第27話 忘れたい過去と初めての親友


『いいか、十兵衛。才能ある者は皆、孤独だ。お前には類まれなる才能がある。今は分からないだろうが、いずれ知ることになるだろう』



 小学校の頃、よく父親が俺に言っていた言葉だ。


 正直、その時は意味が分からなかった。小学生の時は友達もいたし、勉強もスポーツも普通だったから。



 しかし、中学1年生の春、才能が開花する。


 そのせいで、小学生の時からの友達と気まずくなり、距離を置かれた。


 その時、理解した。かつて父親が言っていた言葉を。



『孤独にならないようにはどうすればいいか? 簡単だ。自分の才能を活かせば良い。勉強、芸能、武道。あらゆるものの頂点を取れ。他人はそのあとからついてくる』



 だから俺は父親が言った通りにした。


 勉強・芸能・武道。あらゆる分野にチャレンジして、頂点に立った。誰かにそばにいて欲しかった。ひとりぼっちが嫌だったから。


 確かに、最初は先生も、クラスメイトも、みんなが俺を見ていた。純粋にみんなが俺を褒めてくれた。


 お前はすごいやつだと。



 だけど、みんなからの賞賛の言葉に違和感を感じ始めた。


 それはきっと、妬みを含んだ本心からの言葉ではなかったから。周りを気にしてとりあえず褒めるそんな感じだった。


 多分この時期からだ。人の嘘をわかるようになったのは。



『お前さ、俺らのことバカにしてるだろ?』


『才能があるからって生意気なんだよ』


『なんで学校来てんのお前?』


『ほんと、いい迷惑だよ。君のせいでこれまでの努力が無駄になる』


『お前が居たら一番はもう決まったもんじゃん。くだらね』



 俺のことを妬み出した奴らも大勢現れた。 

 


 うっとしかった。

 俺はズルや反則をしているわけではない。正々堂々と実力で勝負している。それなのになんでそんな悪口を言われなきゃならない? 実力がないお前達が悪いんだろう。


 そういう奴は金田みたいにそいつの土俵で完膚なきまでに叩き潰し、心を折って黙らせた。


 気がついたら、俺の周りには誰もいなかった。


 なんのために自分の才能を活用しているのかを見失っていた俺にとって当然の結果だった。

 


 そのことに気づくと周りが見えるようになった。


 周りの期待を裏切ってしまったと泣き腫らす人や悔しさで死にそうだと嗚咽混じりに一人漏らす人。


 それはそうだ。


 優勝トロフィー、金メダル、金賞。学年主席。全てたった一つだけ。


 それを手にするのは頂点にいる人間、ただ一人。


 自分以外を蹴落とさなければ手に入らない。


 そんな姿を見て、ふと思った。


 なんの情熱も、覚悟も持たない俺がこの人達を蹴落とす資格があったのだろうか?


 正直、今までやってきたことは目的ではなく、孤独にならない為のただの手段。


 俺がこれまで勝ち取ってきたトロフィー・メダル・表彰状全てがガラクタも同然だった。


 だから、あの部屋は俺が才能をひけらかしていただけだということを表している黒歴史なんだ。


 もう、誰も傷つけたくなくて、でも、誰かと一緒にいたくって、孤独は嫌で……誰かと関わりたい。そう強く思う。


 そんな資格。俺にはないかもしれないけど。



「結局、大切なのはコミュ力だ。才能じゃなくて、俺自身を見てくれる人。一緒にいたいと思わせるような人間にならなきゃいけないんだ……白咲さんみたいに」



「佐藤くん……」


「とりあえず、ここまでが高校に入るまでの話かな」


 話がひと段落してようやく一息つく。


 あれ、話し終えて冷静になってきたけど、なんか重くないかこれ? 

 と、友達とはいえ話す内容じゃない気がするぞ……?


 …………あ、やらかしたなこれ。



「えい!!」



 白咲さんは頭を抱えていた俺をぎゅっと抱きしめた。そのせいで俺の顔が白咲さんの胸に埋まる。


「あ、え? 白咲さん?」


「……私も、わかるよ。佐藤くんの気持ち」


「……え?」


「まぁ、佐藤くんに比べたら大した事じゃないかもしれないけど、中学時努力して変わったけど嫉妬されて色々陰口言われたり、仲間外れにされた経験があったから……周りの人が自分から離れていく怖さは分かる」



 ぎゅっと抱きしめる力が強くなった……



「怖いよね? どうしてって思うよね? 何がいけないんだろうって思うよね? 私たちはただ……誰かそばにいてほしかっただけなのに」



 白咲さんの本音がポロッと溢れでたような気がした。



「……ね、佐藤くん。私たち親友にならない?」


「……え?」


「私達、心から共感し合える仲になれると思うんだ。だから……その、私の親友になってくれたら……嬉しい」



 声が震えている。緊張しているんだ。あの白咲さんが。



「……そ、その俺なんかでよかったら……よろしくおねがいします」


「ほんと? よかったぁ……改めてこれからもよろしくね?」


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします?」



 この時、思っても見なかった……このやり取りを境に白咲さんの俺に対する距離感がバグってしまうということを。



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