第30話 独占欲と嫉妬と


『……あのさ、華ちーて意外と独占欲高い感じ?』



 私、白咲華は友達のやよいちゃんの言葉を思い出していた。


 家のソファーで寝転びながら、ただ天井を見つめる。


 ………………う〜ん。自分では自覚はないけど。他人から見たらそう見えるということは。


 うーん。


 考える。考える。


 ぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。



「どうしたんだよ。姉ちゃん」



 考え込んでいたら、弟であるテツヤ……テツくんが少し心配そうに話しかけてきた。



「……あのさ……私って独占欲強いのかな?」



 家族にはどう思われてるのだろうと少し気になったので聞いてみることにした。



「え? いきなりなに?」


「いやね。今日ちょっと友達に言われちゃってさー」


「ふーん……ん? ………………!!」



 私がそういうとテツくんは何かを察したような表情をしてしばらく口を押さえて黙り込む。


 こんな真剣顔久しぶりに見る。しかも汗もかいてるし……一体なにを考え込んでいるんだろう?



「……ちなみに、それ佐藤さんに対して独占欲が強いって友達に言われた?」


「え!? すご!? なんでわかったの!?」


「やっぱり……!! そうか、そういうことか……」



 テツくんはうんうんと感慨深そうに何度も何度も首を縦に振った。



 ……え、いきなりどうしたんだろう? なんか普通に怖いよ?



「なるほど……そうかそうか、とうとう姉ちゃんにも好きな人が……」


「え? なんで私の好きな人の話になるの?」


「え? だって佐藤さんに対して独占欲が強いって言われたんだろ?」


「うん」


「それって好きだからだろ」


「……え? そうなの?」



 ちょっと、『まじかこいつ……』みたいな目で見るのはやめてよ……お姉ちゃん悲しいよ。



「っはぁ〜〜〜!!」



 今まで聞いたことのないものすごいため息をされてしまった。

 

 自分の弟に。



「おっけーわかった。それじゃあいくつか質問するから答えてくれる? いや答えろ」


「は、はい……」 


「まず、姉ちゃんは友達の……黒宮さんと黄瀬さんだっけ? その二人のどちらか一人が佐藤さんと一緒に遊ぶことになったらどう思う?」


「えー? そうだな……」



 例えば、十兵衛くんと寧々ちゃんが二人で遊んでいるところを想像してみる。


 ………………ふむふむ。


 次に十兵衛くんとやよいちゃん。


 ………………ふむふむふむ。



「なんで私も誘ってくれないの!? って悲しくなるかな」


 なんか仲間外れみたいで。


「……それって嫌とかじゃなくて?」


「え? うん!! だって二人で遊ぶってことはそれくらい仲が良いってことでしょ?」


「……おお? ううん……なるほど……」


 難しい顔をしながら唸るテツくん。どうやら、予想していた反応とは違った見みたいだ。



「……それじゃあ、クラスの男子と佐藤さんが遊ぶってなったら?」


「……えっ」


 それって今日みたいに梶くん達と遊びに行くってことだよね? もし、今日あのまま十兵衛くんが梶くん達と行っていたら……

 

 私より、男の子同士の方がきっと………… 



「……あんまり、遊んで欲しくないかも」


「おお? それはなんで?」


「だって、男の子同士の方が楽しく遊べるでしょ?」


「まぁ、それはそうだな」


「私の知らない十兵衛くん一面とか出てきたりして……それで、みんなから受け入れられて仲良くなって男の子とばっかり絡むようになって……そうなったらきっと……」



 でも、それは良いことには違いなくて。みんなに十兵衛くんの良いところを知ってもらって、沢山の人に囲まれるようになる。


 間違いなく良いことなはずだ。


 なのに……



「……姉ちゃんはきっと、佐藤先輩が自分から離れていくのが怖いのんじゃないの?」


「……そうかも」


「中学校であんな事があったら当然か……うん。きっとそれは好きだからとかではなくて大切だから湧き出る感情なんじゃないかな?」


「……大切だから」



 そっか、これは独占欲とかじゃなくて……私は寂しがり屋で、自信がないのかもしれない。


 大切だから、臆病になっているのかも。



「うん、なんかすごくスッキリした! ありがとうテツくん! 私、お風呂入ってくるよ!」


「はいはい……ま、元気になってくれてよかったよ」



 私の顔を見て安心したような暖かい微笑みでテツくんは言った。



「あ、そうだ……これ聞くの忘れてた」


「ん? なんだね? 今の私はつよつよだからなんでも聞いてもらって構わないよ?」


「それじゃ、遠慮なく。お姉ちゃんは黒宮さんと黄瀬さん以外の女の子と佐藤さんが一緒に遊びに行くのはどう思う?」


「どうしてそんなことを聞くのかな?」


「……え?」


「だっておかしいでしょ? 男の子ならまだしもなんで十兵衛くんが私の知らない女の子と一緒に遊んだりするの?」


「いや、例え話だから」


「例え話だったとしてもそんな十兵衛くん想像したくない」


「お、おお……ご、ごめん」


「私、お風呂入ってくる」


「い、いってらっしゃい」







「……いや、姉ちゃん独占欲つよ」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る