第28話 白咲華の親友①
朝、いつもより早くの時間に登校してきた俺は自分の机の中を整理していた。
なぜこんなことをしているのかって? 話す友達もいないし、やることもないからだ。
「おー佐藤おはよう」
「お、おはよう」
ただ、前とは少し違うところはこうして色々な人に声をかけられるようになったことだ。
いつも席について即寝る俺にとってこれは大きな一歩に違いない。
すると黒宮が教室に入ってきた。
一斉に声をかけ始める男子達、そんな光景に面白くないと感じながら見ている女子達。
まぁ、いつも通りの光景だ。
黒宮を見ていると彼女と目が合った。すると驚いたように目を大きく見張る。
ああ、今日はいつもより学校に来るのが早かったからな。それで驚いているのかもしれない。
そんなことを思っていると黒宮は笑顔で一直線にこちらに向かって来る。
「おはよう。佐藤くん」
「おはよう……」
黒宮はどこか不満げな表情をしながらぐっと距離を積め、顔と顔が触れ合いそうになるくらいまで縮まった。
「ちょっと、あんた今日早くない? どおりで探しても見当たらなかったわけだわ。なに私に黙って登校する時間帯変えてんのよ」
誰にも聞かれないと確信しての話し方だとは思うけど、なかなか理不尽なことを言われてしまった。
「いや、今日はたまたま……早めに準備ができたから家も早めに出れただけで」
「ふぅん? 今日はたまたまってわけか……ま、別にどうでもいいんだけどね」
どうでも良いんかい。
「ていうか、登校中俺のことわざわざ探してたのか? え? なんで?」
「…………うるさい」
顔を赤くさせた黒宮は逃げるように自分の席へと戻って行った。
「おはよー!!」
ん、この天真爛漫な声は白咲さんか……隣には黄瀬さんも居る。
ふむ、白咲さんとは悩み相談もしたし? お互いの過去も話合ったし? そもそも彼女とは親友になったし?
だから、まぁ? 朝の挨拶で手を振るくらいしても問題ない……はず!!
目立たないよう白咲さんに向かって小さくおはようと手を振る。気づいてくれたのかピタっと白咲さんの目線こちらに止まった。
「あ、十兵衛くんだ。おはよっ、今日もいい天気だね!」
一瞬で教室の空気が変わった。
黒宮・黄瀬さんを含むこの場にいるクラスメイト全員が俺、白咲さん、俺、白咲さんと交互に俺たちの顔を呆然としながら見つめている。
そんな空気を感じたのか白咲さんはきょとんとしながら俺の元にきた。
俺含めこんな空気になったのは白咲さんが俺のことを名前で呼んだことについてだろう。
休み前までは『佐藤くん』だったのに、今日になったら『十兵衛くん』。一体何があったんだと、疑問に思う奴もいるだろう。いや、全員が思ってるか。
「今日はいつもより早いね?」
「え? あ、う、うん……白咲さんは黄瀬さんと一緒に?」
「もーっ十兵衛くんは他人行儀だなーっ はなでいいよ?」
「!?」
ざわっ……!!
白咲さんの言葉に、教室全体が明確にざわめく。以前話しかけられた時も相当だったが、今日はそれ以上だ。
「エッ い、いや……流石にそれは……」
「えーだって私だけ十兵衛くんの事名前で呼んだら私の一方通行みたいじゃん……!! これじゃあ私だけが大好きみたいな……そう! 片想いみたいでしょ?」
おい、やめろ! 言い直すな!! 何上手いこと言えたみたいなドヤ顔をしているんだ!? 全然上手くないから! むしろ状況が悪くなってるから!!
『おいおいまじかよ……』
『まさか、佐藤くんと白咲さんってそういう?』
『白咲華彼氏概念は存在していた?』
隣に黄瀬さんは動揺しているのか汗をかきながら目をぐるぐるさせ子鹿のように震えている。
「ね、ねぇ……華ちーさん。一応きくけど、十兵衛くんって?」
「え? やだな〜佐藤くんの事だよ? 佐藤十兵衛くん。やよいちゃん名前覚えてないの?」
「え? い、いやそうじゃなくて、なんで名前で呼んでるのかな〜って」
「え? うーん……ちょっと恥ずかしいからここでは言えないなぁ〜♪ ねっ? 十兵衛くん?」
白咲さんは楽しそうに言いながら俺にくっついてきた。
黄瀬さんは呆然とした表情で見て、次に俺に視線を向けくる。なんだか気まずくなり、視線を逸らす。
さーと顔を青くさせ、黄瀬さんは両手を俺の肩にのせアイコンタクトをとってきた。
(え、さとちん。もしかしてヤッた?)
(ヤってない!!)
(いやいや、何この距離感!? この前までこんなんじゃなかったじゃん!! あの一体何があった!? また何か隠してるでしょー!?)
(この前報告した通り弟さんの事で相談を聞いただけ!!)
(……ベッドの上で?)
(違う!!)
(それじゃこれはどう説明がつくの!? 華ちーって意外と心のガード硬いから相談に乗っただけじゃこうはならないよ!? あ、もしかして……昨日何かあったな?)
(……………………………)
「目逸らしすなー!!」
黄瀬さんのツッコミを苦々しく受け止めているとぽんぽんと軽く肩を叩かれた。
「ーむぎゅっし、白咲さん?」
振り向いた瞬間、俺の頬に白咲さん指がめり込む。
驚きながら白咲さんを見ると明らかに不満そうな顔をして頬をぷくっと膨らませながら俺の目をじっと見つめていた。
「別にいいんだけどさ〜なんかさっきからやよいちゃんのことばっかり見てるよね? こっちもちゃんと構ってくれなきゃいじけちゃうぞ〜?」
(なんか彼女みたいなこと言い出してるんだけど!? え!? まじで一線超えた!? 卒業おめでとう!?)
(本当に違うんだってー!!)
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