第32話 黒宮さんとの待ち合わせ


『(ねーね)明日、渋谷ハチ公前に13時集合ね』


『え? なんで?』


『(ねーね)明日、渋谷ハチ公前に13時集合ね』


『了解しました』



 というやりとりがあり、俺と黒宮は休日に待ち合わせすることになった。


 服装は好みじゃなかったけど、黄瀬さんと一緒に買った服を着ている。


 渋谷ハチ公前に着き、時間を確認すると12時。

 ……待ち合わせの1時間前についてしまった。流石に黒宮もまだ来ていないだろうし、辺りをぶらついて時間を潰そうか。


 そんなことを考えていると


 ………………居た。


 待ち合わせの1時間も前なのになぜか、私服の黒宮がハチ公前でスマホをいじりながら立っている。


 あれ? 待ち合わせ時間13時だよな?



「お、さとっちじゃん」


「うお!?」



 いきなり背後から話かけられ驚きながら振り返ると黄瀬さんだった。

 な、なんでここに? もしかしてまたナンパされに渋谷徘徊か?



「お、ちゃんと私が選んだあげた服着てるじゃん」


「ま、まぁ……」


「ふむ……我ながらナイスコーディネート」



 俺の姿を見ながら満足げに頷く黄瀬さん。



「ていうかなんでさとちんこんなところに来てんの? あ、アニメート?」


「いや、実は」


「ん? あれ? ねねっちじゃない?」



 いや、聞けよ。


 黄瀬さんは興奮した様子で少し離れた黒宮の様子を観察する。

 もはや俺がここにいる理由に興味がないようだ。



「こ、これは……!! 相手は完全にかれぴもしくは本命ですな」


「え? いやいやそんなわけ……」


「いやいや、だって見てみ? 自分の可愛さを100%利用した見るからにガチのコーディネート。頻繁に手鏡で前髪確認。少し緊張が見られるソワソワ具合。絶対かれぴか本命だよ。まぁ、童貞ボーイのさとちんには分からないか」



 童貞ボーイで悪かったな。


 しかし、黄瀬さんが言っていることが本当なら……つまり、黒宮は俺のことがす、好きだってコト!?


 ま、まさか……!! 俺は……デートというやつに誘われているのでは!?



『この際だから言っておくけど、あんたみたいな何の取り柄もなくて暗くて地味男すごく嫌いだから』


『あんたみたいなぼっちでコミュ障な陰キャに、この私が惚れると思った?』


 

 ……いや、ないか。

 黒宮さんの言葉を思い出し、スンっと冷静になった自分がいる。

 本命? かれぴ? はは、ないない。



「……ん? 気合いを入れているねねっち。珍しく渋谷に居るさとちん……妙だな……」


 そう言いながら疑いの目でこちらを見てくる黄瀬さん。



「………………え、もしかしてねねっちと待ち合わせしてんの?」


「そうそう。なんか知らんけど呼び出された。あ、よかったら黄瀬さんも一緒に」


「バカたれ!!」 


「いたっ!?」


 

 なぜかキレ気味の黄瀬さんに割とキツめに背中をぶっ叩かれてしまった。すごく痛い……



「さっさと行ってこいこの鈍ちん鈍感野郎〜!!」


「痛い、痛い! わかったから! 行ってくるからこれ以上殴らないで!!」



 激おこの黄瀬さんに背中を押されるように黒宮の元へと走り出す。

 近づいて来た俺に気づいた黒宮は目を大きく見開き驚きながらもスマホを鞄にしまった。



「お、お待たせしました」


「……いや、あんた……まだ1時間前なんですけど」


「それを言うと黒宮だってまだ1時間前なのになんでもう来てるんだよ」


「う、うるさいわね……私はほら、あれよ……場所を確認するためにちょっと早めに来ただけだから……いいから行くわよ」


「あ、はい」



 歩き出した黒宮の後を慌てて追いかけ、隣に歩いている黒を見る。


 やっぱり、黒宮は可愛い。学校中の男子を夢中になっている理由もわかる。

 黒宮寧々は制服も私服も可愛いのだ。



「……なにジロジロ見てんのよ。きもいんですけど」



 性格は全然可愛くないけどな!!



「いや、今日の黒宮も可愛いなって思って。服、似合ってると思う」



 黄瀬さん直伝『女の子と遊ぶときの必須テクニックその1女の子の服装は必ず褒める』


 これで掴みはバッチリな筈……


「……っ!? あ、あんた、コミュ障陰キャのくせに……なんでそんなことを平然と……ほんとそういうところよ?」



 えっ!? 褒めたのになんか怒ってる!? き、黄瀬さん!? 話と違うんですけど!? 


 はっ、これはまさか『陰キャ&センス0のくせに私のファッションを評価しようなんておこがましいのよ。死ね』ってことなんだろうか?

 


「……そ、その、あんたも……きょ、今日のあんたも……か、か……」



 か? まさか、カッコ悪いって言いたいのか!? 



「カッコ……悪くないんじゃない?」



 カッコ悪くないんじゃない? これはつまり……どういうこと?



「う、うん。そう、悪くないわね。あんたのことだからてっきり『謎フォントの英語』とか『大量のファスナー』や『意味のない鎖』あとは『ドクロや翼』とかがついてる厨二病まっしぐらの服を着て来そうだったから安心したわ」


「…………………………ちなみにそういった服を着て着てたらどうなってた?」


「そんなの決まってるじゃない。家に帰らせてジャージか制服に着替え直し、一日あんたの服を買い回る」

 


 あ、危ねぇぇぇ!! ありがとう。ほんとありがとう! やよいっち!! うあはり持つべきものは友達だと心の底から思った。



「………………意気地なし」


「え? 今なんか言った?」


「別に、私のコトだから気にしなくていいわよ」


「はぁ? そういえば聞いてなかったんだけど、今日の予定って?」


「私が行きたいと思ったことろに行く以上」


「とりあえずノープランなことだけはわかった」


「ま、ひとまずは昼ごはんね。行きたいカレー屋があるからそこにするわよ」


「りょ、了解でー」



『なぁ、あの子可愛くね?』


『それな? めっちゃ可愛いツーか隣にいる冴えないやつだれ?』


『なんであんなヤツが一緒に歩いてんの?』


『ばっか、決まってるだろレンタル彼女的なヤツだよ』



 街中を歩いているだけでこんな感じの会話が聞こえてくる。まぁ、学校中の男子を夢中にさせるほどの容姿をもつ黒宮だ。こうなることは予測していたし、覚悟もしていた。



「…………」


「黒宮?」



 黒宮は何か言いたげな表情をしながらこそこそと話している男達を見ている。



「もっと近くに来なさいよ」


「え? だってこれ以上近づくと」


「あーもう、いいから!」



 ピタッと触れ合うくらい距離を詰め、俺の腕に手を回した。



「これくらい見せつけてやったほうがいいでしょ。あんたもこの私の隣に歩いてるんだからもっとシャキっとしなさい」


「は、はい」



 まるで、カップルのように腕を組みながら二人で渋谷の街を歩いた。

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