないのではなのだろうか。
「ごめん、実は二人で晩ごはん食べるところ決めてあるんだ」
「……え?」
寧々がおどいた顔をしながら俺を見る。
俺がいる時くらいは自分がやりたいことをやらせてあげたい。それがいかに傲慢なことかは理解している。
だけど、良いんだ。これは俺が友達として寧々にしてやりたいことだから。
「あ、そうだったんだ……ごめんね? そうとは知らず誘っちゃった」
「ううん。誘ってくれて嬉しかったし、というわけで俺たちそろそろ行くね」
「うん。じゃあね寧々ちゃん、十兵衛くん」
「う、うん……」
小さく手をふる華を見送られながら寧々が持っていた服を直す為、二人のもとを去った。
「なんで、華の誘い断ったの?」
ショッピングモールを出てラーメン屋に向かう最中、寧々にくいと袖を引っ張られた。
「私は別に4人でご飯言ってもよかったんだけど?」
寧々はそう言ってまた嘘をつく。
「……そうだな。寧々が嘘をついてたから、かな」
そういうと寧々はまるで図星をつかれたように目を逸らし、沈黙した。
「………………そうね、私はあの時、嘘をついた。じゃあなんで私は華達とご飯行くのが嫌だったのか分かる?」
「え? ラーメンが食べたかったからーいたい!! なんで足を蹴る!?」
「なんでそこは分からないのかな〜この鈍感は」
「……?」
「ねぇ……」
「ん?」
「……ありがと」
そう照れながらも言った小さな小声はしっかりと俺の耳に届いていた。
この後特盛のラーメンに二人で頭を抱えることになるのだが、それはまた別の話。
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