第31話 黄瀬さんと一緒


 


 どこかに遊びに行く相手が居ない俺の楽しい休日の過ごし方。


 それは超大型液晶テレビ・超大型高性能二人がけ電動リクライニングソファ・自室の倍以上に漫画とラノベが入っている本棚達・ジュースなどを入れる冷蔵庫などなど堕落道具が全て詰まった『休日部屋で』一日を過ごす事。

 

 注文した宅配ピザやあらかじめ用意しておいたお菓子などをジュースで流し込みつつ、だらだらと漫画やラノベを読んだり、テレビで配信アニメや動画を見たり、ゲームしたり自堕落に過ごす。


 ……もちろん一人で!! 



 しかし、最近1つだけ変わった事がある。



「さとちんー『5人の花嫁達』6巻から10巻まで取って〜」



 それはこの自堕落タイムに黄瀬さんが加わったことだ。

 

 電動リクライニングソファーをフル活用しながら漫画を読んでいた黄瀬さんが『はよ』と急かしてくる。

 

 以前、『推しアイ』を貸しに家まで来てくれて、その時この休日部屋を自慢したら気に入ってしまったらしく、こうして週末に黄瀬さんが家に来るようになったのだ。



「あ、ついでにコーラも」


「はいはい……」



 頼まれた漫画とコーラを渡して隣に座り、テレビのリモコンを取る。



「……アマプラスビデオでアニメみるけどいい?」


「ん〜」


 

 漫画を読んでいる黄瀬さんの許可が取れたので配信サイトでアニメを見ている中ふと思った。



 ……馴染みすぎだろ。



「おーこの漫画なかなか面白いね。ちな、さとちんは誰が推し?」


「うーん……強いていうなら次女か3女かな」


「わーオタクくっさ!」



 黙れ!!



「なるほど……さとちんはストレートに好意を向けてくるキャラが好きなのか〜」


「いや、別にそんなことは……」



 あるかもしれない……



「そして色々と尽くしてくれる奉仕系女子を好む傾向アリと」



 い、いけない、的確に俺の癖が暴かれ始めている



「あ、あ、というか、黄瀬さんなんでうちに? 黄瀬さんって休みの日は誰かしらと遊んでるイメージがあるんだけど……」


「ナンパされに街中徘徊してて、疲れたから寄っただけだけど? 今日はあんまりだったんだよねぇ〜」


「いつもの間違いでは?」


「おいちょい待て? しばくぞ? あのねぇ? これでも中学校の頃はそこそこモテてたし! それにちゃんとナンパされる日だってあるから!!」


「あ、そうなんだ……」


「おいしいご飯連れて行ってもらったり、楽しく買い物したり、遊んだり……もちろん男の全奢りでね!!」


「クソ女じゃないか」


「いやいや、こっちは買いたい物や食べたいものが食べれる。向こうは可愛い女の子とデートできる。互いに利害は一致した上でのことだから。ま、デートの一つや二つしたことがないさとっちくんにはわからないか〜」


「ぐ、ぐぬぬ……」


「ってあれ?『5人の花嫁達』劇場版アニメ化決定ってマ?」


「え? ああ、一応最後までやるみたいだけど」


「へーさとちんは観に行くの?」


「いや、流石にぼっち映画館はキツくて……」


「ふーん? それじゃ一緒に行く?」


「エッ!?」


「いやきょどりすぎ!! あはは!!」



 こ、このビッチがぁ……!! 人の姿をした寄生虫。他人に依存する事ばかりのなんておぞましい生き物……!! こんなビッチとは絶交だ!!



「はーおもしろ。んで?いつ行く?」


「はぇ?」


「いや、はぇ? じゃなくて、一緒に行くんでしょ?」


「え、あ、うん!」



 やよいっちほんと好きだ!! 大好き!! 俺たちズッ友だ!!

 


「……さとっちてさ、どんな私服持ってるの? それは部屋着だもんね?」



 俺の動きたくないTシャツを指差す。



「もちろん。これはあくまで部屋着だし、ちゃんと外に行く用の服も持ってるよ」


「だよね〜よかったーそれで映画見に行くって言われたらどうしようって思った」


「はは、全くー黄瀬さんたらーまぁ? 自慢じゃないけど、センスはある方だと思うよ?」


「…………念のため、どんな服を着るのか確認してもいい?」


「え? まぁ……別に良いけど、そういうことなら俺の部屋のタンス見る?」


「みる!!」


「あ、タンスの2段目にはパンツがあるから絶対に見ないでよね!」


「そんなのみるかぁ!!」



 バン!! と勢いよく扉を閉めて俺の部屋に入って行った黄瀬さん。

 

 スマホを触りながら待つこと20分。


 バン!! と勢いよく扉を開けながら戻ってきた。



「なにあれ!? クソだせぇー!!」


「えぇ!?」 


「特にこの中学生男子によくある謎フォントの英語が書いてあるTシャツ!! ほんとダサい!!」


「いや、これドイツ語だから……」


「そんなの心底どうでもいいわ!! 大量のファスナーが付いてた服も意味わからないし! なんか鎖もついてたし! あのドクロとか翼とか! 中途半端に破けてたし! ファッションセンスが完全に厨二!! 本気であれがカッコイイって思ってんの!?」


「お、俺からすれば他の奴らが地味すぎるんだよ……それに、映画行く時は腕とかにシルバーのアクセサリーとかつけようと」


「これ以上ドヤ顔でファッションを語ったら絶交だかんな?」


「……………………」


「なにをどう合わせても終わってる……はぁ、仕方ない。今お金ある?」


「え? えっと……あるけど」


「よし、それじゃ今から服を買いに行く!」


「え? 黄瀬さんの?」


「さとっちのだよ!! あ、服はジャージでいいや。そっちの方が千倍マシだから」



 ひでぇ……



「いや、服だけじゃダメだな……財布やバックとかも買っておくか……」


「え……流石にそうなるとお金が足りるか分からないんだけど」


「いいよ、足りない分は私が出してあげるから。うぅ……初めて貢ぐ相手がさとっちなんて……とりあえずさっさとジャージに着替えて来て!」


「は、はい……!!」



 こうして俺はジャージ姿で黄瀬さんと二人、買い物をするため街へと繰り出した。


 買い物途中、周りの人たちの視線を集めたのはいうまでもない。



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