第21話 友達の友達



「あのさぁ、言っておくけどあんなのモテ期でもなんでもないから」



 体育館裏でお昼ご飯を食べていたらいきなり黒宮から鋭利な言葉が飛んできた。おそらく、先程教室でクラスの女子たちに囲まれて食事に誘われていたことを言っているのだろう。



「……いや、そ、そんなことは〜……思ってないです」



 すいません、嘘です……めちゃめちゃ思ってました。ワンチャン期待してました。



「は? いやいや、あれは完全に浮かれてたから、デレデレした情けない顔してたから、ほんと哀れすぎて見てられなかったわ。どうせあのまま5人でお昼ご飯で話をしても、あんたはふにゃふにゃした言葉で『ふぉあ〜』とか『ふへぇ〜』とかしか喋れないでしょ? それで余計に焦って『あ、わ、ワァ』とかしか言えなくなってまともに会話ができずに最悪な空気になるに決まってる。それで普通に引かれて二度と絡まれなくなって、一丁前に落ち込む姿が目に浮かぶわ」



 黒宮史上一番の長文。そしてキッレキッレの悪口。ちょっと泣きそう。



「あー!! いたー!!」



 天真爛漫な声が聞こえ、前を向くと白咲さんがこちらを指差していた。その後ろには黄瀬さんも居る。



「華ちゃん、それにやよいちゃんも……どうしたの?」


「どうしたの? じゃないよっ寧々ちゃんいきなり佐藤くん連れ出して教室出ちゃうから……」



 それで気になって俺たちを探していたというわけか。まぁ、あんな教室の出方をしたら気にもなるだろう。



「なるほど、ねねっちはここを対金田の避難場所にしてたわけか〜よっこいせ」



 黄瀬さんは納得したように頷きながら俺の隣に座った。



 え? もしかしてここで食べるの?


 黄瀬さんが座ったのを見て、自然と白咲さんも座りお弁当を取り出した。


 まじかよ。この4人で食べるの? お昼を? うぁ〜!! めちゃくちゃ居心地が悪い〜!!


 いつもつるんでいる仲良しのグループ中にぼっちが一人という地獄みたいな状況な上に俺以外女子。


 側から見たらハーレムに見えて羨ましいかもしれないが、最高に気まずくて辛い。



「あ、そうだ。ぼちお、ロイン教えて」


「!?」



 いきなり、黄瀬さんがスマホを差し出してきた。

 

 ふぉわ〜!? あ、わ、ワァ……しししょ初手でいきなり連絡先交換だと!? 今時のナンパでさえそんなことはしないぞ!?


 しかもぼちおってなに!? まさか、ぼっち男だからぼちおつけたんじゃないだろうな?



「コードでいい?」


「お、おぅ」



 慌ててポケットにしまっていたスマホを取り出す。



「やよいちゃん。ぼちおって?」 



 俺の心の中を言葉を黒宮が代弁してくれた。



「え? ぼっち男だからぼちお」



 俺、こいつ、嫌い。

 ウェーブのかかった茶髪、着崩した制服、ゆるふわ系で派手なギャルだし、見るからに陽キャだし、陰キャぼっちの俺と相反する存在だ。



「あ、でももうぼっちじゃないか」


「……へ?」



 黄瀬さんの言葉の意図がわからなかったので思わず彼女の顔を見つめる。



「いや、へ? じゃないでしょ? うちら友達だし」


「!? そ、そんな、俺たち初絡みだし、初手で友達認定するには早すぎるというか、そんな簡単に友達とか言って大丈夫?」


「えー? 何それめんどくさ。私が友達になりたい思ってるんだからそれでいいじゃん。だから連絡先も交換するんだし、さとちんはいやなの?」



 さ、さとちん!? は、始めてあだ名で呼ばれた……!!



「あ、え、え、べ、別に嫌だなんて言ってない……」


「じゃ、友達でいいじゃん」



 黄瀬さんは「ん」とコードを表示したスマホを差し出した。


 き、黄瀬さん……すき……!!



「お、アイコン葵ちゃんじゃん。さとっち推しアイ見てんの?」


「え? あ、うん。漫画原作の今期アニメでおもしろくて……知ってるの?」


「うん。アニメ見てるし、漫画も持ってるよ〜」



 ギャルってアニメ見るんだ!? 漫画読むんだ!?



「そ、そうなんだ……俺はアニメしか見てない」

 

「へー? 今度、漫画貸してあげよっか?」


「え、あ、い、いいの?」


「んー今度持ってくるわ」



 お、おたくに優しいギャル? ま、まずい。本当に好きになってしまいそうだ。



「やよいちゃん、急に佐藤くんと絡んでるけど、どうしてかな?」



 黒宮はあくまで普通に笑顔で黄瀬さんに聞いているが、尋問しているように感じるのは俺だけだろうか?



「えーだってさ、さとっちって今まで全然喋らないから『得体の知らない謎の男』だったんだけど、金田との事件で一気におも……濃いキャラだったのが判明したからねぇ〜」



 金田との勝負がきっかけで無個性で影の薄かった俺の印象が良くも悪くも変わったということだろうか。

 


「それにねねっちや華ちーからさとっちの話をよく聞いてたし?」



 俺の話? ……それ大丈夫か? 馬鹿にされたり、ディられてないか?



「まぁ、二人の話を聞いてるからさとっちへの意外と印象は良きだったんだよ」


「へぇー」



 印象が良かったと言うことは少なくとも悪口は言われていなかったということかだろうか。



「ま、私がさとっちと絡もうと思ったのは……あの金田にジュースをぶっかける意味かわからない『図太さ』と意気消沈していたらしい金田にゲロをぶちまける『容赦のなさ』が決め手かな?」


「……黄瀬さんの中の俺って結構ヤバイやつになってない?」 



 

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