第29話 白咲華の親友②


「ふ〜ん。親友ねぇ……そんなことがあったんだー」



 昼休み、いつもの体育館裏に向かう途中、白咲……華のことについて黒宮に詰められていた。


 今、近くには誰も居ないのでこうして裏黒宮節が炸裂しているのだ。



「あれー? 私、一昨日の通話でそんなこと聞いてないんですけどー?」



 怖い、黒宮さんの笑顔がすごくコワイよぉ…………



「あの……親友になったのは……昨日のことでして」


「昨日? どういうことよ?」


「えと、昨日白咲さんが家に来て……」


「はぁ? 華が? あんたの家に? まさか、自分の部屋に連れ込んでないでしょうね」


「いえ、黒宮さんの助言を生かしてリビングに案内しました!!」


「ふ〜ん? まぁ、それならいいか……で?」



「あ、はい……ケーキを食べて、少し自分たちのことを話し合って……親友になりました」


「いや、意味がわからないんだけど。なんでそこで親友になるみたいな流れになるのよ?」  


「それは……」


 

 正直、詳細までは言えない……なぜなら華の過去話もしなければならないからだ。


 小学校の頃、一人ぼっちで変わったこと。それでも周りから妬まれてしまっていたこと。


 これは勝手に俺が他人に話をしていいものではない



「ま、いいわ。話たくないというより、話せないみたいだし。そう顔に書いてある」


 

 俺の気持ちを汲んでくれたのか黒宮はこれ以上追求しようとはしなかった。



「……ありがとう。助かる……黒宮はやっぱり優しいな」


「ふん」



 礼を言ったら小っ恥ずかしそうに黒宮は顔を逸らした。



「それにしてもよかったわね〜かわいい、かわいい親友ができて」


「あの、言い方に少し棘を感じるのですが……」


「気のせいじゃない?」



 と、ここで黒宮がニコッと表向きの表情になった。

 黒宮の視線の先を見ると華がこちらに向かって手を振っている。隣にいる黄瀬さんはやけにジトっとした目で俺を見つめていた。


 ……今度は黄瀬さんに詰められるのかぁ。



「おーおーさとっちくん〜なんか遠い目してるところ悪いんだけどさぁ」 


 

 よいせと隣に座り、俺の肩に肘を乗せてくる黄瀬さん。

 


「話は聞かせてもらったんだけど、なんでそうなったん?」



 理由を聞いてきたということは親友になったという話は華から聞いたのだろう。知りたいのはそれまでの経緯か。


 自然と華と目が合う。


 うーん。この感じだと詳しいことは言いたくなさそうだな。



「え? ちょっと、二人ともやめてよ……なにその意味深な目でのやり取り……」


 えぇ……と黄瀬さんは俺たちを見て震えながら引き攣った。

 まずい、確実に黄瀬さんにあらぬ誤解を受けている……!!


「ひぇ…! やっぱりこいつら交尾したんだ……! コワ〜〜〜」


 いや、交尾って言うな。


「ち、違うよ!? やよいちゃん!! そんなことしてないよ!?」


「そんなことしてないって……だったら何があったのさ〜」


「そ、そうだね……簡単に説明すると……うーん」



 華も同じことを思ったのか黄瀬さんの言葉を否定し、どう伝えるのか考え込む。


 なんだろう、嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか? いや、ここは親友である華のことを信じるんだ……!! きっといい感じで納めることができる一言を言ってくれるはず……!!



「……簡単にいうとそう!! 契り……みたいな?」


 

 ※契り……将来のことを固く約束する。夫婦の約束を結ぶ。男女が肉体的な関係を結ぶ。



 ウワ、ワァーーー!!!! ダメだ!! 碌なことにならなかった……!!



(ヤッてるじゃん……!! 親友どころか夫婦になってるじゃん……!! さとっちくん!?)


(……もう何を言っても無駄かぁ)


(おい! 勝手に一人で悟んないでよ!!)



 混沌とした空気の中で昼休み終了の5分前までなんとかいい感じに説明して二人には納得してもらった。



 そう、これで終わりだと思っていた俺は甘かった。



「十兵衛くん!」



 放課後、いの一番に華に話かけられる。



「華……さん。どうかした……んですか?」


「もー敬語やめてって〜」



 つんつんと横腹を突かれる。ちょっとくすぐったい。 



「十兵衛くんこれから何か予定は」


「おーい、佐藤!」



 誰かに名前を呼ばれ、振り返ると梶くんさん率いる陽キャトップカースト男子グループの人たちが居た。


 以前にも言ったかとは思うが、梶くんさん運動部系ではないがイケメンで成績がよく、コミュ力が高いためクラスでもトップカーストのお方だ。


 俺は尊敬の意を込めて梶くんさんと呼ばせていただいている。



「梶くんさん? なにか? いや、何かありました?」


「なんで敬語? あと梶くんさんて」



 はは。とはにかむ梶くんさん。

 おお……!! 流石梶くんさん、なんて爽やかな笑顔なんだ……



「あ、いや、あまりにもコミュ力の差を感じさせる人と話すと思わず敬語で話して癖があって……」


「なんだよそれー佐藤ってやっぱり面白いんだな。今からみんなでマクトでポテト食べに行くけど一緒にくるか?」

 

「あ、え? ぁぁぁ……!!」



 そんな恐れ多い!! 

 いや、でももしかしてこれは千載一遇のチャンスなのでは!? これをきっかけに人との輪が広がり、一気にトップカーストの人間に!! く! 行きたい!!


 でも恐れ多い!! 

 


「梶くんごめんねー十兵衛くん、ちょっと人見知りなところがあってさー」



 背後から華が両肩を掴みながら体を密着させてきた。



「梶くんとはまだ打ち解けあってないし、それにあまり話したことのない人ばかりだから……申し訳ないんだけど遠慮しておくね。それでいいよね? 十兵衛くん?」


「え、あ、ウン」



 し、しまった……! あまりにはっきりと断るものだから口と首が勝手に動いて頷いてしまった。


 それにしても、なんか今の華はなんというか……絶対に俺を行かさないという強い意志を感じる。



「今日は私と行こっか! ね? 十兵衛くん?」 


「あ、ウン」


「というわけだから、ごめんね? 梶くん」


「あ、ああ……それは別に全然気にしてないけど……白咲、なんか……いや、また誘うよ」



 そう言いながら梶くんさんは俺たちに手を振りながら教室を出て行った。



「それじゃ、私達も行こっか」


「あ、あの……華ちー?」



 俺たちのやりとりを見ていた黄瀬さんがおそるおそる、躊躇いながら話しかける。



「ん?」


「……なんか、怒ってる?」


「え〜? 全然怒ってないよ? 私はただ十兵衛くんは私達以外と交流するのはまだ早いんじゃないかなって思っただけだから」


 まるで人見知りの子供を心配している母親のようなことを言われてしまった。

 

 まぁ、実際華の言う事も一理あるのでなにも言えないけど。



「そ、そっか……あのさ、華ちーて意外と独占欲高い感じ?」


「え? なんで?」


「いや……だって、あのねねっちでさえ、さとちんと仲良くなろうとする男子相手には圧というか牽制をかけてなかったから……」


「やよいちゃん〜? 『あのねねっちでさえ』ってどういう意味かな〜?」


「げっ!? いや、これは……!!」



 黒宮と黄瀬さんのやりとりを聞きながら俺たちも歩き出した。

 

 


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