第20話 クラス内での変化と嫉妬
とうとうこの日が来てしまった。
金田とのバスケ勝負の後ゲロってしまって以来初めての教室。
い、行きたくない!!
憂鬱な気持ちになりながら靴を履き変えて教室前に着く。
ああ、俺が教室に入った瞬間、変な空気になるやつだ。絶対そうだ。俺はぼっちだから詳しいんだ。
一応、白咲さんがフォローしてくれているみたいだが……流石に白咲さんでもゲロゲロパニックまではフォローしきれないだろう。
ここは覚悟して心を無にして……感受性を殺しておいたほうがいい。
まず、教室に入ったらあれだ。金田に謝ろう。ゲロをぶっかけてすいませんでしたと。
……よし、いくぞ。
………………………………
ふーーーーよし……これで気が練られた。
いざ…………ふん!!
………………………………
………………いや、やっぱりタンマ。10秒後にー
「ちょっと、さっさと開けなさいよ」
「うわ!?」
いきなり背後から声をかけられ、振り返ると黒宮がジトっとした目で俺を見つめていた。
「いや、ちょっと。心の準備を……」
「何それ、早く入るわよ」
あ、ちょ!?
ばん、と気にする様子もなく黒宮は教室の扉を開けた。
「みんなーおはよ〜」
黒宮の挨拶にクラス中の視線が集まる。男子たちはいつものように黒宮に向かって返事をしたり、手を振ったりしてる。
それに答えるように手を振り返す黒宮。その様子はまるでアイドルとファンのようだ。
よし、黒宮の圧倒的存在感のおかげか、元々俺の存在感が薄いのかはわからないけど、今の所俺の方に声がかかる様子はない。
このままさにげなく自分の席に着かせていただくとしよう……
「寧々ちゃんおはよー……あ! 佐藤くんだ!!」
白咲さんの一言でクラス中の視線が俺に集まった。
あぁ……終わった……
「佐藤くんおはよ! もう体は大丈夫?」
「あ、お、おはよう……うん。1日休んだら元気になった」
「そっか、そっか。いやね? もし、今日も休んでたらお見舞いに行こうと思ってたんだ〜」
や、やめて! これ以上燃料を投下しないで!!
この前みたいにクラスから中からの好奇な目線や陰口の類が聞こえてーー
………………あ、あれ? 来ないぞ? な、なんで?
前はクラス全体の空気が陰キャぼっちのくせにみたいな空気だったのに……
多少の視線は感じるが、だからと言って誰も何も言ってこなかった。
これはつまり、白咲さんのフォローのお陰なのか?
え? まじ? あのゲロゲロパニックのやらかしさえ白咲さんはフォローしきれるの?
白咲さんすげぇ……!!
「お、佐藤。あはよう」
「ぼぁ!? お、おはよう」
「具合はどうだ?」
「え、あ、今ののことは大丈夫……です」
「あんまり無茶するなよ〜」
ぽんとすれ違いざま肩を叩きながら挨拶してくれたのは梶くん。金田とは別のグループの男子。
梶くんは運動部系ではないがイケメンで成績がよく、コミュ力が高いためクラスでもトップカーストのお方なのである。
まさに、俺が中学生の頃なりたかった理想そのものだ。だから心の中で梶くんさんと呼ばせていただいている。
正直、話したこともないし接点すらなかったのにどうして声をかけてくれたんだろう?
……いや、今はそれより金田だ。
教室内を見渡すと隅の席でぽつんと一人ぼっちの金田の姿があった。
あいつの顔には生気がなく、ただ一点を見つめている。
昨日、黒宮に教えてもらったことだが、バスケ勝負後、金田は黒宮に一切絡まなくなったのはもちろんだが、バスケ部もやめたらしい。素人に負けた事をバスケ部全員でバカにされたからだとか、いじめがあったからだとか色々な噂があるらしい。
まぁ、実際の理由は金田にしか知らないんだけど。あ、ちなみに6人の彼女には全員振られたらしい。女というものは非情である。
それに……いつも一緒にいた取り巻きの姿が見当たらない。
つまりは……そういう事なんだろう。
「金田……この前、ゲロをかけてごめん」
「あぁ……」
金田は俺の顔を見る事なく答えた。反応が薄い。これ以上話しかけてもこれ以上の反応は返ってこないだろう。
とりあえず、ゲロをかけたことは謝れたので俺は金田の元を離れた。これが原因でいじめとかされなければいいけど。
金田の場合、これまでの行いが行いだからな……あいつを気に入らない生徒がいたっておかしくはない。
昼休みになり、弁当箱を持って立ち上がる。金田があんなことになったので、黒宮が体育館裏に避難する必要がなくなった。
つまり、今日からまた一人飯だ。気楽になったという思いと寂しいという思いがある。
「あ、ねぇねぇ佐藤くん!! 一緒にご飯食べない?」
「えっ?」
いきなり、クラスの女子からお昼を誘われた。もちろん話したこともない初絡みの女の子だ。
「あー私も一緒に食べたい!! ていうか佐藤くんと話したい!」
「実はこのバスケ勝負から気になってたんだよねー」
「そそ、朝来るの遅かったから話かけられなかったけど、昼休みならゆっくりとお話しできるんじゃないかって」
さらに3人の女の子がこちらに近づき声をかけて来たのである。この子達も今まで全く接点などなかったのに、どうしていきなり?
「ア、えと……?」
あっという間に4人の女子に包囲され、逃げ場を失う。
な、なんだ? 何が起こっている?
ま、ま、ま、まさか、これは噂に聞く……モテ期という奴なのでは!?
「佐藤くんはいつもどこでご飯食べてるの? よかったらそこでー」
「佐藤くんっ!!」
黒宮が強引に割って入るように俺の手を掴んだ。いきなりの黒宮の乱入に他の女子は戸惑っている。
「みんな、ごめんね? 今日、佐藤くんは私と約束があって……」
え? 約束?
「……そうなの? 佐藤くん?」
いや、俺が聞きたいよ。黒宮と約束なんて……
「したよね?」
「あ、は、はい……」
し、しまった。つい反射的に答えてしまった。
「とういうことで、私たちもう行くから」
ぽかんとしている女の子達をよそに黒宮は困惑する俺の手を無理やりにぎって、教室を出た。
手を握ったまま、二人で廊下を歩き続ける。
……なんだか、カラオケの出来事を思い出すような流れだったな。まぁ、今回は立場が逆転してるけど。
気のせいか黒宮の握る力が強い気がする。
「く……黒宮さん。手が痛いんですけど」
「あそ、これくらい我慢しなさいよ。男でしょ」
えぇ……
「……? 黒宮さん、もしかして機嫌が悪い?」
「……別に」
メガネを外さなくても、こいつが嘘をついていると分かった。それほど、わかりやすい嘘だった。
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