第26話 白咲さんとケーキと過去


 

「こんにちは! 佐藤くん!」


 休日、午後1時。インターホンが鳴って玄関を出たらそこには私服姿の白咲さんがいた。ケーキ箱を2つ持っている。


 

「こ、こんにちは……」



 い、一体何が起こってるんだ? なんで白咲さんが家に?



「これ、昨日のお礼にと思って!」


「え? あ、ありがとう……」



 お礼を言いながら白咲さんからケーキ箱を受け取る。



『また明日ね!!』



 あれはそういう意味だったのか…… 


 ど、どうする? わざわざここまで来てくれたのにこのまま帰ってもらうのは失礼なのでは?


 い、一応……家の中に招待した方がいいのだろうか? 


 そ、そうだ! 金田みたいに下心丸出しのように誘ったらどうだろう? そうすれば白咲さんも警戒して断るだろうし!



「……あの、よかったら、お茶でも? その……今家には誰も居ないからさぁ。へ、へへっ」



 うわぁ、めちゃくちゃ気持ち悪いな俺。死にたくなってきたんだけど……

 ま、まぁ嘘はついていないし。流石にこれなら白咲さんは家に入って来ないだろう。



「え!? いいの!? お邪魔しまーす!」



 えええええええええええええええ!?

 嘘だろ!? 今ので入るか普通!? 気持ち悪がって帰るだろ!?



「ど、どうぞ」

 


 困惑しながらも白咲さんに我が家に入って貰った。



「とりあえず、2階の俺のへ」



『ていうかあんた、女の子を初っ端から自分の部屋に連れ込むのはどうかと思うわよ?』


『なんかいやらしいことをされるんじゃないかって警戒するわよ普通』



 あっ!!



「じゃなくて、リビングに案内します……」


「? うん」



 あ、危なかった……また自室に連れ込もうとしていた。ありがとう。黒宮の助言!



「へーここが佐藤くんの家かぁ……!!」



 目を輝かせながらあたりを見渡す白咲さん。特に物珍しいものとかはないのに楽しそうだ。


 とりあえず、楽しんでもらっている間に準備をするとしよう。



「あ、私も何か手伝うよ?」


「えっと、それじゃあそこの棚に皿があるからケーキを移しといて」



 ひょこっと顔を出す白咲さんにケーキのことをお願いする。待ってもらうのもいいけど、白咲さんの場合逆に気を遣わせてしまいそうだからここは役割分担するとしよう。



「コーヒーか紅茶どっちがいい?」


「紅茶で!」



 俺は自分のコーヒーと白咲さんの紅茶を用意する。

 確か、義妹が置いていったティーパックがあった筈……あ、あったあった。


 準備は滞りなく終え、ケーキをいただく事になった。


 俺のケーキは抹茶タルト。白咲さん、前に俺が抹茶が好きだって言ってたことを覚えてくれていたのか。なんかこういうのって嬉しいな。



「どう? 美味しかった?」


「うん。おいしかった。ありがとう白咲さん」


「へへーお口にあってよかったよ」



 ケーキを食べ終わり、紅茶を飲んでいる白咲さんの顔をじっとみる。俺は白咲さんに1つ聞いてみたいことがあった。



「ん? どうしたの?」


「あ、えっと……どうして俺なんかのために色々としてくれるんだろうって、カラオケとか」


「……んーそうだね。佐藤くんになら、教えてもいいかな?」



 白咲さんはグーっと背筋を伸ばして、俺の顔をじっと目つめた。見たことがないほど、真剣な表情をしている白咲さんを見て、思わず背筋を伸ばす。



「私もさ、佐藤くんと一緒だったの」


「え?」


「私も小学生の頃は友達がいなくてね。ずっとひとりぼっちだったの」



 信じられなかった。今ではみんなの人気者である白咲さんが……



「それで、中学校になって、このままじゃダメだって思って……勉強や外見磨きとか色々と頑張ったんだー」


 

 なるほど、自分を変えるために白咲さんは努力して今の白咲さんになったんだ。


 ……そんなの、俺とは大違いじゃないか。



「だからさ、私は私がして欲しかったことをやっているだけなんだよ」



 そう言って笑った。


 そうか、だから白咲さんは陰キャでぼっちの俺なんかのことを気にかけてくれたのか。


 すごいなって思った。白咲さんは簡単に言うけど、自分がして欲しかった他人になるのは難しいことだ。その時に誰にもしてもらえなかったら余計に。



「あ、ごめん佐藤くん。お手洗い借りてもいい?」


「うん。リビングを出て、一番端にあるから」


「ありがと」




「……はぁ」



 思わず天を仰いだ。

 白咲さんの過去を聞いて改めて思う。本当に優しくて、すごい人なんだと。


 そんな彼女が俺なんかと友達?



「そんなの厚かましすぎるだろ……」 



 思わず溢れた言葉は誰にも聞かれず消えていった。

 とりあえず、白咲さんが戻ってくるまで、この気持ちを落ち着かせよう。


 立ち上がり、皿をキッチンに持っていき、そのまま手洗いする。ついでに昼ごはんの分の洗い物も済ませ、元の位置に戻った。


 

「……ん?」



 白咲さん遅くないか? もう10分くらい経ってるのに……いや女の子はこれくらい長いのが普通なんだろうか?


 廊下を見るくらいなら……と思いリビングを出ると扉が開いていた。


 俺の黒歴史が詰まった部屋の扉が。



「……っ!?」



 まさか、まさか……!!

 躍動する心臓をおさえながら部屋に向かうと



「あ、佐藤くん……この部屋にあるたくさんのトロフィーや表彰状って……」



 白咲さんは心底驚いたような顔をして俺に聞いてきた。


 そう、この部屋は中学生時代俺があらゆる分野で取った金メダルや優勝トロフィー、金賞の表彰状が保管されている部屋だった。



 どうやら俺も自分の過去を白咲さんに話さないといけないみたいだ。



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